6話 彼女と初めてのデートをします 前編

「き、緊張する…………」


 現在、午前七時。初めてのデートで待ち合わせをしており、とても緊張している雨宮春希です。


 とりあえず遅れないように待ち合わせの二時間前に来たけど……明らかに早すぎたよな? まぁ、今日行く場所の下調べでもして余裕のある感じを演出していくか。


「というか暑いな……」


 今はまだ5月の中旬。地球温暖化や、エルニーニョ現象とやらで例年よりも暑く、昼頃には真夏日となるらしい。

 早よ冬来いや!


「────い!」


 ん? なんか今聞こえなかった?


「お〜〜〜〜い! ハルく〜〜〜〜ん!!」


 遠くで聞こえた声がだんだん近くなってくる。走ってきているのだろうか。

 え? 紗織の声だよね!? まだ二時間前だぞ何でもう来たのか!?


「あれ? お〜い」


「さ、さお…………りうぉ!」


「ん? どしたん? 変な声出して」


 目の前で声がしたので顔を上げると、そこにはデニム生地のオーバーオールの下に短めの白いTシャツを着て、肩紐を片方外している紗織がいた。


 シャツが短いので、初雪のように白く、きめ細かくて美しいくびれが晒されている。

 いや、俺の好みにドストライク!!!!!


「い、イヤ? ナンデモナイヨ?」


「もしかして〜? 私の私服に見惚れちゃった系ですか〜? それで、『くびれむっちゃエロ! 俺の好みにドストライク!』とか思っちゃっいました〜?」


 いやエスパーかよ! てかなんで小悪魔後輩ムーブしてるんだよ!? てか、占い師やった方がいいよ絶対!


「お、思ってねぇし……」


「それはそれでなんか悲しいなぁ」


「ごめんなさいいつもの紗織よりも魅力的で俺好みに合わせてくれたんであろう服装から神秘的で健康的なくびれが出ているのも良くてメチャクチャ可愛いなと思ってガン見してました許してください」


「それもそれでなんか恥ずかしい……」


「いやどうしろと?」


「普通に褒めることは出来ないの?」


「…………か、可愛いし、とても似合ってる」


「…………ッ! あ、ありが、とう……」


 長い髪の先を指でクルクルする紗織は、先ほどよりも更に魅力的に見えた。


「ま、まぁこの服慌てて探し出したから、もっとハルくんが好きそうな服あるんだよねぇ」


「な、何だと……!?」


 これ以上可愛い紗織が見れるだと……!?


「夏になったら一番のお気に入りで、ハルくんが好きそうな服見せてあげる」


 早く冬来いやとかほざいてすみませんでした今すぐ夏にしてください神様仏様作者様皆様!!!


「楽しみにしておいてね?」


「全裸待機してます!」


「暑くても全裸はやめて。恥ずいから」


          *


「まだ朝七時だけど……もう遊園地向かっちゃう?」


「そうだな。どうせなら一番乗りしようぜ!」


「じゃ、行こっか!」


 そう言って彼女は手を差し出してくる。

 俺は紗織の手を取り、恋人繋ぎをする。手を繋ぐのもまだ二回目だが、相変わらず繊細で、か弱い一人の女の子なんだなと実感させられる。


「そういえば私、男の子と出掛けるの初めてかも」


「え、意外だな。紗織なら手に取るように男子たちと出かけてるもんだと思った」


「私のことなんだと思ってるの〜!」


「彼氏の名前恥ずかしくて呼べなくてニックネーム呼びしてる初心な彼女」


「う、うるさいなぁ〜! ニックネーム呼びだってカレカノっぽくていいじゃん! というかハルくんもさっき私の姿見てこーふんしてたくせに〜!」


 そりゃ学校一の美少女が俺好みの服で来てくれたらな。


「ま、まぁ……初めてなのは…………俺的には結構嬉しい」


「う、うん……私も」


「…………」


「…………」


 うん、やっぱり俺ら初心だな!?

 初心だけど…………今日はせっかくのデートで遊園地。絶対キスまでいくんだ!

 なんたって今日行くところは"夢が叶う場所"だぞ!


 しかも学校で『え? まだキスしてないの?』とか言われたからな。今の高校生は付き合うって決めた瞬間にキスでもするのか……?


 そんなことを考えていたらあっという間に駅に着いた。


「混んでるかなぁ?」


「まぁ、まだ朝早いし大丈夫だろ。」


 なんて言ってた俺だったが……


「いや! むっちゃ混んでるな!?」


 ホームにはたくさんの人がいた。

 今日は休日だけど、ゴールデンウィークとか年末年始とかみたいな長期休みじゃなくて普通の休日だぞ!? しかもまだ朝早い時間だぞ。こんな混むのか……

 一抹の不安を抱えつつも、俺と紗織は電車へと乗り込む。


「紗織はドア側に行きな」


「あ、ありがとう」


 紗織は可愛いし、痴漢もされやすいだろう。俺は紗織がドア側になるように言った。と、その時…………


 ガタンッ


 電車が揺れた。


「「おっとっと」」


 場所を入れ替わっている途中だった俺と紗織。電車が揺れたせいで、紗織はドアに押し付けられ、俺はドアに片手を付くような体勢となり、俺が紗織を壁ドンしてるような構図になってしまった。


「「………………」」


 き、気まずい……とか思った俺だったが…………


「…………ッ!」


 目の前に紗織の顔があった。

 うわ顔ちっか! てかまつ毛なっが! しかも肌むっちゃ綺麗だし!

 何この上目遣い……本当に同じ生き物なのか!?


「い……い…………よ?」


 そう言うと紗織は、少しばかり顔を上に向け、目を瞑る。


(まてまてまてまてまてまてまてまて!)


 いいよって何だいいよって!?

 コレってキスしてもいいよってことだよな!? いやでもこんな公共の場でキスする訳には…………しかし、この状況を作ったのは電車だ。恨むなら電車を恨めよ……


 ────ゴクリッ。


 俺は彼女の顎に手を添え、ゆっくりと顔を近づけていく。


 ガタンッ!


 もうすぐで唇同士が触れ合う、その瞬間に再び車内が揺れた。その反動で俺は、もう片方の手をドアにつき、両方の手で紗織を挟むような体勢になった。

 クソォ〜! もうちょっとで初キスできたのにぃ!

 すると、紗織が俺の耳に顔を近づけて囁く。


(今度は……ちゃんとしようねっ)


「…………ッ!!」


 電車よ。紗織と近づけたから感謝はするけど怒ったかんな、許さないかんな。


         *


 その後は特に何もなく、他愛のない話をしながら目的地へと向かっていく。


『次は〜東京ディスティニーアイランド前〜。東京ディスティニーアイランド前〜』


「いよいよだね!」


「いよいよだな」


「楽しみだねっ!」


「そうだな」


 興奮が隠しきれない紗織に俺は相槌を打つ。冷静を装ってる俺も内心、めちゃくちゃ興奮している。


 さぁ────ここからがデート本番だ!

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