1-2

「あぁ、真野に会いたいよぉ」


 昼休み。菓子パンを齧りながら、俺は呟く。

そんな俺を見て、席の向かいに座っている友人の城崎が呆れたように溜息を吐いた。


「何度目だよそれ……」


「何度だって呟くさ! 授業中だって真野のことが頭から離れなくて全く身にならなかったし。これじゃあ、今日はサボってずっと彼女といるべきだった。そのほうが何十倍も有意義だったはずだ」


「おい、もうやめろよ」


 城崎は、俺の肩に手を置いて無理やり落ち着かせた。


「それに、声がでけぇよ。ほら、ちょっと食べかすがこっちに飛んでるし」

「あぁ、ごめん。……ていうか、なんか城崎。変に焦っていないか?」


「ん? まぁ……な」


 見ると、城崎は全く俺のほうを見てなくて教室の奥側を見ていた。一体何があるんだと、思って振り向くと、女子同士でキャッキャ話しているグループがある。その中心には軽井さんもいる。


 普段と変わらない光景。城崎は何を焦っていたんだ?


 俺が困惑しているともう一度、城崎は溜息を吐いた。


「まぁいい。とりあえず、真野玲子の話は学校では控えろ。真野っていったら不登校で、学校に来ないで街をぶらついている遊び人だろ? いい噂なんてお前の口からしか聞かないし、逆に悪い噂ならどこからでも湧いてくる。そんな不良生徒の話をしてたら、お前のイメージだってどんどん悪くなるぞ」


「真野はそんな奴じゃない!」


「どうどうどう、落ち着いてくれよ。マジで。本当にあまり話さない方がいいんだって」


 そういいながら、城崎はまた軽井さんの方をちらちら見ている。そして、俺が振り向くと別に何もない。


「なんだよさっきから」


 城崎は頭を抱えて「勘弁してくれよ」と呟いた。


 一体どういうことかと、もう一度振り向くと今度は一瞬軽井さんと目があった気がした。


 もしかして、軽井さんが俺を見ていた?


「ていうか、俺がもう聞き飽きたんだって。真野、真野、真野、真野。お前って真面目でクールな感じだったのに、カノジョができてから熱くなるタイプなんだな。あんなに頑張ってたバイトも全部辞めたんだろ? なんかもう別人になったんじゃないかとも思ったよ」


 ――ん? カノジョができてから?


「城崎、勘違いしてるぞ」

「は? 何が」


「俺は真野とは付き合ってないぞ」

「……マジか、ブフォッ!」


 城崎が急に、口を押さえて吹きだした。


 なんだよ、人が真面目に話しているのに。そんなに、俺が面白いのか。


 付き合ってもない女子のために、バイトを辞めて学校をサボって。それでも会いたいっていうのに。


「いや、すまん。なんでもないんだ。ただ、軽井が」

「軽井? ……なんか、さっきから軽井さんのほう見ているみたいだけどなんなんだよ?」


「いや、いいんだ。……(こいつ、軽井がさっきからこっちの話気になってソワソワ見てきてるのに気づいてないのかよ。付き合ってないって言った時には体乗り上げてたぞ)」


「……? なに、ボソボソ喋っているんだよ」


 よくわからないが、なんだか惨めな気分だ。


 好きな人のために全力である。そんなかっこよさそうなことなのに、なんで俺はこんな気分にならないといけないんだ?


「はぁ。真野……」


「だーかーらー。それ、やめろって!」


 そんなことの繰り返しで昼休みは過ぎ去っていった。

 

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