第45話 ラブコメ1 ――テポドン――
主な変更点
タイトル 不謹慎ではないかと不安になったので。
あとは、後半の下りです。下劣ではないかと、悪印象を持たれないかと不安で仕方なかったのですが、まぁ案の定評判は悪かったです。今までで一番PVが急降下しました。半減以下はさすがに答えました。インパクトを持たせればいいわけではないのですね……。そもそもくだらないダジャレが寒すぎたというのもあるでしょうが。一人で判断を下すことに限界を感じています。編集者が欲しい。
ラグナロク学園学生寮【ラグナロク・アーク】。
666号室。数時間ぶりに帰った自室を玄咲はシャルナに紹介する。
「ここが、俺の部屋だ」
「666、号室……」
「ちょっと待ってろ」
生徒カードでロックを解除。扉を開く。
「よ、よし、入ってくれ」
自分の部屋に女の子を招くのは初めて。こんな状況にも関わらず、ちょっとドキドキしながら玄咲はシャルナを部屋に招いた。
「お、お邪魔、します」
シャルナが部屋に上がる。それに続いて玄咲も部屋に上がる。その頭の中身は猛回転していた。
(ど、どうする。これからどうする。勢いで部屋に連れ込んだが、よく考えたらこれから俺はシャルと約30時間同じ部屋で過ごすことになる。会話が持つのか? 心臓が持つのか? お、俺はなにかとんでもない失態をしでかさないか? シャルに嫌われないか? それだけは嫌だ。シャルに嫌われたら俺は二度と立ち直れない。気がする。絶対、格好いい姿だけ見せないと……!)
「ねぇ、玄咲」
先行するシャルナが立ち止まって話しかけてくる。変なところで立ち止まるなと思いながら玄咲は応じる。
「な、なんだ」
「これ」
シャルが通りがかったタンスの上を指さす。なにか目を引くものでもあっただろうかと玄咲も近寄って見る。
カップラーメンと、それに立てかけられた幼稚園児レベルのシャルナの似顔絵が目に入った。
時が止まった。
「…………」
「…………」
すっかり存在を忘れていた。色々ありすぎたからだ。もし思い出していれば先に入室してタンスの中に閉まっておくくらいのことはしたのに、なぜ思い出さなかったのか。なぜいつもいつもこう締まらないのか。玄咲は泣きたくなった。神を呪った。
シャルナが指さしたまま問うてくる。
「私の、似顔絵?」
ストレートゆえに誤魔化しようがない質問。頷くより他ない。
「……うん。俺が描いたんだ」
「そう、なんだ。ふーん……」
学園長室で貰った制服を脇に挟んで絵を眺めるシャルナ。完全に羞恥プレイ。もうやめてくれ。そう心の中で叫ぶこと十秒、絵を眺めていたシャルナが唐突に言う。
「これ、もらってもいい?」
「え?」
「だめ?」
「いや、構わないが……本当に欲しいのか?」
「うん」
シャルナはコクリと頷く。
「気に入った」
「どういうところが気に入ったんだ」
「ちゃんと、私だって、分かる。それが、2番目の、理由」
それは大前提ではないかと思いながら玄咲は問い進める。
「……1番目の、理由は?」
「この、絵、ね。下手、だけど、ね」
「下手、か……」
「うん。ド下手。でもね」
シャルナは似顔絵の両端を持ち胸の前で広げる。そして、くるりと、振り向きざまに、見せつける。
「素敵な、笑顔、だね」
素敵な、笑顔を。
胸に抱くように広げた絵よりもずっと。
(ああ……)
絶対に失ってはならない笑顔だった。
本当に、守れて良かったと思った。
まだ全てが終わったわけではないが。
最大の山場はすでに超えた。
サンダージョーとの決闘は既にほとんど勝ったものとして玄咲は考えていた。
なにせ、玄咲にはバエルがついているのだから。
シャルナの笑顔は守ったも同然だった。
「んしょ」
シャルナは絵を奇麗に角を揃えて八つ折りにしてポケットに締まった。大切に思っていることが伺える所作だった。描いてよかった。玄咲は心からそう思った。嬉しさが込み上げて込み上げて仕方なかった。
「ところで」
「ん?」
「この、カップ麺、私が、あげた、奴、だよね?」
「……うん」
スルーしてくれなかった。
「どうして、食べな、かったの? せっかく、あげた、のに……」
「その、君が」
「私が?」
「プレゼントしてくれたものだから、食べるのがもったいなくて、だから、持って帰って、飾ってた……」
「そっか」
心なしトーンの高い声でシャルナがそう答える。それからカップラーメンを、何を考えているのかよく分からない神秘的な白い瞳でじっと見つめる。そして数秒後。
ぐーっと、音が鳴った。
シャルナのお腹からだった。
「……」
恥ずかしがる様子などは特に見せず、服の上からでも凹んだお腹に手を当てて、シャルナは時計の方を見る。釣られて玄咲も時計を見る。
12時。朝、登校してから、気付けば結構な時間が経っていた。もう12時とかいう気持ちもあれば、まだ12時とかいう気持ちもある。挟まった時間が濃密過ぎて、少々体感時間が狂っていた。
それはそれとして、飯時だった。
「……食べるか?」
「うん。一緒に、食べよ」
そういうことになった。
「美味しかったね」
「あ、ああ。うん。そうだな……」
カップラーメンのスープを飲み干したシャルナに上の空で玄咲は応える。空の容器を、これでよかったのだろうかと玄咲は神妙な気持ちで見つめた。
玄咲はシャルナと1つのカップラーメンを2人で食べ合った。隣り合ってテーブルにつき、一つの箸で、交互に、半分ずつ。この部屋には椅子は二つあるのに、箸は一つしかなかった。スプーンもフォークもない。ポイントを稼いで買えということだろう。CMAは日用品をポイントで買うことで様々な効果を主人公に付与することができる。経験値増加率上昇や、好感度増加率上昇などが代表的な効果だ。その設定を反映して日用雑貨の取り揃えが侘しいことになっているのだろう。気が利かない、あるいは気が利きすぎている学園だった。
玄咲はもちろん最初、一つの箸で食べることを固辞し、シャルナにカップラーメンを譲ろうとした。そしたらシャルナに逆に譲られた。譲り合いの末、最終的に箸の水洗浄を挟んで半分ずつ食べることになった。シャルナはどうしても玄咲にカップラーメンを食べさせたいらしく、玄咲が食べないと一本も食べないとまで言うので、玄咲が折れた形だ。
先に食べたのは玄咲。後に食べても、先に食べてもそれぞれ問題が発生する。だからせめてもの抵抗としてシャルナに判断を促すと、先に食べて欲しいと言われた。だから先に食べた。地球と同じ味で涙が出るほど美味しかった。それは間違いなかった。
だが。
(お、俺の体液が、シャルに……いや、もう考えるのはやめよう。終わったことだしこの思考は相当気持ち悪い。ドン引きものだ)
「やっぱり、食事は、一人より、二人だね。美味しかった」
「ああ。それは、間違いない。……平気か? シャル?」
「? なにが?」
「いや、なんでもない」
キョトンと首を傾げるシャルナ。本当に何も思うところはないらしい。玄咲は途端に自分がとてつもなく穢らわしい存在に感じられた。シャルナと隣り合う資格を玄咲は真剣に自分に問うた。
(本当に俺は心も頭も汚れて穢――)
穢れ。
玄咲は大事なことを思い出した。
「シャル、シャワーを浴びてくるんだ」
シャルナが膝の上で手をグーにする。おずおずと問う。
「な、なんで、かな」
「体の穢れを洗い落とすためだ。古来から穢れは清き流水によって雪ぐものと相場が決まっている。シャワーの魔法水が清いかどうかは分からないが浴びないよりはずっとマシだろう。サンダージョーに穢された体を洗い清めるんだ。そうでなくてはいけない」
「……なんとなく、そんな感じの、理由かな、とは、思ってた」
「あとは単純に血を洗い落とすためだ」
「あ……それは、確かに、浴びたい、かな」
「そうだろう。さぁ。浴びてくるといい」
「玄咲は?」
「…………」
先でも後でもちょっと罪悪感に耐えられそうにない。血が乾く服と体に不快感を覚えないわけではないが耐えられるレベルだ。浴びる、浴びない、天秤に掛ければ後者が地に着く。悩むまでもなかった。
「シャルだけ浴びてくるといい。俺は遠慮しとく」
「え? なんで?」
「えっ」
「玄咲の、方が、血塗れ、だよ。玄咲も、浴びた方が、いいよ」
「……」
シャルナの言うことはもっともだった。反論が難しい。ゆえに言葉が濁ってしまう。
「その、深い理由はないんだが、なんとなく、その気になれないんだ」
「えっと、その、だな。俺は良識ある一人の男として健全な判断をしようと思ってだな……」
「……じゃあ」
少し悪戯っぽく笑って。
シャルナは制服の裾に手をかけた。
「一緒に、シャワー、浴びよっか? それなら、その気、なるよ、ね?」
そして、ほんの少し持ち上げた。
雪原のような白いお腹がへそまで見えた。さらには素朴なくびれを描く贅肉なき腰までも。完璧なボディーライン。まるで麻薬のように脳をとろけさせる光景。不意打ちで現れた桃源郷の覗き窓。清廉なのに匂い立つ色香が、まるで溜めていたものを解き放ったかのようにむわりと一挙に立ち昇り押し寄せた。
玄咲の脳はパンクした。
「だ、だめだシャル! 女の子がそんなもの見せちゃ駄目だ! ちゃんと服の中に隠しておかないと――」
とにかく一目散にシャルナのお腹を隠そうとする。細かいことは考えず、考える余裕もなく、シャルナの持ち上げた制服を慌てて下に引っ張った。完全にテンパった頭で。力加減も考えずに。そして現在シャルナが着ている上着は着替える暇がなかったため玄咲が貸したサイズの合っていない男物の長物だ。そのためかなり下の方まで引っ張れてしまい、玄咲の手は限りなく下降線を辿っていき、そして――。
むにゅん。
シャルナのスカートの中に突っ込んだ。
いや、スカートどころではない。
下着の中にまで。
しかも、ド真ん中の、最奥に。
官能が爆ぜた。そして玄咲の思考も爆ぜた。
「!!!!!!!!!!!!!!!?」
手がドポンと官能の沼に使っていた。
それは生涯最大級の衝撃だった。
まさにテポドンだった。
核爆発だった。
シャルナのスカートの中身は
「――――ひゃっ」
「はっ! シャ、シャル、ごめ――――」
シャルナの声に我に返った玄咲が慌ててスカートの沼から手を引き抜く。それと入れ替わりとなるタイミングでシャルナがスカートの股間部に両手を押し当てる。まるでその仕草を強調するかのようにスカートの股間部に皺の集中線が密集する。
そしてシャルナは叫んだ。
「ひゃぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!?」
シャルナの悲鳴もまた核爆発級だった。
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