No.6-1 RPG主人公の双子の姉に生まれ変わったのでお祭りに行くことになりまし
___いちばんはじめに、父たる神と母たる精霊がおわしました。
そうやってゲームははじまった。
”忌み物グリムと妖精物語“OPはこの世界における神話から始まる。世界の成り立ちと在り方、妖精の存在と歴史、契約の遍歴を御伽噺風に語ることでプレイヤーにスムーズに認知を促し物語へ没入させ、一体感を促すためだろう。
それが終われば画面はノイズと共に荒く古ぼけた映像へと切り替わる。
〔倒壊した都市。最早原型を失い瓦礫の山と化したカフェ。落ちた甲冑の中から垂れ流れる赤黒い液体。粉塵が舞って僅かに残った誰かの痕跡すら攫っていく。逆さまに十字架が落ちて突き刺さった教会。悲鳴に似た子供の助けを呼ぶ泣き声。折れた剣を握りしめ俯き臥せる騎士。徘徊する黒い影、化け物、敵。簡易に囲まれた場所で走り回る白衣。赤い屋根だけ取り残された民家。〕
〔蜂蜜色の瞳に光を讃える星の騎士。国を襲う”魔王”に勇敢に立ち向かい全身に傷を負いながら諦めることを知らず立ち向かい、その心臓に剣を突き立てた。魔王は間際の咆哮をあげながら消滅していき、今まさに悪を打ち滅ぼした星の騎士は体に負った傷の痛みに膝をつきながら、それでも勝利の余韻に浸るように拳を握りしめる。
都市を闊歩していた化け物達は魔王の消滅と共に消えていき、人々からは歓喜の声が上がった。〕
〔それをかき消す厄災の出現。魔王の残した残滓を食い破って生まれた災害。厄災は悪意を持って滅亡に瀕した都市へ、国へ、世界へ魔の手を伸ばしいく。〕
〔既に魔王との戦いで傷を負った騎士は厄災の出現に、なおも立ちあがろうとするが痛む傷がそれを許さない。口から血を吐き、地面に突き立てた剣を支えにようやくうずくまる騎士は最早限界であった。厄災は全てを平等に、見境なく命を奪っていた。皮肉なことに厄災の近くにいたからこそ騎士はすぐに死ぬことがなかった、代わりに、世界が崩れていく光景を最前線で無力に目に入れるしかなかった。
無力さに苛まれ、這いながらも前に進もうとする騎士の元へと伸びた悪意の攻撃を防いだ魔法は彼が放ったものではない。駆け寄ったグレージュの髪の女は腕に双子を抱き抱えていて、騎士の体を魔法で物影へと隠した。
子供を守るように抱きしめながら目を俯かせる女。腕に抱き締められているのは双子の男女であったが、きゃらきゃらと場違いに手を伸ばす女児とは裏腹にぴくりとも動かず眠ったように目を閉じたままの男児。項垂れるように目を伏せた騎士は何かを決心したようなひどく悔しげな顔をして、女に何かを話しかける。女は目を見開かせ最初、首を振るが再び騎士に何事かを告げられ、最後には頷いた。〕
〔これは罪である。だが愛である。大人が子供に押し付けた罪であり、守りたがった愛である。〕
〔騎士は最後の力を振り絞り厄災の前へと転がり出ると、何かを呟きながら手を伸ばした。強烈な閃光が厄災にむかって放たれ、騎士の背後ではグレージュの女が魔法陣の上で魔力を逆巻く。収束していく閃光は厄災を呑み込むようにして、やがて女が抱きしめる双子のうち男児の体へと収められた。男児の体は光に包まれ、それから穏やかな息をもって体が上下し始めたので女はひどく申し訳なさそうに2人の子供を抱きしめ、騎士は悔しげに顔を顰めながらその場へと倒れ落ちた。〕
プロローグとも言える映像が終了し、繊細なエフェクト共にタイトルロゴが映し出されることでOP は終了し、ゲームは始まる。15歳の誕生日を迎えた
(一回、記憶を改めて整理しよう。”わたし”を思い出してからの展開が早すぎて、頭がちょっとこんがらがっちゃいそうだもの。)
ソファに体を預けながら目を閉じる。頭の中で箇条書きしたメモを並び替えていくようなイメージで”ゲームの物語”を思い出していく。
(まず、全体的なストーリーはおおまかに4章。
物語の冒頭、チュートリアルを含んだ一番短い”序章”、通称”森の小屋編”
街における
第二章、通称”魔法学校編”
後の仲間であり、他プレイアブルキャラクターたちとの交流を描く章。妖精物語は
それから第三章、通称”厄災編”
最も長く、自由度の高い章ともいえるかな。オープンワールド要素が制限なく解禁されて、各地を旅して回る…なんて言えば聞こえはいいけど、そもそもこの章の始まりは
そして終章、通称”結末編”
特定のフラグを全て回収することで解放される最終決戦。終章ではあるけど、結構ボリュームが大きいんだよね。グリムノワールとの完全決着へ至るまで、厄災の果て……エンディングと、その後の世界を覗くちょっとしたおまけ要素を含んだ章。)
一度細かいところは置いておいてざっくりと妖精物語の構成を思い出す。”森の小屋編”と呼ばれる始めがいちばんひどくて、テトラは一番嫌いだった。
(諸悪の根源、街に
国王が秘匿しようとした真実を、一部の者にしか明かされていないそれを、母が死んだ途端にべらべらと街の人間に話してしまえるような”あの騎士もどき”を思い出して苛立ちが込み上げる。任務を任されるだけの、秘匿を明かされるだけの、実力と経歴、それから人当たりの良さを持っていたのだろう”あれ”はただの”騎士もどき”であったのだ。
(その頃は街の人間はまだまともだったな。酒を飲んだくれる騎士に子供たちはどうしたって聞くくらいは。だからって、もう、それで絆されてやれるほど私たちは仕方ないものにされたくない。ゲームのテトラが攫われた直後に王国からの聴取をうけたフィーア・シャッテンに、自分たちの行いを暴露されないように口封じの魔法をかけるのもそいつだったし、つくづく余計なことしかしないよなぁ)
”還らずの叢雲”の二つ名に相応しく後悔だけで生き続けた騎士は、その末路として犯罪者として身を堕とし道連れにすることで決着をつけようとする。哀れな暗殺者として、騎士とは呼べないただの”敵”として出てくるだけのキャラクター。
「シックス、味見をしてくれないか?」
「からい!」
「そ、そうか…すまん…」
【ヴァーウァウッ】
「呆れた目で見るな…」
シックスにきっぱりとダメ出しされた挙句、サンダーウルフに「まだぁ?」とばかりに呆れて吠えられ、しょぼんと肩を下げる姿には見る影もないことはきっと、テトラの功績だろう。
(シックス、随分とお兄さんに気を許すようになったなぁ。あの時助けてくれたのと、お母さんの古い知り合いで面倒を見に来てくれた人って説明したからかな?)
まだ街の人間全てにほんの少しの期待があった頃。大人の様子を窺って、子供の足音に反応して、みじろき一つにすら警戒する小動物にも似た表情を向けるシックスの姿を思い出しては、その大いなる差異に安堵する。
2人の母は双子が3歳を迎えてしばらくした頃に亡くなった。これは厄災との戦いで負った傷が悪化したせいだと語られている。もうすっかり顔が朧げになってしまったテトラの思い出でも、鮮明な”わたし”の記憶でも、2人の母は優しく強く、そして何より双子のことを愛してくれていた人だった。
(王国の中心都市でシックスを隠し通しながら育てるのは難しいからって頼み込んで、王国の南端にある片田舎の故郷の街に移り住んだ。私たちを引き離さないように守ってくれた。ずっとずっと私たちに謝りながら、それでも愛していると頭を撫でてくれた”お父さん”と抱きしめてくれたお母さん。)
だから、故郷に戻り未亡人として双子を育てる母を街の人間たちは余計な詮索もせずに気さくに接してくれた。森小屋に住んでいることだって自分の傷の療養のためと言えば、心配だけが返ってくるような、きっと2人の母が生きていた頃だけがまともな街だった。だから2人の母が死んだ時、街の人間は大袈裟なくらい気を遣ってくれたことだってあって、母が死んだ途端に酒屋に入り浸ってばかりの騎士たちに見かねた忠言までして、そしてそれが最後になった。
『あぁ、そういやアンタらは知らないんだったよなぁ。』
昼間から酒に溺れた吐息臭と共に吐き捨てる言葉。
『あの女も気狂いにちがいねーや!いや?もしかしたらあれが殺したのかもな!』
何がおかしいのかゲラゲラと人の死を嗤う様は騎士と呼ぶには悍ましい。
『世界を2度滅ぼした厄災!覚えてるだろ、あの悲劇を、憎悪を!あの餓鬼は見てくれこそ真っ当な子供の成りをしてるが、中身はただの化け物さ!多くの人間の命を奪った人殺し!』
国王の祈りを踏み躙り、両親の愛を否定した。秘匿の義務を一番最悪な形で吐露した挙句、悪意を持った刺青で変わり果てた別のものへと見晒した。
『そいつは苦しんで生きるべきだろ!だってそれに相応しい罪を犯した化け物なんだぜ?!』
そうしてグレージュの双子は”何をしても許されるべき化け物”になった。
狭い片田舎、すぐに広まった噂は酔いが覚めたばかりの”騎士もどき”たちが口封じの魔法をかけたことで街の外に広まることはなかった。それでも何もかも、後の祭り。無償の愛は他人にあげられるほど軽くはない。1人や2人、まともな頭を持って顔を顰めたとしても、誰だって自分や家族の方が大事だ。狭い田舎の街じゃ出る杭は頭ごと弾かれておしまいになる。本来ならば守ってくれるはずの騎士ですら元凶の”もどき”でしかない。
罪の共有意識はいちばん最初の感情すら押し流して、たったひとこと「みんなが」の枕詞だけで片付けられる。騎士もどきたちのなかで唯一子供を放棄する先輩たちに狼狽え、意見するような表記があったフィーア・シャッテンすら数ヶ月もすれば流されて境遇を当たり前のことみたいに眺めておしまい。
ふたりぼっちの双子はこうやって出来上がった。
(全年齢のゲームだったから表現は大分ぼかされてたけど、私の思い出も感情も、そうなっててくれたら良かったのかな?なーんて。)
テトラはシックスを置いていかず、憎悪の咆哮で妖精を呼ばず、グリムノワールは現れず、今もここにいる。だからこそフィーアは、テトラの怒りに触れて後悔に生きていることはきっと変わらないだろうけれど、正気に戻って発狂してから後悔の念から自分たちの罪を国に報告しようとした際に”騎士もどき”に口封じの魔法をかけられることもなく、森小屋にいる。
(あの騎士もどきが国で悠々自適に贅を尽くしているのは腹立たしいし、私は私が幸せならどうでもいいよって言ってやれるほど寛容じゃないから。…今お兄さんが国に報告した時、きっと邪魔してくるだろうし、そもそもそれで担当の人が変わったら頑張って傷を抉った意味もない。だから……それに、カタルシスが大きいほど、苦しいもんね?私は
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