No.5-1 RPG主人公の生き別れた姉で悪の組織の中ボスに生まれ変わりましたがイベントをクリアします
【グルルルル…ヴー……ガァウ】
「おおきなけがだったから、あとがのこっちゃったね。さすがにらんくのひくいきずぐすりだったから…まだいわかんとかもあるとおもうけど。」
傷薬で怪我は治ったものの消えなかった傷跡にテトラは眉を下げた。
肝心のサンダーウルフは気にしてなさげに鼻を鳴らしたことで、ホッと息を吐く。
サンダーウルフはそれから違和感を試すためにか何度か歩いたあと、寄り添わせるようにぐるりとテトラの体を囲んで丸まった。
「も、もふもふ…」
木の実や草だけじゃなく血や油で絡まってしまっているものの、そのもふもふ性は健在だった。
満足げにもたれ掛かる、遠慮がだいぶとなくなっていた
シックスは興味深そうにくるくるとサンダーウルフの周りを回ったり、ゆらゆら揺れる尻尾に夢中になっていた。
「あのね、きみをきずつけてここにおいていったやつらをつかまえたいけどばしょがわかんないの。」
唯一残った手がかりはサンダーウルフの腹に刺されたままだった短剣。
「これでにおいわかんないかな。」
【ヴー……グギュ】
「へんななきごえ。」
揺れた尻尾がぱたりと地面に伏せた。
いろいろな匂いが混ざっているせいもって追えるほど嗅ぎ分けれないのだろう。
(テトラが投げつけたアオイドリアの実は綺麗に洗い流し済みである)
「…流石に森の中の手掛かりも消してあるだろうな。」
街を見つけるよりも前にサンダーウルフに盗賊団の足がかりを見つけられてしまえば計画が台無しになってしまう。
森の中の足跡や匂いやらを誤魔化す魔法や薬で消されているに違いない。
「貸してくれるか?」
短剣をテトラから受け取ったフィーアが手遊びのように動かす。
フィーアの雰囲気が揺らめいて、淡い光の膜を放つ。
魔法だ。
ゲームで“わたし”がよく見た魔法発動のエフェクト。
「“
短剣から何種類もの色に分けられたインクのような塊が抜き出されゆらゆらと漂った。
「サンダーウルフ、この中でキミをテイムしここに放棄した人間がわかるか。」
フィーアに聞かれたことに対して答えるのは不服らしい。
【フッ】と鼻で笑うそぶりのあとにのそのそと立ち上がった。
内心正直腹の立つ仕草だったがフィーアは妹が憧れてくれた自分でいたかったので、ぐっと耐えた。
あと今更ながらにみっともない姿を晒したくなかった。
ふんふんと嗅いだそのうち四つの色の塊に威嚇の唸り声。
「わかった、これだな…」
「それなぁに?」
「っ、こ、こほん。あぁこれは…」
1番世界に好奇心ばかりのシックスが大きな目をきょろりとさせて問いかけた。
一瞬びくりと肩を跳ねさせたあと、わざとらしく咳き込んで誤魔化した。
テトラよりも、よっぽどシックスとの関わり方が分からない様子に呆れた目を向ける。
「人を探すとき、なんかに使う魔法だ。その、匂いなんかが混じってどれがその人のものかわからないときに。こうやって全部分けて一時時に取り出せる、どれがそいつのなのかわかったら、逆探知できるから…」
「う…ん……?」
わかるような、わからないような。
顔にぎゅうと皺を作ってどう意味ですか?の「うん」を返したシックスに指で無意味に宙に丸を描きながら言葉を訂正する。
「あー、その。さっきテトラ・インヘリットが作った傷薬はひだまり草とムラサキゴロモの根とローズマリアの花で作っただろう。」
「うんっ。」
「ただ、出来上がった傷薬を見て匂いを嗅いでも全部を当てるのって難しいだろう。」
「うん、うんっ。」
「この魔法は、傷薬を作った植物たちがこれだよってこの丸いやつで教えてくれるんだ。」
「じゃあこれは、さっきのけんについてたもの?」
「あぁ、だいたい、そんな感じ。」
妹がいただけあって、噛み砕いて説明するのには慣れているらしかった。
ゲームでは入手したアイテムのレシピを見れるくらいの魔法だった。
攻略サイトの活躍もあり、特定のサブイベントでくらいしか使われなかった枠圧迫系
(……こう考えると、すごい便利で怖い魔法だなぁ。結構レベル上げないと覚えれない
ゲームでの魔法の発動画面では使用された食材ごとにインクのアイコンで表示され、スキルレベルさえ上げていればインクに名前も記載されていた。
サンダーウルフに嗅ぎ分けさせたのを見るからに、そこまでの親切設定ではないのか、スキルレベルが足りてないだけなのかは知らないけれど。
手柄を半ば取られたサンダーウルフは、【ヴギュ】と不服そうに鳴いた。
たまに無意識に手を動かし毛並みを撫でているテトラを許容している辺り、警戒は薄れているらしかった。
「たんけんからぬきだしたじょうほうのうち、げんきょうののこしたあとさえわかればみつけることができるの。」
「あぁ。あとは逆探知魔法をかければ追うことができる。」
「ぎゃくたんち?」
「えっと……この情報を残した奴がこのあとどこに行ったかっていうのを追えるっていう…あんまり離れてたり時間が経ってると消えてしまうんだが、サンダーウルフの様子を見るにそれほど経ってはいないようだから…」
「よくわかんない、みせてみせて。」
子供らしいこの強請りはテトラからだった。
少し態とらしかったかもしれない。
この短時間で分かった事実だがフィーアは目をじっと見つめられるのが苦手、というよりも後に引けなくなってしまうようだった。
見せるだけなら…と魔法を発動した途端サンダーウルフが「これ」だとしていした塊から線が伸びていく。
「この先にいるんだ、線が辿り着くことには殆ど色も魔力痕も消えているから相手にも気づかれない。……元凶については近辺にある駐屯地の騎士に報告を上げる、ひとまず君たち2人は…なにしてる?」
フィーアの任務はあくまでシックスとテトラの世話と護衛と監視だ。
小屋で完全に2人ぼっちの状態にして盗賊団の討伐に単独で赴くわけにはいかない、今まで2人の前に現れもせず放置していたとか森には2人だけで行かせたくせにというのは言わない約束。
街より少し離れた場所にある駐屯地の騎士たちに対処してもらう手筈を頭で組み立てていると、何故かテトラが立ち上がったサンダーウルフの背に跨っていた。
種族としては小さな方でも、十分に子供2人よりも大きなサンダーウルフは軽々と更にシックスも背に乗せる。
「おにいさん、こどもってときとしてとっぴょうしもないことするいきものだしわがままだからしかたないとおもってあきらめてね。」
「は?」
「シックス、ちゃんとおねぇちゃんにつかまってるんだよ。」
「うんっ」
「ごー!」
「はっ、待ちなさい!!?」
軽快な声をあげ、指差す先は当然伸びた糸の先。
慌てて魔法を解除したようだが、生憎とそれほど入り組んで伸びていなかったこともあってどの先に森を抜ければいいのかは覚えれた。
盗賊団は森の中の手掛かりは消したことに間違いはないだろう。
そうでなければ森に放されたサンダーウルフの嗅覚がそれを嗅ぎ逃す訳がない。
奴らの前提は“人間に被害を受けた”サンダーウルフがその憎悪や怒りを膨らませ、街を襲うことだ。
賢いサンダーウルフは必ず街を見つけていたに違いない。
テトラとシックスにさえ遭遇しなければ。
盗賊団の狙い通りの出来事が起きていたはずだ。
街はサンダーウルフに襲われ、なすすべなく半壊以上の被害すら出し、盗賊団によって更に襲われていたことだろう。
漁夫の利以上の油揚を虎視眈々と狙う奴らは、それが目視できる場所に隠れ家を作っていることだろう。
森と街の更に延長線上、サンダーウルフが街を見つけるよりも前に見つけることができない場所に。
_____使い捨てする前提の道具に対してリスペクトも警戒もするような利発なタイプとは思えない。
(だってサンダーウルフのお腹には情報がばっちり残った短剣が挿しっぱなしになってた。)
遺留分析の魔法がいくら習得の難しい魔法であっても、使用が限られた人間にしか使えないものではない。
フィーアの存在は例外中の例外とはいえ、結果短剣から痕跡を見出した。
盗賊団にとって国有数の平和で何もないブルーローズの森もそこに隣接する田舎の街も、ただの利用価値があるだけのもの。
王国都市の貴族を襲う犯罪者が偉いわけではない、しかし、冒険者も騎士もいないだろう田舎を狙う盗賊団など。
(情報を残したままの短剣をそのままにしてるぐらいのやつらが、サンダーウルフが見つけれないと気を抜いて構えただろう隠れ家の痕跡を森の外まできっちり消せてるとは思えない。)
軽く見て侮っているものばかりなことで随分と気を楽にした安楽椅子は心地いいことだろう。
その油断は必ず隙を生む。
「ありがとうシックスものせてくれて!」
【ガァウッ】
『ねぇきみ、あのせんのほうにむかってわたしをのせてはしれる?』
急に促した何も関わらずそれに対応してくれたサンダーウルフの頭を撫ぜる。
フィーアがテトラたちを連れていかないだろうことなど予想がついていた。
まっとうにあろうとしたあの青年が危険に晒す真似をするとは考えれなかった。
「あぁ、でも、すごいねきみ!かみなりのおおかみはだてじゃないね!」
森を駆けるサンダーウルフに興奮して声がついつい上擦ってしまうのも仕方なかった。
ゲームでもテイムした魔法動物に乗って移動することはできたが、こんな体験VRでも出来ない!
風を切ってぐんぐんと変化していく視界、鼻口をくすぐる自然の香り、少しでも手の力を緩めたら落ちてしまいそうなスリル。
頬が赤く色づいてはちみつ色の瞳がきらきらと光った。
「なんであのおにーさんおいていくのー?」
急に乗って、なんて言われてそのまま乗った素直さはちょっと心配になった。
テトラの腹に手を回しぎゅうと抱きついて同じようにはちみつ色を輝かせ楽しそうに声は弾んでいた。
マイペースに問いかけるシックスの根底は、結局テトラへの信頼に違いない。
「ほかのとこにいるきしなんてまってたらにげられるかもしれないでしょ。それに…」
「待ちなさいテトラ・インヘリット!危険すぎる!」
フィーアの叫び声が頭上から降った。
流石にすぐに追いつかれ、上を向くと木の枝を跳躍し移動するフィーアの姿があった。
(リアル忍者だ、すご。)
そんなはしゃいだ感想が出たのは“わたし”のせいだ。
静止の言葉を投げかけるものの魔法を放つのに躊躇している様子に好機だと思った。
何の?
言いくるめてやるのに、だ。
「は?だったらこのこはなににおこりつづければいいの。きしがくるまでにそいつらがにげたら?このこだけおいて、あんなへいわぼけしたまちをねらうくらいのみっともないやつらに。」
「
「……わたし
可愛らしさも清廉さの欠片もない口説き文句。
元々どうせゲームじゃ中ボスなんて悪役で、サンダーウルフに手を貸す理由も自分勝手で。
可哀想で?助けたくて?悪い人を見逃せなくて?残念もっと自分勝手。
_____だって、見たいだろう。
理不尽な暴力によって生きることを利用されて滅茶苦茶にされた。
軽視され、見下され、嘲笑われて、都合のいい道具としてしか扱われなくて。
そんな“奴ら”がその“道具”に反旗を翻されてみっともなく倒される。
悔しくて惨めで這いつくばっただけの姿。
自業自得だざまぁみろって。
「そういってやることくらいゆるされるでしょう。」
_____最愛を奪われたあなたならば、わかるでしょう?
きっとテトラの顔は酷く“悪い顔”をしていたに違いなかった。
結局、フィーアは森を出てもサンダーウルフを足を止めることはなかった。
傷を負わせることに躊躇したとしても、拘束くらい出来るだろうに、しなかった。
それでも彼も知っている。
そして怒りを向ける相手を間違え、子供を置き去りにした彼はその虚しさを知っている。
知っていたから。させたくなかった。
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