第13話 母親譲り
「なっ……ち、千桜先輩!?」
俺は素っ頓狂な声を上げる。
いや、養女の千桜先輩が食卓に現れるのは予想済みだけれど、こんな形とは思わなかった。
正面から羽城の当主に喧嘩を売るなんて、正気ではない。たとえば、志帆はいつも羽城智人に対して怯えている。
彼こそがこの家の、いや新日本の最高権力者の一人だからだ。
千桜先輩は肩をすくめた。
「弟くーん。『千桜先輩』はないでしょ? わたしもこれから羽城マリヤになるんだから」
「い、いや、そう言われましても……というか、それが問題ではなく……」
ちらっと俺は父さん――羽城智人を見つめた。智人は冷静な表情をしていたが、どこか気まずそうにしている。
一方、母の文香は、千桜先輩を――憎々しげな目つきで見ていた。
あのいつも優しい母さんがどうしたんだろう?
千桜先輩はなんてことなさそうに、俺の隣に腰掛ける。席次を無視しているが、父さんは止めなかった。
「勇人くんは頑張っています。なのに、婚約者の愛華さんを使って、それを腐すようなことを言うのは感心しません」
千桜先輩の大胆な言葉に、父さんは顔をしかめた。
「私を批判するのか」
「批判されるべきことをしているなら、五侯家の当主であろうとも批判されるべきです。『お父様』はよくご存じでしょう?」
父さんは黙ってしまう。
「傍若無人なのは、母親譲りですね」
文香がつぶやいた。まるで千桜先輩の母親を知っているかのような……。
どういうことだろう? 父、母、千桜先輩。この三人の関係がわからない。そもそも、千桜先輩はどこで父さんと知り合ったのか。
不穏な雲が、羽城家に襲いかかっていた。
羽城の魔女。
千桜先輩は、俺と昔会ったことがある。そして、俺のことが好き。
でも、それだけだろうか?
千桜先輩は、羽城家に何をもたらすつもりなのだろう?
「ともかく、勇人くんはすごいんです。わたしはよく知っているんですから。わたしは愛華より勇人くんの方がずっと偉いと思っていますし、好きですよ」
千桜先輩はそう言って、俺の方をちらりと見て微笑んだ。「好き」という言葉にどきりとする。
千桜先輩は、俺の言いたかったことを言ってくれた。そして、俺に優しくしてくれて、キスまでしてくれた。
たとえ彼女に秘密があっても――俺は強烈に千桜先輩を意識してしまっていた。
愛華がこの屋敷にやってきて、衝撃の事実を明かしたのは、翌日だった。
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