5話 相手家族が引っ越してきました
────ピンポーン
二人で住むには無駄に広い家に、インターホンの音が鳴り響く。
「春希〜! 多分美幸さんたちだから出てくれ!」
「分かったー」
俺はソファから立ち上がり、玄関へと向かう。
緊張するな……こういう時ってどうやって迎えるのが正解なんだ……? ぼ○ちちゃんみたいにクラッカーとか用意したりパリピみたいになって迎えてみるか? いや、失敗しそうだからやめておこう…………多分、シンプルが一番だ。
ガチャリ
「お帰りなさーい!」
「「「……………………」」」
あれ? 失敗した……?
え!? てか美幸さん、泣き出しちゃったんだけど!?
「ちょっ!? み、美幸さんどうして泣いてるんですか!?」
「こんな急なのに、春希くんが家族として認めてくれてるみたいで嬉しくて……」
「「「涙腺脆!?」」」
「春希くん。遠慮しないで、私のことお義母さんって呼んでもいいのよ?」
「あっ、それはまた追々」
なんかこの人、むっちゃお義母さんって呼ばせようとしてくるな…………
*
「俺は美幸さんに色々と説明するから、お前は二人のことを頼む」
「はいよー」
父さんがそう言うと、二人が駆け寄ってきた。
「ってことで任されました。春希です。えーっと坂下さ…………」
「美帆で良いわよ」
「え?」
「だーかーら。名字呼びだと分かりづらいでしょ? 美帆で良いって言ってるのよ」
「で、でも…………」
「それとも、お義姉ちゃんの方が良いかしら?」
「あっ、坂…………美帆が姉なんだね」
「私の誕生日、二月二日だからね。春希くんはえっと……」
「三月十五日。最高の日だな。後、呼び捨てで良いよ」
「自分で言うんだ……」
「その方が"最高"に面白いだろ?」
「つまんないわね」
ふふっ、と二人で笑い合う。なんか姉弟みたいでいいな。あ、姉弟か。義理のだけど。
笑い合う俺らの横で、じっと俺らを見つめる義妹がいた。
「えっとぉ……蜜璃ちゃん…………だっけ?」
「違いますっ!! 一文字も合ってないし、それ鬼○の刃のキャラクター名ですよね!? 彩美です!あ、や、み!」
「ごめんごめん。昨日は気が動転してて……」
「まぁいいです。私はお姉ちゃんと先輩の一個下なんで、先輩はお好きに呼んでください」
「じゃあ、彩美ちゃんで。てか、何で先輩?」
「年上だから名前呼ぶのはなんか抵抗あるので……無難なやつを」
「お義兄ちゃんでも良いんだぞ?」
「あっ、それはまた追々……」
ぐっ……! ちょっと悲しいな…………美幸さんって、こんな気持ちだったのか……? よし、今度からお義母さんって呼ぼう。うん、そうしよう。
「ってことで、二人を部屋に案内します」
俺はシスターズを連れ、二階へ上がる。
「えーっと階段に一番近い、手前の部屋が俺の部屋。そんで、奥の二つの部屋が美帆と彩美ちゃんのなんだけど……どっちがどっちか決めて欲しいな」
さぁて、大体こう言うのって『春希くんの隣の部屋は嫌だ!』とか『奥の部屋が良い』とかで喧嘩になるんだよなぁ……どうなる! 坂下姉妹!
「私が春希の隣の部屋で良いわ。彩美は一番奥の部屋、使って良いわよ」
「ありがと、お姉ちゃん」
お、こんな平和に終わることあるのか! 美帆は優しい────
「────私の可愛い妹が春希に食べられないようにね」
「食わねぇよ!」
前言撤回! ただのシスコンだったわ!
「一応言っておくけど冗談よ。ふふっ」
くっ……義姉に弄ばれてる……! シチュ的にはいいが実際に受けるとちょっとだけムカつくな!
そんなことを思っていたら、俺のポケットに入っていた携帯にメッセージを告げる音が鳴る。
「誰……?」
「紗織からだ」
「紗織って誰です?」
「春希の彼女よ」
「えっ、先輩って彼女いたんですか?」
「何だその『先輩って彼女いたんだ。絶対モテなさそうなのに』ってニュアンスの煽りは!? これでもモテるらしいぞ! まぁ、彼女は最近できたんだけどな」
「本当に……?」
「本当よ。春希は顔も悪くないし、意外と何でも出来るし、ちょっと変だけどそのギャップがまた良いって」
「可愛くて何でも出来るお姉ちゃんにそう言われるとちょっと嫌味に聞こえなくもないけど……そうなんだね」
なんか恥ずかしいな…………
俺のことをクラスメイトの美帆が他の女子に話しているのを側で聞いてるこの感じ。
「まぁそれより春希、早く返事してあげないとよ。何て来たの?」
お前は恋愛指南する姉か!? いや、姉ではあるか……
「えぇっと……『最近ハルくんに会えてないからデートしたぃ〜!はーとキラキラキラキラの顔。明日はどう〜うるうるした顔文字はてなはーと』だって」
「なんかおじさんみたいね……」
親父こんなんだから分かる。
「まぁ、色々バタバタするだろうから今回は…………」
「いや、行ったほうがいいんじゃないかしら?」
「で、でも…………」
「このままじゃ速攻で振られちゃうわよ?」
「そうだな……よし、美帆たちが平気ならちょっくら行ってくるわ! あ、親父は俺が付き合ってることまだ知らないから誤魔化しといてくれ!」
「分かったわよ」
「了解です!」
斯くして、俺は紗織と初デートをすることになったのだった。
*
私とお姉ちゃんは先輩の説明を聞いた後、それぞれの部屋に荷物を持ち込んだ。
「あ! お姉ちゃんの荷物、私のと一個入れ替わってんじゃん!」
私はお姉ちゃんの荷物を持って、さっきもらったばかりの部屋を出る。
「お姉ちゃん!」
「ん〜? どうしたの? 彩美?」
「私の荷物とお姉ちゃんの荷物入れ替わってるのない?」
「そうなんだ。じゃ、私、お手洗い行ってくるから。私の荷物と入れ替えておいて」
お姉ちゃんはそう言うと、部屋を出て行った。
「さぁて、お姉ちゃんうるさいから早く出しちゃお〜」
まだあんまり現実味は無いけど、これからこの家で暮らしていくんだなぁ私。
というか何なのよあの人! 私の名前覚えてないしさ。
「うん?」
なんて思いながら物を取り出していた私は、お姉ちゃんのカバンから便箋が落ちた。
「これって……?」
裏を見ると、"美帆"とお姉ちゃんの名前が書いてあった。
「何だろうこれ……」
私は気になって中を見てみる。すると………
「もしかしてお姉ちゃん…………」
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