2話 彼女・彼氏と登校することになりました〜主人公視点〜

 彼女ができてから初めての朝。

 俺は時間に余裕があることを確認してからゆっくりと身を起こし、二階にある自室から一階のリビングへと向かう。

 ドアを開けると、我が家の朝では見慣れない影があった。


「あ、親父。今日休みだったんだ」


「今日は大事な用事があるからな」


「ふーん。休み中々取れない親父が休みを取るとは…………彼女でも出来た?」


 俺は冗談めかして言う。

 実は俺の親父────雨宮あまみや秋生あきおは、シングルファザーで、十年もの間、男手一つで育ててくれたのだ。


「そ、そそ、そそそんなわけないだろ?」


「何でそんなに動揺してるんだよ……」


「ま、まぁ俺の話はいいじゃないか俺の話は。それよりもどうだ? 春希は彼女出来たか?」


「そ、そそ、そそそんなわけないだろ?」


「そんな反応してたのか……俺…………」


「ま、まぁそんなことより! 彼女作れよな!」


「何で春希が上から目線なんだよ!」


 俺としては長年の感謝もあるので、少しくらい好きなように生きてくれてもいいのになぁと思うのだが…………

 まぁ、こんな彼女出来た? くらいで動揺してるくらいならそういうのとは無縁そうだな。ドンマイ、親父。


 のちにそんな俺の考えが杞憂に終わることを、今の俺は知らないのだが。


         *


「それじゃあ、行ってきマンモスイカにんじ────」


 俺は準備を済ませ、挨拶をしながら玄関のドアを開ける。


「────ん?」


 すると、ウチの門の前に誰かが立っているのが見えた。


(こんな朝早くに誰だ……?)


 それが誰か認知する前に、俺の方に影が勢いよく突進してくる。

 え? ヤバくn…………


「ハルく〜ん!」


「うぐふぉ!」


 その正体は、俺の彼女になった紗織だった。

 俺は、俺の胸に飛び込んできた紗織を抱きとめる。

 というか一部分の弾性力すごいな。反発係数むっちゃ高そう。


「おはよ!」


「おぉ紗織! おはよう! よく来たなぁ〜」


 そう言って俺は頭を撫でる────


「────じゃなくて! なんで紗織がいるんだよ!?」


「そりゃハルくんの彼女だからに決まってるじゃん!」


「答えになってるようでなってねぇ!」


 てか、なんかキャラ変わったな。


「そ、そんなの…………彼氏と一緒に学校行きたいからに決まってるじゃん!」


「………………」


 か、可愛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 ダメだこれ。心臓何個あってもたないぞ!? というか、彼女ってこんなに可愛いもんなのか!?

 いやいや、そんなこと考えている場合じゃないな。

 ここは漢としてリードするんだ! 昨日徹夜で、今大人気の恋愛系Webサイト『彼氏・彼女と一生添い遂げるゾ☆』を使って調べてた成果を今こそ見せる時!!!


「そ、それじゃあ行こうか」


 そう言いながら手を差し出すのが最初。そうすると…………


「うん! 行こ!」


 『可愛い声で「うん!」と言った後、彼女が手を絡めてきて恋人繋ぎになります』


 うわガチやん! 本当に絡めてきたぞ!? あのサイト怪しかったけど有能だな!?

 その後は…………


『後は目的地に着くまで頑張りましょう! 貴方の人生です。こんなサイトに頼ってないで決めましょう!』


 いや最後雑だな! でも確かに言ってることは合ってるから頑張るしかないな……!


「さ、紗織」


「何かな? ハルくん?」


「あー…………今日の学校緊張するな」


「…………! ど、どうして?」


「みんな俺と紗織が付き合い始めたこと知らないだろ? だからどんな反応されるかなぁと思って」


「大丈夫だよ! 私、学校一の美少女だから!」


「自分で言うな! というか、紗織が学校一の美少女だから緊張するんだよ!」


「ん? 何で?」


「だってほら…………学校での立ち位置とかあるだろ? だから、付き合ってること隠した方がいいんじゃ…………」


 俺がそう言うと、紗織が背伸びをして俺の耳に口を近づけ、囁く。


(私にはハルくんがいれば良いからさ! 隠さないで、普通にイチャイチャしようねっ!)


 耳に吐息と甘い言葉がかかり、全身に電流が走るようにゾクリとする。

 心臓に悪いからやめてほしい。可愛いからまたやってほしいけど。


「ハルくんが照れてる〜! 可愛い〜!」


「おい! つんつんするな! つんつん!」


 昨日はとても塩らしい感じだったのに、なんか今日は積極的だ。

 そして今度は、紗織が俺の腕に絡み付いてきた。

 だんだんと学校に近づいて人も増えてきたところ。

 こんな調子だから忘れかけていたが、彼女はとても人気だ。というか、学校一の美少女なのだ。流石に周りの視線が痛い。


(誰だアイツ…………)

(確かちょっと変で噂の…………)

(あーあれね。足めっちゃ臭いらしいよ)


 おい! 最後の完全に悪口だろ! てか嘘情報流すのやめろ! こうやって噂って広がっていくんだな…………ぐすん。

 臭くないからな? 本当だぞ?


「ん? どしたの?」


「何でもないぞ」


「ふへへ、ふにゃ〜」


「頭撫でられてふにゃ〜って声に出すやつ初めて見たよ」


 俺は頭を撫でられて幸せそうな顔をしてる紗織を見て微笑む。

 すると、俺がいる方とは反対側の紗織の手に光ったスマホが見えた。


「なぁ紗織」


「な、何かな?」


「もしかして…………『彼氏・彼女と一生添い遂げるゾ☆』で調べてきた?」


「ど、どど、どどどどどどどどうして分かったの!?」


 動揺しすぎだろ…………

 星○源のドラ○もんよりドって言ってるぞ。


「なんか昨日と違って積極的だから……後は俺も見てからきたからさ」


「なんだぁ。ハルくんも緊張してたんだね〜。めちゃくちゃ緊張して損した〜」


「似たもの同士だな俺たち」


「それはないかな〜! 私、全く変なところないし」


「もう本当に変って思っているのかネタで言ってるのか分からなくなってきたよ…………」


「ていうかハルくん! 分かってもそういうのは言うもんじゃないと思うなぁ。折角私も頑張ってたんだから! まぁ、そんなちょっと変わってるところも好きなんだけどね!」


 え? やっぱり変わってるのか俺って…………?

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