【完結】ダンジョン配信者山田オリガくん、不本意なバズり方をする~ パワーアップのために諸肌さらしただけでわざとじゃないんです!性癖を破壊する意図なんかありません!!
第六話 山田オリガくん、相手の健康を気遣う!!
第六話 山田オリガくん、相手の健康を気遣う!!
職員さんは、人格の練れた本当に優しい人であった。
いくらなんでも男性と信じてもらうために股間を握らせようとしたら、同性同士でもアウト。そして助けに来たはずのナターシャが職員さんを加害者と決めつけ腕をねじり上げたのは名誉棄損でもある。
オリガとナターシャの二人はお互い事情を説明し合うと平身低頭して被害者にお詫びし。職員さんに慰謝料の支払いにも応じますと伝えた。
被害を被るのみだった職員さんはなぜかナターシャに「おかげで目覚めずにすみました」と感謝の言葉を述べ、穏やかな微笑みで二人を返してくれたのだった。
二人は職員さんの優しさに、つい泣きそうになった。もちろんけやぶったドアの修理代は受け取ってもらった。
「はぁ……」
オリガは自己嫌悪の真っ只中だった。
配信会社の待合室にある長椅子で腰かけ呻いている。
一番の目的であった『今後も乳首を晒してもBANされないようにしてほしい』という望みは叶いそうにない。少なくとも丁寧に応対してくれたにも拘わらず迷惑をかけた職員さんにもういちど同じ要求を提出できない。
いくら自分の乳首が問題だと言われたとはいえ、いろいろとアカン事をしてしまったオリガは――じとーっとした目で自分を見つめるナターシャに視線を向けた。
お色気マシマシの舐めプ配信者であってもオフの時は下着の見えないパンツスーツにパーカー、帽子。こうしてみると実に整った顔立ちで、正直豊満でなければイケメンで通りそうだ。
「……あの。それで何用でしょう。ぼくをじっとさっきから見て。お話があるのでは?」
オリガは後ずさった。
先日に『やらないか』された身としてはあまりにも当然の反応。避けられている、と悟るとナターシャは切ないような悔しいような気持ちになりながら……激しくすり寄ってオリガの両手を取った。
「頼む、オリガくん! ボクとカップル配信してほしいんだ!」
「カップル配信?」
カップル配信。
恋人同士の関係になった男女が共同でやる配信だ。
ただオリガはきょとんとした。
「あの。ナタさんって今回の騒動でフォロワー数を大幅に伸ばしましたよね」
「ああ。おかげでフォロワー数も10万が見えてきたよ」
「わぁ、おめでとうございますっ。
ですが急成長なさったならわざわざぼくと組まなくても」
視聴者の数が増えれば広告費など収益も増える。もともとセクシーさと挑発的な言動などで人を集めていたが、今後は活動の幅も増えるだろう。祝福の言葉を述べる。
だが……ならどうして自分と組みたがるのか。オリガは少し考えて言う。むー、と警戒の色を強めた。
「……もしかしてアカウント凍結されたからぼくの配信を乗っ取ろうとでも?」
「そんな事したら君のフォロワー20万に焼き尽くされちゃうよ」
オリガはその言葉に首を傾げた。
確かに先日の配信でフォロワー数は5万人を超えた。以前は100人ほどだったことを考えれば一大快挙だが……朝方に見た時は少しずつ勢いも収まってきた。7万程度で終わりだろう、というのがネットに詳しい妹のヒナの見立てだった。
「ぼくのフォロワーさんはそんなに多くないですよ」
「……もしかして、トゥウィッターをチェックしていないのかい?」
「え? ええ。それはそうですよ。役所の人にお話しするんだからミュート設定にしたんですが」
「今すぐ確認したまえ」
首を傾げつつも端末の液晶画面に目を落せば……オリガは、数万を超える『いいね』の数に目をくらくらさせた。
「なんですかこれ」
「ふふっ、それはもちろん君の引き起こしたトレンドさ」
そうして検索数トップに輝く言葉に、オリガは嫌な既視感を覚えた。
『#ぼくの乳首は合法です』
恐らくそれはただのきっかけだったのだろう。
朝方、オリガがナターシャに対して行った書き込みに対して……数千単位で引用RTが繰り返されていたのだ。
”ぼくとしては乳首をさらしただけで、ナターシャ=更級さんが巻き込まれて凍結されたのは大変遺憾です。
ぼくの乳首は合法です。
凍結解除の申請をしておきました”
"ぼくのw 乳首は合法ですってw
"あかんw 腹痛いw”
”正直オリガくんほど可愛いと『いや君の乳首は非合法w』とか言いたくなる”
”どすけべ警察だ! 乳首を見せろ!”
”アッー!! スケベ! スケベすぎる!”
”(英語)外国から見てるけど彼のスケベ動画、センシティブ判定されてる。あー! 見たい! 彼の乳首動画をくれ!”
”日本始まったな!”
などから始まったブームは途中から別種の展開を見せ始める。
この空前の乳首ブームに乗っかろうと有名な配信探索者の一人が『#ぼくの乳首は合法です』『#オープン乳首ドスケベフェスティバル』のハッシュタグをつけて、上着を脱ぎ捨てて、乳首を晒した動画や画像を公開し始めたのだ。
もちろんみんな面白がって男性探索者が次々と乳首を晒し始める展開に。
”ウホホッ///”
”私得すぎるw(女)”
”雄っぱい! 雄っぱい!”
”なに? なんなの? ここはわたしの待ち望んでいたヘブンなの????”
”この空前の乳首ブームでもトップの『サカウラ』は乳首さらしてねぇか~”
”あいつ少しずつフォロワー減ってるから乗るかと思ったけど”
”誰か説明してくれよ!!”
”デデデッ!”
もはや探索者界隈ではお祭り状態になり、ニュースサイトでも取り上げられる始末に。
”あーっ! 羨ましい! 妬ましい!!”
”男性の配信探索者がこのブームに乗っかって乳首さらしてフォロワー増やしてる!”
”おねがいオリガくん! わたしたちも一肌脱いだらフォロワー増えるイベントを起こして!”
”こういうポルノが大っぴらに広まってるのは嘆かわしいってオリガくんに凸してる活動家いて草”
”しかも周りがみんな『彼は男性だよ』って言ってるのに、頑なに認めてねーし”
”オリガくん反応ないね”
”映画見る時みたいに電源きってるかな”
「なんですかこれ」
「言ったじゃないか、キミの引き起こしたブームさ。
この『#オープン乳首ドスケベフェスティバル』はね!」
「変な名前をつけないで下さい!」
「ボクは負けを認めるよ。いつも胸チラ下着チラをしてフォロワーを増やそうとしていたのに。
美少年の乳首一つであっさり覆された。キミこそが真のドスケベだ」
オリガはムムム……!! と唸った。
以前あった時にドキドキしたセクシーなイケメン麗人に『お前がナンバーワンだ』と言われて心の中では不平不満でいっぱいだ。
「ナタさんのほうがドスケベじゃないですか! それがどうしてカップル配信に繋がるんですか!?」
「ふふふ」
ナターシャはオリガの形良い顎に手を触れさせ、顎を上げさせる。
ちょっと遠距離で見ていた職員や来客などが、イケメンが美少女の顎に触れてる光景と思って密やかに注目されている中でナターシャは笑った。
オリガは手でナターシャを払いのけ、恥じらいで顔を背けながらもチラチラと相手を見る。
ナターシャは自信ありげに笑った。彼の視線が乳に引き寄せられているのはお見通しだ。
彼女もこれまでセクシー系配信者としてやってきた身。自分の体のどこが異性の視線を引き付けるのか熟知している。
カップル配信……もちろんナターシャはオリガのファンに叩かれるだろう。だがオリガ自身が受け入れたなら外野がでしゃばる余地はない。そしてたった昨日と今日でフォロワー数20万を達成した彼とカップルになれば恩恵は大きい。
「まぁ……ボクも多少は計画的に考えているさ。
オリガくんも、ボクも配信者としての成長、そして深層域へ赴くことを目標としている。それは間違いないね?」
「ええ、そこは。はい。
ああ、なるほど。
こくり、と頷くオリガ。
ナターシャは言う。
「オリガくん。ボクらは先日知り合ったばかりの関係だ。さすがに恋愛感情なんてものはないけど。しかし利害関係での結託はできる。
やるのは『清純で無垢で可憐な男の子』を何かと口説き落そうとする『スレたハンサムなあばずれ』というショーだよ」
その……自分自身をあまり大事にしているとは思えない言葉にオリガは首を捻る。
「……清純で無垢? ぼくが???」
「イメージさイメージ。だいたいの人はタバコ吸ってる女を不良として見がちだからね。
おまけにボクはキミにいきなりセックスのお誘いをした変態女だよ? ならこの悪いイメージを最大限活用するんだよ。
君は
ふむ……とオリガは考え込んだ。
確かに深層域に挑むならば頼れる仲間を増やしたい。あの時ゴブリンを事も無げに殲滅し尽くした手腕を見れば実力は折り紙付きだ。
もちろん――ナターシャ=更級にも思惑はある。
オリガが糸使いという希少なクラスであり、高度な索敵能力を持っているのも素晴らしい。
だがそれ以上に彼女にとっては公然とオリガを口説ける機会を得られるほうが大きかった。だってそう……さっきから平静を装って会話しているけれど、彼の美貌を見ているだけで胸の奥が喜びでざわめいてくるのだ。
――すこ。助けて、アッアッむり、顔がいい、声がかわいい、むり、しぬ、ケッコンしたい――
先ほどからナターシャの頭の中では推しとリアルで出会った限界オタクみたいな言語が木霊していた。
それでも年上の自制心やら何やらを総動員して耐えていたのだが。
「……ええと、付いてきてください」
オリガは周囲を見回してから……ナターシャの手を取った。
小柄と華奢な体躯からは意外な力強い手で引かれてナターシャはそれに従う。
(ふぅん……?)
ほんの少しだけ意外な気持ちになる。
自分からカップル配信を要請したのだから、一歩進んだ肉欲も絡む関係になることも予想内だ。
まぁ当然か。彼が何歳かはまだはっきりしていないが、手を伸ばせばそこにいいなりになる女がいるのだ。自制していられるほうが不思議だろう。
自分の魅力に彼が嵌ったことに対する満足感と、よくある男性の範疇を超えなかった彼への理不尽な失望を覚えながら、ナターシャは物陰に引っ張り込まれる。
こうしてみるとナターシャはオリガより頭一つ分大きい。キスをせがまれるなら屈んであげないとね、と考えていたナターシャは、オリガの手が自分の豊満な胸元に伸びるのを見て、かすかに身を固くし。
彼の手は胸ポケットにねじりこまれた煙草を一つつまんで持ち上げた。
オリガは、真剣な目で言う。
「この煙草、『クライマックス』ですね?」
「えっ? 今聞くことなのかい、それは」
オリガは頷いた。
「以前あなたに煙を吹きかけられた時に気づきましたけど。この煙草は服用した人の交感神経に作用し、意識の集中を促します。
感覚は鋭敏になり、後ろにだって目が付いているような強力な作用をもたらしますけど。
ただし副作用としてリラックス状態の副交感神経優位が起こりにくくなり、不眠症を引き起こすと言われます。
……ナタさん、あなた。夜から朝までぐっすり寝た経験が最近は無いのでは?」
「……そんなことまでわかるのかい?」
「目に隈がありますよ」
……オリガの言う通りだ。
いくらセクシーな体と服で視聴者を釣ったり、舐めプで視聴者を沸かせようとも限界はある。
最初は良くても次はよりスリリングに、よりデンジャラスに。視聴者を継続して沸かせようとするなら実力では手の届かない危険な行為が必要で。それを実現するには体に無茶をさせる薬物に手を出さなければいけなかった。その疲労が、化粧では取り繕えないほどになっていたのか。
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