第18話 アルルの号泣 

 玄咲とのカードバトル後、アルルに号泣させる案もありました。

 当初の構想では仲直りがクラス対抗ストラテジーウォー後になる予定だったので、そこまで険悪ムードを引きずるのもどうだろうと思って、早めの仲直りとなりました。アルルも普通に悔しがるだけに終わった。

 2パターンあるので2パターンとも載せてます。後者は仲直りまで描いている。





 玄咲は冷汗を掻いた。大きめの声で尋ねる。


「……聞こえたのか?」


「うん。僕、耳がいいんだ」


「……そうか」


 そうだったな、という言葉は飲み込みつつ、玄咲は冷汗を掻く。例の如く押し黙る。玄咲は気まずくなると寡黙になるタイプだ。流暢に見苦しい言葉を吐き並べるよりはマシかもしれない。あるいは黙秘権を行使する政治家のようでより見苦しいかもしれない。アルルが白い床を踏んで玄咲との距離をつかつかと詰める。情けない顔を晒す玄咲に詰め寄る。顔を近づける。玄咲は顔を逸らす。


「こっち見て」


 玄咲はアルルを見た。怒っていた。


「あのさ、気のせいだと思ってたけどさ、最初、もしかしてわざと外した?」


 わざとカードからダーク・ハイ・バレットを外したときのことを言ってるらしかった。玄咲は否定した。


「俺だって、照準を外すことくらいある」


「不自然に発声が遅れたのは何で? あの時だけ、魔法の詠唱が一瞬、途切れたよね?」


「……」


 玄咲は押し黙った。アルルの眉が吊り上がる。


「やっぱり、わざとだったんだ。手加減、したんだ」


「手加減じゃない。勝負をより有意義なものにしようとしたんだ」


「有意義?」


「ああ」


 アルルの表情が疑問で和らぐ。玄咲はそこに活路を見出した。畳みかける。


「すぐに終わったら模擬戦の意味がないだろ? だから」


「模擬戦?」


「ああ。バトルルームで行う戦いはようは模擬戦じゃないか。死なず、傷つかず、魔力も消費せず、何度でも行える。素晴らしい場所だ。アトラクションみたいだよ」


「……僕との戦いは、遊びだったの? 真剣じゃ、なかったの?」


「もちろん真剣だったさ」


「! だよね!」


「アトラクションみたいで面白いと思っていたのも事実だが。遊びじゃないが、うん。楽しかった。凄く楽しかった。そういう意味では、遊びでもあったかな」


「――そう、なんだ」


「ああ。えっと、そうだ」


 表情の曇るアルルを玄咲は大空ライト君の台詞を借りることで元気づけようとした。


「楽しいバトルだった。またやろうな」


「ッ! 僕は!」


 ――アルルは涙を流して、叫んだ。


「本気だったんだ! 本気で、君とバトルしたのに、君は、遊び半分で、勝てるチャンスをわざと逃して、僕を泳がせて、楽しんでいたんだね……! 僕を、虚仮にして、遊んでたんだね……! 最低だよ……!」


「――ご、ごめっ」


「馬鹿っ! 君なんて、大嫌いだ!」


 アルルは泣いてバトルルームを走り去った。残された玄咲は、膝から地に崩れ落ち、床に手を突いて、アルルの言葉と涙を脳裏に幾度も反芻した。


 ――僕は、本気だったんだ!


 ――大嫌いだ!


「あ、ああ……アルル、アルル、ごめん、ごめん……!」


 自分のしたことがどれだけ無礼なことだったの、アルルの慟哭で玄咲はようやく理解した。死にたいほどの後悔に襲われる。シャルナが言う。


「最低」


「だよな」


「まぁ、玄咲らしいよ」


「うぅ」


「――はぁ、一緒に、謝りに、行こ。私が、ついていって、あげるから」


「ほ、本当か」


 コクリ。シャルナは頷く。


「私はずっと離れないって、言ったよね。どんなに失敗したって、玄咲の傍にいてあげる」


「じゃ、早速」


「でも、今はやめといた方がいい。まだ心が、乱れてるだろうから」


「そ、そうだよな……でも、いつかは謝らないとな」


「うん」

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