7話 彼女と初めてのデートをします 中編
東京ディスティニーアイランド。
ネズミのマスコットキャラが大人気の遊園地で、毎年何千万人もの人が来るとか来ないとか。
「「せーの……ディスティニー!」」
電車から降り、チケットを購入した俺たちは、午前九時────開園時間に入園した。
「ねねハルくんハルくん! どこ行くどこ行く?」
「紗織落ち着け。こういうのは落ち着きが大事なんだ」
「じゃあ何でハルくんと私は走ってるのかな!?」
「そりゃ人気アトラクションが混む前に乗りたいかならな!」
「言ってることと行動が矛盾してるし! まさかの一番テンション上がってる!?」
「そんな訳ないじゃないか。さ、一番乗りするぞ」
「やっぱりテンションマックスだ!?」
そんなテンションの高い俺たちが一番最初に向かったのは、ビックリサンダーマウンテン。暴走した機関車が雷光のように山を駆け巡るジェットコースターみたいなアトラクションだ。
「はぁはぁ、よっしゃ! まだ人いないぜ」
「はぁはぁ……これ、デートだよね?」
"立派なデートだ!" "いや違う!" なんて言い合いながら俺たちは乗り物に乗り込む。
『大変です皆様! 機関車の一部機能が故障しました! どうかご武運を。それでは、行ってらっしゃい!』
いや行ってらっしゃいじゃねぇよ! 全体設定凝ってるのにそこだけ設定雑だな!?
「どうしよ〜ハルく〜ん! 乗ったら急に怖くなってきた」
「大丈夫か……? 手、繋ぐ?」
「いや大丈夫大丈夫!」
とか言いつつ、ちょっと震えてるんだけど……
「やっぱり全然、大丈夫じゃなかったァァァァァァァァァァ!」
紗織が叫ぶと同時に、一瞬だけ浮遊感を感じた。と思ったらコースターが急落下し始めた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ふぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
紗織の叫び声と俺の雄叫び、そして他の乗客の声が荒れ果てた山に響き渡るのであった。
*
ビックリサンダーマウンテンを降りた俺たちは、次に乗るアトラクションを決めるため、待ち時間を検索できるアプリを見ていた。
「うわぁ……どこも混んでるな……」
「ここなんて180分待ちだよ!」
「まぁ、こういうのって実際の待ち時間とは違ったりする時あるから適当に歩きながら空いてるとこ探すか」
「そうだね〜。ハルくんと一緒ならどこだって楽しいし!」
「俺も」
俺たちは手を繋ぎ、他愛のない話をしながら夢の国を歩いていく。流石は夢の国、周りの人たちも浮き足立っているように見える。
「あっ」
「おっ!」
俺と紗織の声が重なったのは同時。
俺たちの視線の先にあるのは、蔦が生い茂った廃墟のような病院だ。
「お化け屋敷、
「空いてるね……」
────ホーンテッド・ホスピタル。日本のテーマパークの中で一番怖いと言われているらしい。
「…………」
「…………」
「空いてるし、行くか?」
「…………」
「嫌ならやめとく────」
「────行く」
「無理、してない?」
「だ、大丈夫! ハルくんが側に居てくれるでしょ?」
「勿論だ」
紗織は上目遣いで俺のことを見てくる。なんか彼女に頼られる感じがして良いな。
「手、繋いでくれる?」
「今も繋いでるだろ」
「もしかしたら途中で腰抜けちゃうかもしれないけど……」
「そしたらお姫様抱っこしますよお嬢様」
「今私ね、ブランドバッグが欲しいんだけど……」
「それはもう少し大人になってからな」
危ない危ない。危うく夢の国で高級バッグ買う約束して夢を叶えさせるところだった。
数十分後。
『それでは……新規患者のご案内です……』
入り口に立っているキャストの方の演技力なのか、それともこの雰囲気に呑まれているのか。まだ中に入ってもいないのに怖いのを肌で感じる。
「も、もう怖くない?」
「き、き、き、気のせいだろ。多分」
「さっきちょっとカッコいいなって思った私の心を返してほしい……」
「冗談だから安心してくれ。俺が怖いと思うのは女子の陰口と進み行く地球温暖化だけだ」
「ごめんこの状況で突っ込むの厳しいから無視するね」
そんなやりとりをしていたらあっという間に病室の前へと辿り着いた。
「そういえば廊下では何も起きなかったきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
後方を見て突如悲鳴をあげた紗織。
俺も後ろを見ると、血だらけの大量の患者が床を
「無理無理無理無理無理ぃぃぃ!」
紗織は叫びながら病室へと入って行く。
「待てって! 絶対ヤバいって!」
俺はすぐに彼女の後を追う。
「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
入って行ったと思ったら先ほどよりも大きな叫び声をあげながら部屋を出てきた。
「ひゃっ!」
それ同時に俺の手にぷにっとした柔らかな感触を感じた。
その感触の正体は、Tシャツから少し見えていた彼女のお腹だった。
「ご、ごめん!」
不可抗力だったけど反射的に誤った俺。だが、紗織は頬を膨らませており、怒っているように見える。
「ど、どうした?」
「ハルくん今、私のことぽっちゃりだと思ったでしょ!」
「いやいや思ってないよ!」
柔らかいなぁとは思ったけど。
「むぅ。最近ちょっとお菓子食べすぎて二キロ太ったから気にしてるのにぃ」
なんか自分から太った情報くれたんだが。
「いやいや紗織は痩せすぎなくらいだからそこまで気にしなくてもいいと思うぞ」
実際、誰がどう見ても羨ましがるであろうスタイルだしな。
「ま、まぁ俺はさ……紗織がどんなでも………俺は好きだよ」
「……っ! ハルくんってたまにそういう恥ずかしいことサラッと言うよね」
「そうか?」
「うん、絶対そう。無自覚に人を惚れさせるよハルくんは」
けど、と紗織が続ける。
「────そんなハルくんが大好きだよ!」
守りたい、この笑顔。
『わだじの子どもはどごぉ〜?』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! てかここお化け屋敷の途中だったぁ! なんか後ろから来てて怖いよぉ……」
そう言う紗織を俺は後ろから抱きしめる。
「これで後ろ、怖くないだろ?」
「うん! ありがと!」
『『『チッ』』』
こうして紗織をバックハグしながらお化け屋敷を進み、俺らは無事にお化け屋敷から出ることができた。
けど、なんか別の殺気を感じたんだが気のせいだよな?
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