2話 彼女・彼氏と登校することになりました〜ヒロイン視点〜

 彼氏ができてから初めての朝。

 私はいつもよりもかなり余裕のある時間に身を起こし、一階にある自室からリビングへと向かう。

 ドアを開けると、台所にママがいた。


「あら? 今日は早いのね?」


「早く学校に行かないとだから」


 いつもより簡素に会話を済ませ、朝ご飯を食べ終えた私は、二階の自室へと戻る。

 髪をアイロンで丁寧に伸ばし、薄めに、だけどいつもよりも念入りにお化粧を塗る。

 その後、昨日の夜にちょっとだけ短くしたスカートを穿き、お気に入りのブラジャーつける。


「ハルくん、可愛いって思ってくれるかなぁ…………」


 そんなことを呟きながら、鏡の前に座る。

 鏡に映る私は、いつもよりも少し可愛いような感じがした。


          *


「ほへぇ。ここがハルくんの家かぁ〜」


 私はハルくんと一緒に学校へ行くために、彼には内緒で家まで迎えにきていた。

 彼が出てくるまでは今大人気の恋愛系Webサイト『彼氏・彼女と一生添い遂げるゾ☆』を使って調べてよ!


「それじゃあ、行ってきマンモスイカにんじ────」


 あっ! ハルくんが来る!!

 そう思ったのと同時にドアが開く。


「────ん?」


 ハルくんだ! カッコいい!!!

 まだ誰もいないし抱きついてもいいよね!? 朝から栄養(?)チャージ!


「ハルく〜ん!」


「うぐふぉ!」


 変な声出てるけど、そんなに私に会えて嬉しいってことだよね!? やったね!


「おはよ!」


「おぉ紗織! おはよう! よく来たなぁ〜」


 そう言ってハルくんは頭を撫でてくれる。うへへ。


「じゃなくて! なんで紗織がいるんだよ!?」


「そりゃハルくんの彼女だからに決まってるじゃん!」


「答えになってるようでなってねぇ!」


 恥ずかしいけどちゃんと言わなきゃだよね。サイトにも書いてあったし!


「そ、そんなの…………彼氏と一緒に学校行きたいからに決まってるじゃん!」


「………………」


 あれ?ハルくん黙っちゃった。

 でも、顔が赤いから恥ずかしがってくれてんだよね!? そうだよね!?


「そ、それじゃあ行こうか」


 そしたらふと、ハルくんが手を差し出してきました。これってさっき見た、『彼氏が手を差し出してきたら可愛い声で返事をして、恋人繋ぎをしましょう』ってやつだ!!

 書いてあったこととおんなじだ!


「うん! 行こ!」


 これで大丈夫かな……?

 この後はどうするんだっけ……?

 私はハルくんに見えないようにスマホを開く。


『この後は、不自然にならない程度に彼氏に急接近してみましょう! 貴方が近づくだけで、きっと彼氏は内心喜びます』


 急に結構雑!? どうしよう!? どうやって近づけばいいんだろう…………

 なんてことを考えていたら、ハルくんの方から話しかけてきてくれた。


「さ、紗織」


「何かな? ハルくん?」


「あー…………今日の学校緊張するな」


「…………! ど、どうして?」


「みんな俺と紗織が付き合い始めたこと知らないだろ? だからどんな反応されるかなぁと思って」


「大丈夫だよ! 私、学校一の美少女だから!」


「自分で言うな! というか、紗織が学校一の美少女だから緊張するんだよ!」


「ん? 何で?」


「だってほら…………学校での立ち位置とかあるだろ? だから、付き合ってること隠した方がいいんじゃ…………」


 ハルくんは自分を卑下するように言った。いや、もしかしたら私に気を遣わせないようにしてくれたんだろうなきっと…………

 はっ! もしかして近づくのって今しかなくない!?

 前に読んだ漫画に描いてあった感じのでいいかな……?


(私にはハルくんがいれば良いからさ! 隠さないで、普通にイチャイチャしようねっ!)


 私はハルくんの耳元で囁いた。

 あっ! 顔赤くなってる!!


「ハルくんが照れてる〜! 可愛い〜!」


「おい! つんつんするな! つんつん!」


 ハルくんの可愛い反応に私のテンションも最高潮! 私ってこんなキャラだったっけ?

 というか、この後はどうしよう……目標も達成したし…………


『周りに人が増えてきたら、彼氏の腕に抱きつきましょう。そうすれば彼も喜ぶし、周りにも付き合ってることを周知させることができます』


 周りを軽く見ると、確かに人が増えてきていた。

 私がハルくんの腕に抱きつくと、彼は少し居心地悪そうな表情を浮かべる。

 嫌……なのかな………………?


「ん? どしたの?」


「何でもないぞ」


「ふへへ、ふにゃ〜」


「頭撫でられてふにゃ〜って声に出すやつ初めて見たよ」


 そんな私の考えは杞憂だったのか、ハルくんは私の頭を微笑みながら撫でてくれる。

 嬉しいなぁ〜。えへへ。

 ふと、ハルくんの視線が私のスマホを持っている手に移った。

 どうしよう!? バレちゃう!?!?!?


「なぁ紗織」


「な、何かな?」


「もしかして…………『彼氏・彼女と一生添い遂げるゾ☆』で調べてきた?」


「ど、どど、どどどどどどどどうして分かったの!?」


「なんか昨日と違って積極的だから……後は俺も見てからきたからさ」


「なんだぁ。ハルくんも緊張してたんだね〜。めちゃくちゃ緊張して損した〜」


 ハルくんと同じこと考えてたんだぁ。なんか嬉しいな〜。


「似たもの同士だな俺たち」


「それはないかな〜! 私、全く変なところないし」


「もう本当に変って思っているのかネタで言ってるのか分からなくなってきたよ…………」


「ていうかハルくん! 分かってもそういうのは言うもんじゃないと思うなぁ。折角私も頑張ってたんだから! まぁ、そんなちょっと変わってるところも好きなんだけどね!」


 本当に大好きだよ、ハルくん!

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