第2話

 2人でいると、「距離が近すぎる」とよく言われる。言われてみればそうなのかとは思う。

 眠気もあって若干頭が冴えないため、僕は未だに燈摩の右腕に掴まっていた。


「いつまで掴まってんの」

「眠いから」


 燈摩の方が僕より少し身長が高い。そして僕よりかっこいい。

 そのため一緒にいると僕が彼女ポジションだった。


「いいな、廻は私と違って可愛げある」

「燈摩は僕と違ってかっこいいじゃない?」


 ないものねだりというやつか。お互いが欲しいものを持っている。


「あ、ここ」

「雰囲気良さげなところだねー。」


 いざ入ってみると、奇跡的にテーブル席が一つだけ空いていた。

 向かい合って座り、この店の一押しだと思われるメニューを注文したその時、事件(事故)は起こった。


「······廻?」


 黒髪のロングヘア、クールな雰囲気の美女だった。

 数秒後、それが彼女だということに気付く。


「あっ、えっ、えーと······、」


 彼女は僕の幼児期からの幼馴染みで、小、中、高と同じ進路を進んでいる友人だった。

 狛士麗奈はくしれな。たしか現在も委員長を務めていたはず。クールやしっかりもので実は押しに弱い。


「久しぶり。3ヶ月ぶりね。」

「あっ、そーだねー······。」


 どうしたものか。ここからの展開が読めない。下手に会話を切り出しても、受け身を続けてもどうなることか。


「王子燈摩さんね。廻と仲良くしてくれてるみたいで。」

「どうも委員長。下校途中に寄ったって感じかな?」


 良かった。一旦燈摩に移ってくれた。


「一人ってことは、カウンター席にでも座るつもり?よかったらここ座れよ。」

「ならお言葉に甘えて。」


 なぜそうなる?


「王子さんは廻の愛人?」


 なぜそうなる?


「いや、まあ近からず遠からず」


 なぜそうなる?


「そう、それは違うと捉えていい?」


 もう聞くのは止めよう。


 麗奈は僕にとって恩人であり、おそらく楓さんや燈摩と等しく理解者だった。は特に世話になった。

 彼女にだけは本心を吐露していた。きっと僕が突然不登校になったことにも、あまり驚いていないのだろう。


「それで廻」

「はいっ」

「今楽しい?」


 どういうことか。意図はわからないが、包み隠さず本心を伝えた。


「······うん、楽しいよ。」


 紛れもない本音だった。彼女が不登校やまるで不良のような状態にどんな感情を抱いているのかわからない。でも······。


「それなら、よかった。」


 でも彼女なら、きっと受け止めてくれると信じることができた。


「廻は幼馴染みで、友達で兄弟みたいに思ってるから。学校来なくなって心配してた。」

「うん。」

「でも安心した。それに王子さんもいるからよりね。」


 燈摩と麗奈に関わりはなかったはずだが、もうそれなりに打ち解けたらしい。

 まあ、友達と友達が仲良くなってくれるのは嬉しいことだが。


「学校に来いなんて言うつもりはないけど、気が向いたら2人とも来てみて。」


 本当に僕は、周りの人に恵まれている。


────────────────────


○廻と麗奈について○

 麗奈は廻の姉貴分でもある。かつて病んでいた廻を一番側で支え続けた。そのため廻は麗奈に頭が上がらないところがある。

 廻が溢す日々の辛さや苦しみの声を聞き、慰め、落ち着かせていた。廻の軽い精神安定剤。


 麗奈は昔、廻に怪我をさせた男子生徒を殴り倒したことがある。


「麗奈、僕······、(泣)」

「廻は、頑張ってるよ。(泣)」

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