Daily #9 悪夢
気が付くと、家にいた。
家。実家。……建て直した現在の実家ではない。間取は幼い頃から慣れ親しんだ、古い家のものだ。
アップライトピアノの置いてある薄暗い畳の部屋から外を眺める。外も薄暗く、朧げな印象しか残らない。
私はのろのろと重い体を上げると、居間を抜けて玄関に向かった。
「――――――!」
悪寒が一気にかけ上る。
玄関スペースには、上から下まで蜘蛛の巣がびっしりと張られていたのだ。
「…………は、はは」
乾いた笑いがこみ上げた。これでは外に出られない。
小さな小さな姉が蜘蛛の糸に絡まって体が宙に浮き、虚ろな目でこちらを見ていた。
……………
……………………
ゆるやかに意識が覚醒し、私は目を開けた。
枕元のスマホを手探りで掴み、時間を確認する。……まだ起きるには2時間ほど早いようだ。
実家にまつわる夢をもう何度見ただろう。古い家を背にして必死に走って逃げても体が重く、全く進まない。
いつもはこの夢ばかり見ていたが、今回の内容は初めてだ。
毒を持つ人たちから離れて良かったね、はいハッピーエンド。……そんなのは嘘だ。離れてからが本番なのだと今は思う。
洗脳が溶けて心の整理が少しずつできるようになると今までどれだけ非常識な環境にいたかを理解するようになり、その度にひっそりと心を消耗して動けなくなってしまう。
そうやって少しずつ回復していくのだ。安全な場所で、心の支えに縋り、深呼吸を努めながら。
安全基地がないとため込んでいたものを吐き出すことすらできない。
私は起き上がってカーテンを開け、窓を開けた。部屋に陽の光が差し込み、一気に明るくなった。
換気はこまめにするように心掛けている。空気が淀むと心も淀むような気がするからだ。
急ぐことはない。慌てることはない。いくら焦っても心は追い付かない。
ゆっくりかみ砕いて、昇華して。私のペースでいけばいい。
床に落ちた光に眩しそうに目を細めると、私はまた布団に潜り込んだ。
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