第4章第4節「夢から揺すり起こされて」

 苛烈さを極める獄楽都市クレイドルによる攻撃は留まるところを知らない。

 魔法郷アルカディアの奇跡的な調和が取れた景観も、今や破壊によって崩されてしまっている。街を縁取っていた緑には炎が燃え移り、火の粉は木を燃やし尽くす。アルカディアがいったいどれほどのものを費やし秩序を保ってきたか。

 それをよく知るデュナミスは、蹂躙されたアルカディアの街並みに心を痛めていた。

「なんて悍ましい光景。まさかこんなにも早く目の当たりにしなければならないとは……これが現実だとは受け容れがたいものだね」

 肌に照りつける炎の熱。吸い込んだ空気に含まれる咽せるような灰。嵐や瓦礫によって一部を欠損した死体。それらは全て現実であり、彼女はしっかりと目に焼き付けた。

 崩落した時計台の跡地を歩きながら、首を、目を、手を、口を動かす。現実だということを強く認識するように。

 そして、彼女は瓦礫にもたれかかったある男のもとで足を止めた。彼は目を閉じていて、ピクリとも動かない。崩れた髪を硝煙の混じった風が撫でる。眠っているとも、気絶しているとも、死んでいるとも取れる。彼を起こすまでの間、デュナミスはそこに様々な可能性を見出していた。

 ただ一つ分かったのは、周囲にはいつしか四足歩行の獣に似た魔導兵士プレデターの群れが近づいているということ。彼女は自分が置かれている状況を理解してか否か、膝を折って男に語りかけた。

「終末論も、理想も、夢も、全ては不可能であることを前提としている。つまり、それらが現実になってはいけない。願望が願望たる所以は、叶えられるかどうかではなく、叶えられないからこそ。果たして彼らが掲げる正義は実現できるのかどうか……」

 愛しい我が子に語りかけるような声色は、彼の耳に届いているのだろうか。デュナミスは言葉の途中でしばらく黙り込む。

 なぜなら近くから瓦礫が崩れる音が鳴り、プレデターの接近を知らせたから。彼女は目をわずかに動かして視界に映さずとも察した。

 このままでは、彼女にさえ生き延びられる保証はない。だが、彼女には恐れや怯えといった表情がなかった。

 代わりに、目を閉じた男の頬に触れようと手を伸ばした。まるで彼を眠りから起こそうとするように。

「……」

 しかし、頬に触れる手前で止める。手をゆっくりと戻したかと思えば、彼の背中と足に手を伸ばす。

 そうして彼を抱き抱えて立ち上がったデュナミスは、ようやく周囲を視界に映した。すっかり二人を包囲していた数体のプレデター。彼らはここで殺され、淘汰される運命となるのだろうか。

「君は、どう思う?」

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