第7話 台風一過!

 チュン、チュン――と窓の外から小鳥がさえずる音。


 あなたは目を覚まし、ゆっくりと上体を起こす。


「あ、先輩。おはようございます!」


「先に起きてたのかって? はい。小一時間くらいずーっと先輩の寝顔を見てました。え? 起こせよって? むふーん、だって先輩の寝顔が可愛かったんだもーん」


「ね、先輩っ。そんなことより、こっちに来てください。窓の外を見てくださいよ!」


 トタトタと、後輩が部室の窓に近づく音。

 あなたもゆっくりとその後について窓に近づく。

 ガラガラっと後輩が窓をあける音。


「じゃーん! すっかり雨が上がって雲一つない青空です! 本当にいい天気。こういうのって台風一過っていうんですよね!」


「……え? 世界が沈没してなくてよかったなって? も、もうっ! からかわないでください! 耳をこちょこちょしちゃいますよ?」


「っていうか、先輩、寝ぐせ。頭の後ろが跳ねちゃってますよ? あ、そっちじゃなくて、こっちです。よいしょっ」


 後輩があなたの髪の毛を優しくなでる。


「はい、これでちょっとはマシになりましたね」


「え? 別に誰に見られるわけじゃないから、寝ぐせくらいどうでもいい? ブッブー! 駄目でーす! だってワタシが見てるんですからねぇ。後輩ちゃんの身だしなみチェックは厳しいのですよー」


「ふふっ。じゃあ先輩、もう電車も動き出してると思いますし、お家に帰りましょうか」


「それから、午前中はちょっと一休みして。午後になったら、駅前に集合です。前から気になってたおしゃれなカフェがあるんですよー。一緒に行きましょーよー!」


「え? 一日ゆっくりダラダラしたい? ブッブー! 却下でーす! 今の先輩には後輩ちゃんのお出かけに付き合う義務と責任が生じてまーす」


「うぇひひひ……だって――」


 少しだけ間がある。



「だって、ワタシ、先輩のカノジョなんですから!」



「これから一緒にいろいろなところにお出かけして、夏の思い出たくさん作らなきゃ! えっとぉ……映画も一緒に見に行きたいし、プールも行きたいし、夏祭りもはずせませんよねぇ」


「あとはあとは、東京ディズ……むぐっ! むごごごごっ……!」


「ぷハァ! 何するんですかぁ! 突然口を塞いでぇ! え? それ以上口にするな? 消されるから? なんの話してるんですか?」


「とにかくっ! ダラダラしているヒマなんてありません! タイムイズマネー! さ、行きましょ? 駅まで一緒に帰りますよー!」


「なんだその手はって? うぇひっ。カノジョなんだからカレシと手をつなぐにきまってるじゃないですかぁ」


「えい! うぇへへへへ。もちろん恋人繋ぎでーす! うぇへひひひ。先輩の手、ゴツゴツしてますねぇ。あ、汗ばんできた。うぇへへへへ」


「先輩、顔が赤いですねー! うえぇひひひっ! もう照れちゃってぇ。ホントに可愛いんだからぁ」


 少しだけ間があり、後輩の声が急接近する。



「後輩ちゃんは、そんな先輩が、だーい好きです!」


「これからもず〜っと一緒ですよ? ね、せんぱい!」

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