1-5
食後、遅くなってしまったがやっとこの時間が来てくれた。この時間だと、もう真野も家に帰ってるかもしれないが、ワンチャン賭けていつも待ち合わせに使ってる公園に行ってみよう。
それにしても、久々に妃花と下校したり、美海が部屋から出てくれたりとか、今日はやけに懐かしい気持ちになることがあったな。
服を着替えて、携帯をポケットに入れ自室を出ようとドアノブを捻った。そして、引いてみると、
ガチャ。ガチャガチャ。
「お、おいおい!?」
ガチャガチャガチャガチャ。
「あ、開かない!?」
どうしてだ? この部屋にカギなんてないぞ。この感じ何かに引っかかってるわけじゃない。
確かにロックが掛かっている。
もしかしてと思って、窓の方に行くが……。
「こっちも開かねぇええええ」
ど、ど、どうなってるんだ!?
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モニターの奥で、部屋の中でのたうちまわる兄さんの姿を見る。けっこう面白いぞ、これ。
「やっぱ、あの女のところに行こうとしてるじゃん」
滑稽な兄さんの姿をみると、なんだかとってもムカムカしてくる。兄さんに対してでも、兄さんを誑かした女に対してでもなく。あんな女に惹かれるほど兄を追い詰めてしまった自分自身に。
携帯が震えた。自分の携帯が鳴る事なんてめったにない。でも、今は一人だけ覚えがある。
「もしもし、美海ちゃん?」
携帯の先で、ハツラツな声が響いた。引きこもりで根暗の自分とは正反対、本来なら絶対に合わない種類の人。
兄さんのクラスの委員長さん。名前は確か軽井メイさん。
「美海ちゃん、お兄さんはちゃんと家にいる?」
「えぇ、委員長さん。ばっちり閉じ込めてます。今日は絶対に行かせませんから。私がずっと監視してます」
「か、監視!? なにそれ、うらや……」
「委員長さん?」
「ゴホン、美海ちゃん。委員長さんじゃなくて、名前で呼んで欲しいな。メイさんとか、メイちゃんとか、め、メイおねえちゃんとか」
「……メイさん。わ、私。メイさんに感謝してるんです。私、ずっと引きこもってて、兄さんの事なんて全く無視していて。兄さんが追い込まれていたことにずっと気づかなかった。メイさんが教えてくれなかったら……」
「ううん。いいのよ美海ちゃん。それに私も美海ちゃんの話を聞いて、事の重大さに気づいたわけだし。何だっけ? ふぁむふぁたーる? だっけ?」
「はいそうです! 男を堕落させる魔性の女。それがファムファタール! 兄さんが、バイトを辞めたり学校をサボったりしている理由が、真野玲子っていう女の人にあるならとても危険です。兄さんは自分のすべてをその人に捧げてしまうかもしれない」
そうなったら、私も道連れだ。
でも、私たち兄妹はあの日、誓ったんだ。絶対に二人で生活して、二人で生きて、ちゃんとした大人になるって。
「それはダメだね! 美海ちゃん、一緒に柴野君を元に戻していこう!」
「はい! よろしくお願いします!」
引きこもりになってしまった私を兄さんは見捨てなかった。誓いを先に破ったのは私だ。
だからこそ、今度は私が兄さんを助ける番だから。
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電灯が一つだけぽつりと立ってベンチを照らす、公園の片隅で私は人を待っている。
「あーあ、そろそろ帰らないと。補導されたら怒られちゃうなぁ」
今日は一体何度公園の入り口の方に視線が向かっただろうか。それを数える気は起きないけど、その数が多いほど私の好きも大きい気がする。
足元に転がる缶コーヒーの空を蹴り上げる。
最後にもう一度。
そう思って、入り口の方を見るが柴野くんの姿はない。
「あーあ、携帯欲しいな」
あんなもの人間関係に縛られるだけの呪いのアイテムだと思ってたけど。今は欲しくてたまらない。どこにいても何時でも彼と繋がれるなんて。
「柴野くん、会いたいなぁ」
満天の星空を見上げてそんな悲劇のヒロインみたいな言葉を溢してみたり。
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青春ラブコメがファムファタールを許さない!! 岩咲ゼゼ @sinsibou-r
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