1話 僕も彼女も初心すぎます

「………………」


「………………」


 なんとか担任の誤解を解いた後、何とか落ち着いた俺と桜井さんは共に帰路についているのだが……


(き、気まずすぎるだろう……)


 とにかく気まずい。前にいる人が友達かと思って声をかけに行ったら、全く知らない人だったって時くらい気まずい。

 なんてことを考えていたら、ふと、俺の右手の甲に少しひんやりとした感覚を覚える。

 右を向くと、隣にいる桜井さんと目が合う。

 だが、お互い恥ずかしくなり、すぐに目を逸らす。

 そんなやりとりを何度か繰り返したのち……


「もう! 何で気づいてくれないの!?」


 今までの気まずい空気を吹き飛ばすくらいの大きな声で桜井さんが沈黙を破る。


「え……? 何が…………?」


「だって、付き合ってる女の子が手を何回もくっつけてるんだよ!? 手繋ぎたいってことじゃん!!」


「そうなの!? それって常識……?」


「……………………じょ、常識だよ!」


 間があったけど本当なのか……?


「じゃ、じゃあ……手、繋ごうか」


「う、うん…………」


 俺たちはお互いの手を絡ませ、恋人繋ぎをする。

 彼女の手は、強く握ったら折れてしまいそうなほど細くて繊細で滑らかで、少しひんやりとしていた。

 だが、手を繋いでから少し経つと、彼女の温もりが伝わってくる。


「なんか、恥ずいな」


「さっき抱きついてきた人がそれ言うかね!?」


 なんて俺にツッコミつつも、彼女は耳まで真っ赤だった。


「あのさ、桜井さんって…………もしかして付き合うの初めて?」


「な、ななな、なっ、なんっ……! 何でそう思うの?」


 動揺しすぎだろ…………


「反応がそんな感じするし、りんごみたいに真っ赤だから」


「しょ、しょうがないでしょ! 私だって雨宮くんと両想いだったって分かってすっごい嬉しかったんだし」


 そう言いながら彼女は、髪の毛の先をクルクルといじる。


「そ、そういう雨宮くんだって、付き合うの初めてなんでしょ?」


「ソ、ソンナコトナイヨ?」


「文字で表したら半角カタカナになってるやつ! 絶対初めてでしょ!」


「初めてだよ。でも意外だなぁ。桜井さんは勉強もスポーツも出来るハイスペックな学年一の美少女で────」


「そ、そこまで褒められると恥ずかしいからやめて!」


「お、おう……」


 彼女、押しに弱いな。精神的に物理的にも。


「今まで誰とも付き合ってなかった理由は……初めては…………あ、雨宮くんが良かったから、かな!」


 そう言って俺に笑顔を向けてくる櫻井さん。なにこれ可愛いかよ。

 でもここで、一つ疑問が浮かんでくる。


「それは凄く嬉しいんだけど……何で俺なんかのことを好きになってくれたの?」


「俺なんかって言わないの! 言っておくけど、雨宮くんだって結構人気なんだよ? 『勉強もスポーツも結構出来るし、よく見るとカッコよくない?』ってね」


「でも俺、モテたことないぞ……?」


 てか、よく見ないとカッコよくないんかい。


「それは…………多分、ちょっと変だからだと思う」


 え? 俺ってちょっと変なの?


「で、そんな俺の告白(の練習)にどうしてオッケーしてくれたの?」


「優しくて面白くて、自然体で接してくれるし、いさせてくれるから、だね」


「でもそんな人、桜井さんの周りになら沢山いそうだけど……」


「そうでもないよ? 中学の頃から、近づいてくる男子は私に媚び売ったり、付き合いたいからって優しくしたりだけ…………でも、雨宮くんは違った。ちょっと変だけど、いつも自然体で私に接してくれた。そんな雨宮くんを目で追ったりしてて……気づいたら惹かれてた……」


 やっぱり俺、ちょっと変なんだ……


「だから、両想いだって分かって凄く嬉しかった」


「桜井さん…………」


「しかもあんなに真剣に告白の練習してる人初めてみ…………」


「桜井さん、これ以上は僕の羞恥心がお亡くなりになられそうなのでこの話はここで終わりにしよう。いや、してください」


「分かった。じゃあそのかわりに私の言うことを一つ聞いてほしいな?」


 上目遣いで聞いてくる桜井さん。ダメでしょこれ、可愛すぎて反則。普通の人じゃなければ頷くところだが…………俺は負けねぇ!


「エッチなことじゃなければいいよ」


「それ、どっちかっていうと私が言う台詞セリフじゃない? さっき抱きついてきたのだって雨み…………」


「ごめんなさいもうふざけないので黒歴史掘り返すのだけはやめてくださいなんでも聞きますから」


 もうふざけるのはやめよう。うん。


「やったね! あのさ…………私たち、彼氏彼女の関係になったわけじゃん? カレカノなんだし、名前で呼び合いたいなぁって」


 な、名前呼び……!? もしかして……


『春希、だ〜いすき!』


『俺もだよ、紗織』


 なんてリア充どもがやっているあの伝説の名前呼びだと!?


「さ、さ、ささ、紗織が良いならそうしようか」


 むっちゃ噛んだぁ! これじゃ童貞丸出しジャマイカ!


「ありがとね! ハル……くん」


 あれれぇ〜? おかしいぞ〜? 名前呼びじゃないぞぉ〜? (某見た目は子供、頭脳は大人名探偵ボイス)


「こっちから言っておいてなんだけど……や、やっぱり恥ずかしいから慣れるまでハルくんでも……いい?」


 再び上目遣いで聞いてくる紗織。

 あっちも処女丸出しじゃないか!

 ていうか、さっきから上目遣いばっか使ってくるけど、男子がそういうの好きだって分かってやってるのか!? こんなの思春期男子の理性くんが勝てると思うか!?


「しゃーない。可愛い彼女の頼みだからお願い聞いてやるよ」


「か、可愛い……!?」


 頬を赤く染める紗織。

 こんなので照れてたらこの先が不安だな…………

 まぁ、可愛いから良いんだけどね。

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