Daily #7 タランチュラ過激派

「はー、スッキリしたー!」


 手にはめていた使い捨てのポリエチレン手袋をゴミ箱に捨て、掃除機やハンドモップなどの掃除道具を然るべき場所に片付ける。


「拭き上げよし、ゴミのまとめよし、洗剤その他諸々の補充よし、タランチュラ対策よし。よっしゃ、今週の掃除タイムおっわりー! キレイなのは気持ちがいいねぇ」


 よきかなよきかな、と部屋を見渡すと満足そうに頷き、私は窓を閉めた。


 私は毎週一回は必ず家の掃除をするようにしている。エアコン掃除は二ヶ月前に終えており、他の細かい所も少しずつ地道に拭き上げているために今年の年末の大掃除は窓拭きと換気扇のみで済みそうだ。


 ちなみにタランチュラ対策というのは、退治用のスプレーを使うことだ。掃除をする度に空間全てに吹き付けているので消費量は凄まじいが、心の安寧あんねいと引き換えならば安いものだ。


 畑を持っている実家では家の中のどこかに必ず一匹はいた。畑に入ろうものなら奴が我先にと群がってくる(ように私は見えた)ので、近付かないようにしている。

 寝ようと布団をめくったら奴がいたので長い対峙の末にスリッパで叩き潰し、泣く泣く椅子の上で夜を過ごしたことも度々ある。

 自転車についた奴を取るのに十五分要することだってしょっちゅうだ。


 奴はなぜ八本足なのか。なぜ糸を吐き出すのか。なぜ家に棲みつくのか。解せぬ。全くもって解せぬ。

 ……否、理屈は分かるが忌避きひする感情が一切の理解を放棄していた。


 ――そんなわけで、私はタランチュラ過激派を名乗っている。


「あ、髪の毛」


 近くにあった粘着クリーナーを転がして落ちていた髪の毛をさっと取る。粘着クリーナーは万能だ。奴に触れずとも退治できる。これは立派な武器なのだ。

 スプレーで動きを封じ、一撃必殺の粘着クリーナーで退治する。

 なんて素晴らしいコンビネーションなのだろう。考案者に心からの賛辞を贈りたい。


 時計を見ると既に正午を過ぎていた。私は手を洗うと戸棚を開け、カップラーメンをひとつ取り出した。

 実家では食事を厳しく管理され、ジャンクフードは禁止されていたのでカップラーメンを食べたことがない。だから誰かのお咎めなしに自由に食べられる今の環境が好きだ。


 私はお湯を沸かそうとケトルを手に取った。

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