第8話 王の帰還

「……」


ひめちーがゆっくりと俺の頭を太ももから地面に下ろした。


「え、ど、どうすればいいの?こういうとき、コラボ相手が急死したことのある経験ある人いませんか?」


"いねぇだろそんなん"

"初コラボでコラボ相手が急死する伝説の配信"

"てかこれそろそろ強制終了とかしないよな?"

"死体をいつまでも映せないよな"


そんなことを言っているコメント欄。

そろそろ限界と思った俺は。


ユラァッ。

意識がないかのような感じで立ち上がった。


"ひめちー?!"

"起きてるよ?!あいつ!"


そのときひめちーが俺に目を向けてきた。


「え?な、なんで?」


そう聞いてくるひめちーに答える。


「ふぅ、死んだかと思った」


そんな俺に質問攻めしてくるひめちー。


「な、なんで生きてるの?!死んだかと思ったよ」


そう言われて答える。


「世界が俺を救った。お前は死ぬべきでは無い、そう言われてな。まったく世界はいつも俺に面倒事を押し付けるな」


そう言いながら俺はコメント欄に呼びかける。


「見てるんだろ?ドライツェーン。少しばかりお前との旅が伸びるな」


そう言うと


ドライツェーン:心配かけやがって。お前と旅ができてうれしいよ


「心配かけたようだなほんとに」


そう言いながら俺は歩き出した。


コメント欄がどんどん加速していく。


"これが世界の選択なのか?"

"死んでたのに生き返ったぞ"

"こいつ厨二病じゃなくてほんとに特別な存在なのか?!"

"厨二病は特別だと思い込んでるだけだからな。こいつほんとに特別だ。生き返ったんだもん"

"どうでもいいけど生きててよかったー😭"

"葬式配信はほんと勘弁だったからなー"


そうして歩きながら再び死角になったタイミングで俺はまたケチャップ袋を使って吐血したように見せた。


「ちょ、ちょっと?大丈夫?!」


ひめちーが駆け寄ってきた。


それで俺の背中をさすってくれる。


「はっ。問題ないさ。このていど」


そう答えて俺はさらに歩き続けた。


そしてやがてダンジョンのボスフロアにたどり着いた。


中には


「【双頭の悪魔】か。昔ハワイでやり合ったことがあるがそれ以来だな」

「お、オルトロスだよね?」


そう聞いてくるひめちーの言葉にコメント欄も反応した。


"オルトロスって強いんだよな?!"

"Sランク冒険者が戦ってやっと勝てるようなモンスターだけど"

"さすがにソロじゃきついだろうなぁ"


俺はポケットの中に手を突っ込んだ。


ゴソゴソ。


"なにしてんの?"


そうして、スっ。


ひとつのものを取り出した。


それは。

タロットカード。


"タロットカードwww"

"草www"

"必需品きたwww"

"今まで出てきてなかったのが不思議なくらいだったもんなwww"

"んで何が出たんや?"

"ワクワク"


ぺラッ。

俺はタロットカードの絵柄を見た。


「力の逆位置」


"どういう意味?"

"自分の力ではどうにもならない、みたいな感じらしい

"ひめちーに力を借りるのか?"

"ひめちーとの共闘?!"

"やっとひめちーが戦うんだね!"

"ひめちーと共闘するんやろうなぁ"


「ヌル!私がんばるよ!」


俺はひめちーの言葉を聞きながら右手に巻いた包帯に目をやった。


「目覚めよ、我が罪。力を借りるぞ」


そう言って俺が包帯を少し解こうとすると。


ゾワゾワゾワゾワ。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


"包帯が動いてる?!"

"右手がうずいてる"

"ど、どうなってんの?!"


シュルっ。


包帯が少し解けてその隙間からは


"なんか紋章みたいなのが見えるぞ?!"

"なにあれ?!もっと見せて!"


コメント欄がそんな感じで盛り上がるが。


「悪いがこれ以上見られてはまずい」


俺はそう答えて


「【エターナルフォースブリザード】」


そう呟くと。


フッ。


一気に冷気を感じて。


ビシッ!!


オルトロスが凍りついた。


"………"

"ひとりでやりやがったwww"

"ってか、エターナルフォースブリザードって魔法ほんとにあるんだ"

"しかもつえぇぇぇwww"


そんなコメント欄を見てから俺はひめちーに目を向けた。


「さ、さむっ?!」


隣にいたひめちーが寒がっていた。


俺は包帯を巻き直して右腕に話しかける。


「助かったよ。大賢者様」


"あの右腕ほんとになんなんだ?!"

"大賢者が封印されてるとか?"

"だからなんなんだよ!その右腕"

"早く教えろよ!"


そのコメント欄にそう答える。


「今はまだ話せない」


そう答えて俺はダンジョンの最終エリアに向かった。

そこでひめちーはこう言った。


「というわけで今日のコラボ配信は終わり……です?視聴者いつもの半分くらいしかいない?!うそーん!」


そう言ってるひめちーの横で俺のコメント欄はどんどんコメントが更新されていた。


"内心では設定って分かってるんだけど、この配信見てると別世界に迷い込んだ気分になるなぁ"

"死んだフリしたシーンとかすごかったもんな"

"あれフリなの?!生き返ったのかと思った"

"フリだろ普通に"

"まぁでも強すぎてそれっぽいよなwww実際の厨二って特別でもなんでもないから安っぽく見えるだけだし"

"オルトロスワンパンしたりなwwwマジっぽいわwww"


そうやってコメント欄は盛り上がりを見せているようだったが。


「悪いが今日の黄昏の会議はここまでだ」


俺はそう言って配信を終了することにするが、その前にひとつ決めておくことにした。


「俺はこの配信のことをこれから黄昏の会議と呼ぶことにする」


そう言うとコメント欄もそれに倣い始めた。


"黄昏の会議を始める時は告知してくれよ"

"次も見たい!"


そう言われたので


「ふむ。分かった。では次からは告知をしてやろう」


そう言って俺は配信を止めた。


そうしてひめちーに目を戻す。

向こうも配信を終えたようで。


「今日はありがとうね。ヌル」


そう言ってきて俺は訂正する。


「配信は終わった。桜井でいい」


そう言ってみるとこう言ってきた。


「うん。桜井くん。今日はありがとう。これからもよろしくね」


その言葉を聞きながら俺はタロットカードを1枚取り出した。


それを見てひめちーは言った。


「オフでもタロットカード引くんだ」


俺は絵柄を見た。


「星の正位置」

「意味は?」

「憧れの感情を抱いている。なにに対してかは知らないが。だがその憧れは届くことはない。憧れとは届かないからこそ抱く感情」


俺はそう言って転移結晶に手を触れた。


「え、あ、うん」


そんな反応を見せるひめちーを見ながら俺はダンジョンを出ることにした。

そのときだった。


「届くように頑張るから」


ひめちーは最後にそう言った。

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