第9話 千桜先輩とお風呂
結局、俺は千桜先輩と志帆に押し切られてしまった。
つまり、一つのダブルベッドで俺と千桜先輩、志帆が一緒に寝ることになる。
なんで俺の部屋にダブルベッドがあるかといえば、もともとはこの部屋は両親の寝室だったからだ。
羽城家先代当主の長女・文香の部屋に、婿養子の智人は迎え入れられた。その後、智人が当主になると、二人はより広い寝室へと移ったから、この部屋が俺に割り当てられたということで。
この部屋は、常に羽城家の次期当主のものということだ。ただ、ベッドは変える必要もないし、北欧製の高級なものだそうだからそのままにしてあった。
その後、約束通り、志帆に勉強を教えたが、志帆はちらちらと俺の顔を見ながら顔を赤くしたり、切なそうな表情を浮かべたり……と上の空だった。
一方、千桜先輩は部屋の隅で『エジプト十字架の謎』……ミステリ小説を読んでいた。俺もミステリ好きだから話したかったのだけれど、志帆にヤキモチを焼かれるので我慢した。
本を読む姿も、綺麗だったなと思う。ときどき、赤い髪をかきあげる仕草がとても様になっている。
参ったな……と考えながら、俺は湯船につかっていた。
部屋ごとにも浴室はあるのだけれど、俺がいるのは屋敷の大浴場だ。
大理石製の浴槽があり、しかも内風呂と露天風呂、さらにサウナと水風呂までついている。
湯は信州の温泉から運んでいるのだとか。白濁色の湯からは、硫黄の香りがする。
この贅沢さは、泊めた客へのアピールという意味もある。屋敷内のすべてが、羽城の権勢を誇るために使われている。
今の時間は俺の貸し切り状態だ。まだ夕方六時だし。
千桜先輩と志帆が部屋に一緒では、冷静になることもできないので、逃げ出したのだ。志帆も俺を誘惑するようなことを口にするし、千桜先輩は俺に胸を触らせるし……。
千桜先輩の胸の感触を思い出して、俺はまた赤面する。
「一人になったし……」
気持ちを落ち着かせよう、と俺は思った。
ところが、その時間はなかった。
「なにするつもりなの? 弟くん」
「え?」
振り返ると、そこにはバスタオル一枚を巻いた、赤髪碧眼の美少女がいた。
千桜先輩がふふっと笑って、そこには立っていたのだ。
「せ、先輩……! 俺が大浴場に入るって言いましたよね?」
「だから、来たんでしょう?」
当たり前のように千桜先輩は言った。
改めて、バスタオル姿の千桜先輩を見ると、制服姿のときよりも身体のラインが強調されている。
双丘がタオルを押し上げていて、その乳房の大きさを主張している。豊かなお尻のラインも綺麗にくっきりと浮かび上がっていた。
「ふふっ、わたしの身体に目が釘付けね?」
「ち、違いますっ……!」
「弟くんが見たいなら、このバスタオルも脱いでしまおうかしら?」
「そ、そんなのダメですよ」
「どうして? 弟くんはわたしの裸を見たいし、わたしは弟くんの望むことをしてあげたい。それを現実にするのが、なんでいけないことなの?」
不思議そうに千桜先輩は言い、小首をかしげる。赤いきれいな髪がふわりと揺れ、その胸元にかかる。
どうして、と言われると、言葉に困る。
たしかに、なぜダメなのだろう……?
「それは……俺たちは恋人でもないですし」
千桜先輩はくすりと笑うと、綺麗な白い脚を上げる。俺がそれに目を奪われているうちに、先輩は湯船に入ってきた。
そのまま俺の隣に彼女は腰掛ける。俺の心臓がどくんと跳ねる。
そして、俺の耳元でささやく。
「恋人になればいいの? なってあげようか?」
どこまで本気かわからない楽しげな口調で、千桜先輩は言う。
「俺が本気にしたら、どうするつもりですか?」
「本気になったら、君は何をするの?」
「この状況なら……先輩は襲われても文句は言えませんね」
「ふうん。わたしは襲ってくれても、別にいいけど」
「あまりからかうと、本当に……襲いますよ?」
「できないでしょう? 童貞の弟くんにはさ」
千桜先輩は可愛いものを見るような目で俺を見る。
俺はかっとなった。
そこまで言われて、俺も何も反撃しないわけにもいかない。
このままだとなめられたままだ。
「あれ……弟くん? 怖い目をしてどうしたの? きゃっ」
俺は両手で千桜先輩の肩をつかみ、先輩は小さく悲鳴を上げた。
その青い瞳にはかすかな怯えと……期待するような色があった。
<あとがき>
千桜先輩の運命やいかに……?
面白い、続きが気になる、千桜先輩がエッチなことをされてしまう展開に期待!と思っていただけましたら、
・最新話↓の☆☆☆を青い★★★に変えていただければ嬉しいです!
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