第10話 風呂場での千桜先輩との駆け引き

初めて見る先輩の弱気な顔に、俺は強い嗜虐心を感じた。

 散々からかわれて、部屋や風呂場にまで押しかけられたのだ。少しは仕返ししても許されるだろう。


 けれど、次にどうすればよいかわからない。キスしたりする勇気なんて、とてもない。

 ただ、バスタオル一枚の半裸の先輩女子の肩をつかんでいる。これだけでも俺には刺激が強すぎる。


 先輩の顔に余裕が戻ってきた。


「何もできないんだ? 意気地なし」


「俺が本当になにかしたらどうするんですか?」


「別にいいって言ってるでしょ? ほら、おっぱいとか触ってみる? できないと思うけど」


 千桜先輩はバスタオルをぎりぎりの位置までずらす。

 白くて柔らかそうな胸の上半分が露出する。


 目に毒だ。

 俺は目をそらす。


「先輩……俺はここで先輩を無理やり襲っても、何も問題はないんですよ。たとえ先輩が嫌がっても、羽城の権力が握り潰してくれます」


 それは事実だった。羽城の次期当主の俺は、多少の犯罪行為すら隠蔽できる。この国は、昔と違って腐敗していて、名家の人間の乱暴狼藉を止められない。


 もちろん、したことはないけれど。

 千桜先輩はくすりと笑う。


「鬼畜なフリをして、結局、何もしないんでしょう?」


「できないと思いますか?」


「ええ。あなたはわたしに何もできないわ」


 俺は深呼吸して覚悟を決めた。そっと千桜先輩の左胸に右手を重ねた。もちろんバスタオルの上から。


「あっ……」


 先輩が小さな声を漏らし、そして、顔を赤くする。

 もしかすると、攻められるのには弱いのかもしれない。


 俺は力をこめて、先輩の胸を揉みしだく.


「ひゃうっ! い、痛いから……もっと優しく」


「あ、すみません……」


 俺はつい謝りそれから我に帰る。

 千桜先輩は可愛いものを見るように俺を眺めていた。


「女の子の胸は敏感だから、力任せにしたらダメ」


「……先輩って、こういうことに慣れているんですか?」


 男性経験豊富……いわゆるビッチなのかもと思ったけれど、ときどき、うぶな反応が交じるので気になっていた。

 千桜先輩は笑った。


「気になる?」


「気になりますね」


「教えてあげない。知りたいなら、わたしから無理やり聞き出してみせて」


「……遠慮しませんよ?」


 俺は覚悟を決めた。ちょっと脅しをかければ、先輩は答えるのではないか。

 それで仕返しはおしまいにしよう。


 先輩のバスタオルの胸元に、俺は手をかけ、それを引き剥がそうとする。

 千桜先輩は慌てた様子だった。


「ちょ、ちょっと……待って! 見えちゃう!」


「先輩が挑発したんでしょう?」


「そ、そうだけど……」


「どうせいろんな男に裸を見せているくせに」


「お父さんにだって見せたことはないわ!」


 千桜先輩が真っ赤な顔で叫ぶ。そして、「あっ」とした表情をした。

 つまり、千桜先輩は処女だということだ。


 ううっ、と千桜先輩は涙目で俺を睨む。


「はめたわね」


「自業自得ですよ。それにしても、それなら、なんで俺相手にこんなことをするんですか?」


「弟と仲良くなりたいから。それではダメ?」


「これは……普通の姉弟の仲良しとは違いますね」


「わたしたち、普通の姉弟じゃないもの」


「まあ、それはそうですが」


 千桜先輩は何か隠している。何の目的で、彼女はこの家に潜り込み、俺に近づくのか。

 小首をかしげて、千桜先輩は微笑んだ。


「じゃあ、昔話をしましょうか。実はね……わたしは君と昔、会ったことがあるの」


 千桜先輩は綺麗な声で、そう告げた。





<あとがき>


面白い、愛華や志帆とのエッチな展開にも期待! と思っていただけましたら、


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