Daily #8 ぷち修羅場

「私が言える立場ではありませんが、もう少し素直になりましょうよ」


 目の前に対峙しているその人は、呆れたように私を見る。


 断言できるのだが、私は天邪鬼だ。

 それは元々彼が飲んでいたコーヒーを啜っているこの人からも指摘されたことだ。

 素直でいられたら、ここまで彼と口論することもなかっただろう。


 途中まで軽快な会話をしていたはずが些細なことで喧嘩になり険悪な雰囲気になってしまった。

 あ、これはやばいな、と思った矢先に突然彼が消えたのと入れ替わりでこの人が現れたのだ。


 最初は要領を得ない話し方で不安になり、背後にいた白狐の飯綱いずなに助けを求めた。飯綱は一瞬気配が揺らいだと思うと、小声で私に耳打ちをしてきた。


(仲がいいの? って聞いたんだけど、あまり良くなかったみたい)

(え? 私と彼が?)

(うん。何か理由があったのかなって思って、彼に聞いてみたの。ゆきは知ってる?)


 心当たりがあるとすれば、ひとつしかない。飯綱に礼を言うと、飯綱はすうっと気配を消した。

 その間、目の前にいるこの人は面白そうにこちらを眺めていただけだ。


「彼も彼ですよね。あの言い方は彼が悪い」


 私と彼は真逆のようで似ている。売り言葉に買い言葉。大人のようで子供。

 そのくせ嫌われるのが怖くて本心が言えず、限界まで我慢してしまうのだ。


 この人と会話を重ねて分かったことは、私たちを見かねたこの人が仲裁しようと出てきてくれたのだそうだ。

 心当たりのある私は謝るが、何度謝っても彼が現れてくれない。

 どうしたらいいのだろう。私は途方に暮れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る