幕間
5.5幕間
“短編未満の番外編2部構成”
[サブイベントストーリーが開放されました]
・“テイム紋章の証”獲得イベント:獲得には特定ストーリークエストのクリアが必須となります
以下は通信魔法道具にて実際にやり取りされた内容を書き起こしたものである。
〔もしもーし、もしもぉし。〕
「うるさい、繰り返さなくても聞こえてる。」
〔どちらですか?〕
「……誰かもわからずに出たのか、お前…」
〔まっさかぁ。だってさぁ、フィーちゃん連絡くれたのマジ久しぶりじゃん。そりゃー確認したくもなるって!ってかなんだっけ、フィーちゃんあれでしょ、なんだっけ?やんごとなき方?貴族?なんか偉い重要な人の護衛に駆り出されてるんじゃなかったっけ。〕
「まぁ…あぁ…そうだな。」
〔だからさぁ、ここ数年フィーちゃん、俺様と滅多に連絡しなくったって『ま、フィーちゃん忙しいもんネ』って思ってたのに突然さぁ。しかも聞いた話だと例の盗賊捕まえたのフィーちゃんだって話じゃん!俺様あいつらぶち殺してやるって心に決めててさぁ。〕
「盗賊って言っても碌な情報も与えられてないような末端だったがな。」
〔しかも屯所の騎士に聞いたぜ!そいつら妙に怯えてた上に馬鹿みたいな姿にしたんだろ!フィーちゃんサイコーだった。ぶち殺すのってあぁいう意味で壊すっていう手口もイイネ!〕
「アー…あぁ……その件でちょっとお前に頼みたいことがあって。お前その件の、魔法動物の保護や管理、訓練なんかを担ってる部署の統括主任かなんかだったよな。」
〔おうともよ。我ら魔法動物と共にあるための第4騎士団、所属は魔法動物保護契約部署統括、管理主任ってやつだな。俺様超天職。相棒と一緒に活躍できるってのがサイッコーでさ。…そういや俺様の相棒最近気になる子ができたっぽいんだけど、めちゃうじうじしてんの。俺様恋とか繁殖活動って意味くらいでしか理解できねーからさぁ、つっても相棒には甘酸っぱい恋愛してほしいじゃん。どうりゃいいかな。俺様超悩んでんのさいきん。〕
「そうか、大変だな。それで頼みたいことっていうのがさっき言ってた盗賊団に関係することなんだが。」
〔他の盗賊どもを総絞めにしたいってコト?あっ、見つけ次第捻り潰したいとか?〕
「奴らが捉えていた魔法動物のうち一頭、引き取りたい子がいるんだよ。今は特別権限保留で一緒にいるんだが」
〔えぇっ!それってつまりフィーちゃんに初めての相棒ができるってことじゃん!おめ!なーんだよなんだよ早く言えよぉ〜!どんなこ?可愛い系?かっこいい系?綺麗系?不思議系?いやいや一言で説明しろってのが難しいよなぁ俺様も相棒のこと一言ではとてもとても言い表せねーもん!写真送ってくれよ!馴れ初めは?フィーちゃんが迎えるって決めたきっかけは!?〕
「”テイム紋章の証”送ってくれ。」
〔フィーちゃんの契約妖精の属性、月だもんな。任せろよ。めちゃいいのすぐに送るからな。それよりどんな子?属性とか何型とかあるじゃんさ一言で片付けれないのはわかってるから全然いっぱい使ってくれていいぜ写真とかも見てみたいけどちょっと難しいよn〕
「早めに頼む。じゃあ。」
_通信が終了しました_
魔法道具を強制的に終了させることで通信をぶち切りしたフィーアはこの数分で一気に疲れ果てたように、背もたれに思い切り体重をかけて漏れ出たようなため息を吐いた。通信していた相手は、彼が王国で騎士をしていた頃からの数少ない友人だ。
長い肩書きに相応しい活躍をする友人とて忙しいだろうに。時折思い出したように通話してきてはほとんど一方的な会話を繰り広げる友人のことを鬱陶しく思ったことは少なくないが、それでも妹を失ってどっと人付き合いが悪くなって、悲劇に目を曇らせたフィーアに最後まで態度を変えなかった稀有で、そして彼が「信用がおける友人は誰か」と問われれば一番に名前を上げるような相手でもあった。
ただ、こと魔法動物のことになると熱が沸騰し1から10とんでAからZまで話してくるようなところが玉に瑕だった。王国にいた頃からこの悪癖はまるで変わっていなくて、悪いやつではないのだが相槌を打つだけでも生命力が吸われているのではないかと錯覚するほどどっと疲れるのだ。
フィーアはもう一度ため息を吐くと、それからゆっくりと立ち上がりテトラたちにいい報告ができそうだと思うことで疲労を必要経費をすることにした。
[フィーアの疲労値を対価とし特定ストーリークエスト”旧友との通信依頼”をクリア]
[特定ストーリークエストのクリアを確認 “テイム紋章の証”獲得クエストをクリアしました]
・アイテム”じーじへのおてがみ“を獲得しました
白亜の天井には金色の紋様が花を咲かせ、キャンドル型の豪奢なライトは温白色の暖かな光を灯らせる。壁には重厚感のある金色の額縁で飾られているのはさまざまな芸術。踏むことを躊躇するほど柔らかな真紅のカーペット。濃紅のカーテンが黒檀の窓枠を荘厳に彩っている。
王宮執務室にていっぺんの乱れもなく王国の団服に身を包む騎士はぴしりと背筋を伸ばしながら、部屋の中央奥にて座す老人____国王へと手に持っていた紙片を手渡した。
「ふむ、例の報告書じゃな。」
「はい。精査の上問題はないようです。ご確認を。」
王は豊富に蓄えた白んだ髭をさすりながら受け取った報告書に視線を落とす。報告書には丁寧な文字が難しい言葉遣いで書かれていたが、徐々に王の表情が変化していく。
「なんと…
「は。盗賊達はほとんどの情報が与えられていない”程度”でしたが、だというのにランクB相当の魔法道具や魔法薬の使用もしていたようです。それらを惜しみなくトカゲの尻尾に与えられる程には本体は大きい、ということでしょう。」
「あぁ、頭の痛い話じゃ。じゃが末端でも繋がってはいたということ、本当にフィーア・シャッテンが生きた状態で捉えてくれてよかったわい。魔法動物達も助けることができたしの………」
ここ数週間のうち起きた痛ましい時間に顔を翳らせる。どうしたってすべての場所に平等な平和が約束される国は存在しない。それでも守れたかもしれない惨劇の跡を見るたび、無力さに歯痒くなる。
問題は山積みだ。それでも、だからこそ。未然に悲劇を防いだフィーアの活躍に、改めて国王はほっと息をついた。
「………むむっ?」い事件思い出しては怒りに震える
その後の文を目で追っていた国王の目の色が変わる。先ほどとは打って変わってきらきらとした光を含んで、喜ばしげに声をあげた。
「どうされました。」
「なんと!あの”テトラちゃん”がわがままをいったとな!よいよい。あの子が物を欲しがるとは、ほほほ、世話役がフィーア・シャッテンひとりとなり不安も多かっただろうが、甘えることができるほどの関係を築けておるとはのう。よいことじゃ、よいことじゃ。して…なるほど、サンダーウルフが。傷を負った狼など大人のテイマーでも難しいだろうに、あの子の優しさが伝わったのじゃな。うむうむ、新たに家族を迎えることができるとは素晴らしきことじゃ。して、”テイム紋章の証”の用意は。」
威厳のある面持ちも難しい表情も途端に形が崩れ、緩んだ顔はでれりと溶けて孫に甘い祖父のような様子で騎士を見やる。直属である騎士はすっかり見慣れた顔に驚きもしないが、それこそこの報告書を記したフィーア・シャッテンなどの他の騎士が見ればぎょっと目を剥くに違いない。
「第4騎士団のトレーズ・シンビオーシスよりフィーア・シャッテンから”テイム紋章の証”の要請があったと報告が、道具も確認の上既に送付の許可を出してます。」
「うむうむ、よきにはからえ。」
満足げに微笑み書類の文字を指でなぞった国王は喜びと安堵に胸を下ろす。
「今まで…フィーア・シャッテンからの報告であった子供達はどこか大人の都合の良いような…子供らしさが欠けた様子であった。幼くとも賢い子供達じゃ。気丈に奮っておったようじゃが、フィーア・シャッテンに少しでも気を許せ、甘えることができるようになったのならばそれは本当に喜ばしい良いことじゃ…」
涙に瞳を潤ませる国王に、騎士は眼を伏せる。心の底から
「国王陛下におかれましては。……あの双子に対して、思われることはないのですか。」
”あの日”は多くの悲嘆と憎悪、後悔と未練、怒りと悲しみでできた絶望に満ちている。多くの命は等しく不平等に奪われ、不条理は暴力の形を持って襲いかかった。国は崩壊し、世界は”あの日”2度の滅亡に瀕した。
国王は”あの日”失った全てに想いを馳せては崩れてしまいたいほどの無力感に苛まれる。それでもゆっくり開かれた口から放たれる悲壮な声は柔らかな響きをもって言葉を紡いでいく。
「思うことは、たくさんじゃ。我が国の愛しい子供としてな。……あれは正しく厄災であった、災害と言っても良い。恐ろしく悲しい出来事であった。忠義をとした騎士に守られ、無辜の民を守れず、果たして国王の座など何の役に立ったことか……なにもできなんだ、何もできず、ただ守られ続けた。勇敢なる騎士によって打ち滅ぼされた魔王の、その腹から生まれた厄災に…とうとう儂は絶望するしかできなかった。諦めた儂を、諦めずに救うてくれたのは…戦い続けてくれた者たちのおかげで、そしてあの幼き子が全てを引き受けてくれたから…引き受けさせてしもうたからこそ、儂らは生き延びた。厄災を封印したなどと、どの口が宣う。厄災を封印させてくれたのじゃ、あの子供が、あの幼子に…封印を引き受けさせたのじゃ。間違えてはいけない、残された我々は彼らが遺してくれた今日を生きる儂らだけは。決してそれを間違えてはならんのじゃ…」
幸せになってほしいと願った。全てを押し付けたあの幼い子供たちに、それでも幸せになってほしかった。”あの日”何もできなかっただけの国王だからこそただ切に願った。何れ大いなる運命を引き受けることになる子供を、自己満足だとしても守りたかった。
拳を握りしめる国王に、騎士は問うたことを恥じたように深々と頭を下げた。
そこには確かな愛が、祈りがあった。
「___ところで。」
「は。」
「額とかないかの、ほれ、これくらいの。」
それぞれの両手で2本の指を立て長方形を表してみせた国王の突拍子もない問いかけに、騎士は狼狽を顔に浮かべる。すぐには理解できずに眉間に皺を寄せながらも「どういったサイズのものでしょうか?」「すぐに用意させましょうか…?」と否定ではなく案を出す。
「いや、なに。見てみよ、報告書に同封されておるこれじゃ、これ!」
丁寧な手つきで見せびらかす紙片にはクレヨンでのたくったような歪な線文字と、ふにゃふにゃと細い線で書かれた文字が並んでいる。確認をしたのはこの騎士なので、驚くような突拍子のないものではない。
「テトラちゃんとシックスくんのお名前の練習かのう?テトラちゃんは随分とお勉強熱心なのじゃな、しっかりとお名前描けるようになっておる。シックスくんは元気があって大変よろしい。何度も繰り返し練習をしておるのじゃろうなぁ。フィーア・シャッテンも堅苦しい報告書だけではなくこのようなものを送るとは、じじ心をわかっておるではないか。うむうむ。これ、額に入れてその辺りに飾ろうかと」
「国王陛下流石に!流石にそれは…!国宝の名画に並んで飾るのは流石に…!」
流石に国王の言葉とはいえ考えなしに頷くことはできない。直属のこの騎士は兎も角、他の騎士の目に入ればぎょっと疑ってしまいかねない。そもそも王宮の執務室に相応しいこの部屋では目立つほど浮いてしまうだろう。
制止された国王はムッと唇を尖らせると紙片を恋する乙女がぬいぐるみを抱きしめるかの如く仕草で胸元に抱き締める。
「いいお歳なんですからそんなポーズしないでください!」
「初めてのじーじへのお手紙じゃぞ!なーにが国宝じゃい儂にとってはこれだって国宝じゃ!これを飾らんで何を飾る!」
「陛下一方的な爺馬鹿はおやめください……そもそも別にそれは手紙でも何でもないでしょう…」
「いーやーじゃー!儂は何を言われようと飾るぞ!」
「くっ……いや、そうだ!陛下、それはつまり練習中なのでしょう。あの2人も練習中の名前を他の騎士達の目にも触れる場所に飾られるのは恥ずかしいのでは?子供というのは自作の手紙やプレゼントを見せびらかされたりすれば嫌なものですよ。」
「む。それは確かに…」
風向きを完全に掌握した、勝ったと騎士は胸を撫で下ろす。
かくして騎士の活躍により”自称:じーじへのお手紙”は王宮執務室の国宝名画の間に飾られることはなく国王の暴挙は止められた。しかし”自称:じーじへのお手紙”はチェストにそっと仕舞われているし、「練習でなければいいのでは?」と考えてもいるので、国王が完全に諦めているわけではない。
[”自称:じーじへのお手紙”の装飾阻止イベントをクリアしました]
[しかし完全阻止に失敗したためこのイベントは不定期かつ突発的に繰り返される可能性があります]
[騎士の戦いは 続く]
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