第66話 ニルヴァーナ・エンド

 主な変更点。

 プライアの名前がアルスラです。1日で変えました。

 最後が大きく違います。プライアがADとカードを使って正人を殺します。このADとカードが本編に出てくることはおそらくないでしょう。




「ご気分はどうですか? 雷丈正人」


 プレイアズ王城地下室。手術台のように冷たく無機質なテーブルに両手両足を縛り付けられた状態で正人はプレイアズ王国女王――アルスラ・プレイアズにそう声をかけられた。


 正人たちはマギサに捕らえられてから魔符警察のブタ箱で蘇生され連日過酷な取り調べを受けた。拷問を交えたその執拗な取り調べにもうこれ以上吐くことがないほど情報を吐きつくされ、最終的に多用すると心を壊す恐れがある禁止カードで脳を洗われ情報の精査を行われた。そしてその最終工程を経て取り調べは一先ず終わった。


 憔悴しきった正人は、だが精神を休める寸暇すら与えられず、手錠をかけられ目隠しをされ魔符警察にオラつかれながら別所に護送された。


 そこがこのプレイアズ王城地下室だった。そしてテーブルに四肢を縛り付けられて女王と対面させられた。


 プレイアズ王国女王アルスラ・プレイアズはいつ見ても、80歳という高齢にも関わらず20歳の女性にしか見えない程若々しく、美しかった。金色の頭髪は光のようで、白磁の肌も光のよう、そして金色の眼も光のようで、要するになんか光のようだった。その人間離れした透明感のある雰囲気と年齢不相応な美貌の秘密はアルスラの種族特性にある。


 アルスラは精霊人だった。精霊人――つまり精霊と人の相の子。その種族特性がアルスラの容姿の秘密だった。見た目老いずいつまでも若々しいままでいられるという精霊の特性を引き継いでいるのだ。ただし寿命は人間の特性を引き継いでいるので、若い見た目のまま老衰して死んでいく。アルスラもいつ死んでもおかしくない。正人がアルスラを犯すことにああまで拘っていたのは、その美貌もあるが学生時代からの思い人の残り寿命が幾ばくもないというのが一番の理由だ。


 そのアルスラが、20歳の美貌に、80歳の貫録を乗せて、正人に分かり切った気分を問うてきた。正人は吐き捨てるように言った。


「最悪だ」


「でしょうねぇ。でもこれからもっと最悪になるんですよ」


「……何を、する気だ」


 正人は声の震えを押さえられなかった。テーブルに四肢を縛り付ける。それは女王への無礼の抑止以上に、正人が四肢を振り回して抵抗したくなるようなことをするという予告に他ならない。自分も同じようなことをしたことのある正人にはよく分かった。


「ふふ……みなさん、入ってきてください」


 アルスラの声を合図にぞろぞろと入口からたくさんの亜人が入ってくる。正人は顔を引きつらせた。


「……雷丈家には随分国を掻き回されましたからねぇ。生半可なことはしませんとも。恨みも溜まっています。私も、この方たちも」


「ま、まさか、その亜人たちは」


「ええ、アマルティアンです。何人かは知った顔もいるんじゃないですか?」


「いや、一人も知らん」


「ざけんじゃねぇ!」


「へぶっ!」


 蝿の頭をした女性が正人に近寄って顔に拳を振り下ろした。アルスラは止めなかった。


「私の大切な娘はあんたたちに奪われた! 返せ! 返せよぉ! 私の娘を返せよぉ!」


「娘……? あ!」


 ナックルに捧げた亜人の中に蝿頭の女がいたことを思い出し、声が出た。


「まさか、まだ生きてるのか?」


「え? い、いや……死んでる、けど、私も望んでいたわけじゃなくて」


「う――うぉぁああああああああああああああああ!」


「おぶ、びゅへっ! や、やめ」


 あっという間に正人の顔が血に塗れる。アルスラが静止をかける。


「そこまでにしなさい」


「で、でも……!」


「復讐は、一人ずつ、回復魔法で癒しながら、順番に、です。またあなたの順番も回ってきますから安心してください」


「……はい!」


 蝿頭の女はキッと正人を睨みつけて集団の後方に並び直した。いつの間にか集団は列をなしていた。その意味を察せれないほど正人はバカではない。むしろ天才で経験も豊富だ。これから自分に行われる行為の候補が一瞬で100も200も思い浮かんだ。血に塗れながらもそうと分かる程正人の顔が青くなった。


「まずは私からですね」


 列の先頭に立つアルスラが言う。想定外の事態に正人の頭の中が真っ白になった。


「――アルスラ。お前まで、私を、いじめるのか」


「は?」


「俺たち、同じクラスで一緒の授業を受けたよな。同じ食堂で飯を食ったよな。同じ空気を吸ったよな。俺たち――少なくとも、友達、だったよな? なんで、そんな友達に、こんな、酷いことを……!」


「いや、私たち友達でも何でもなかったじゃないですか。ただ1学年同じクラスになっただけじゃないですか、友達とか、やめてください。想像しただけでキモ過ぎて吐き気がします。うわ、蕁麻疹が……」


「貴様ァアアアアアアアアアア! 俺の純情を弄んだのかッ! 俺は、俺はずっとお前のことを……!」


 ガタガタと拘束された体を揺らして喚く正人。アルスラは吐き気でも堪えるかのように口に手を当ててこいつマジかという目で正人を見た。


「うっそでしょあなた。私にそんな感情抱いてたんですか? やめてくださいよいやマジで死にたくなるじゃないですか。あなた自分の容姿分かっててそんな言葉吐いてるんですか? ああ、分かってるから亜人の奴隷にあんなことしてたんですね。全く、ドン引きですよ。本当、救いようがないですねあなたは」


「黙れッ! 私は私以外の人間はどうでもいいんだッ! 当り前だろ! 人間は自分を一番愛するのが一番正しい! だから私はここまで成り上がった! 馬鹿な息子が私を売らなければお前なんて近い将来私の下でひぃひぃ言ってたんだ! くっそぉ、くっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「――本当、屑ですね。あなたは。昔はもう少しマシだったのに。家督をついでからひたすら悪化していきました。人間身分不相応な権力は持たない方がいいという好例ですね。あああと、サンダージョーは別にあなたを売ってませんよ」


「え?」


「あなたの秘密をリークしたのは別の子です」


「……誰だ、それは」


「教えません。死にゆくあなたには不要な情報ですから。もどかしさの中で死んでいってください」


「教えろ! 誰だそいつは! 誰だぁああアアアアアアア!」


「じゃ、私もうあなたに付き合うの疲れたので退室させていただきますね」


「教えろ! アルスラ!」


「じゃ、永遠にさよなら。雷丈正人――あ、そう言えば」


 アルスラは扉の前で振り返って言う


「サンダージョーは死刑になりましたよ。あなたと違って普通の死刑にね。あなたサンダージョーも裏稼業に関わってるって言ってたのに一切関わっていないじゃないですか。自分の息子を売るとか最低ですね。全く」


 アルスラは今日一番冷たい眼を、尚も喚き続ける正人に向けた。


「私なら自分の子供は自分のはらわたを抉り出して差し出してでも守りますよ。それが親ってものでしょう? 子供を売ろうとしなければ流石に私もここまでしなかったんじゃないですか? ま」


 最後に付け足してアルスラは部屋を去る。


「多分、ですけど」


「待――」


 扉が閉ざされた。









「どうですかー? 終わりましたかー? あら」


 1日後、同室に再来したアルスラは正人の末路を目にした。


「あらあら、見事な活け造りですこと。まだ生きてるの?」


 アルスラの部下の回復魔術師が答える。


「はい。ただ、我々ももう魔力がないのでもうすぐ死にます。持ってあと数分といったところでしょうか」


「いいタイミングでしたね。では、屑の最後の言葉を聞いてみましょうか。正人、言い残すことはありますか?」


「……ごろ、じで、ぐだざい」


「……そうですね。元同級生のよしみです。最後くらいは私が殺してあげましょうか。みなさん、よろしいでしょうか?」


 アマルティアンたちが同意の声を返す。どうやらもう十分復讐は果たせたようだった。


「では」


 アルスラはカードケースから2枚のカードを取り出した。



「武装解放――精霊神槍オーバースピリッツプラスマグナ」



 ランク10。補正値300。白と金色で編まれた荘厳な意匠の槍がアルスラの手に握られる。続けてカードを挿符。


「ニルヴァーナ・エンド」


 正人の心臓に白く輝く槍を突き刺す。


 正人の全身が一瞬で光に転化し弾けた。光属性。ランク10。ニルヴァーナ・エンドの効果は攻撃が命中した相手のあらゆる防御効果を無視した一撃死。光となった相手がその後どうなるのかアルスラには分からない。けれど正人の場合はどうせ地獄に堕ちたのだろうなとアルスラはほくそ笑んだ。


























「さて、次はあなたの番ですよ?」


 部屋の隅、猿轡を噛まされ四肢を縛られ床に転がされたゴルド・ジョンソンは恐怖のあまり失禁し脱糞した。

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