No.2 RPG主人公の生き別れる筈の姉で悪の組織の中ボスに生まれ変わったのでまずは味方を作りますのでまずは味方を作ります
_____大前提として。
シックス・インヘリットの中には世界を滅ぼしかけた厄災が封じられている。
その事実はゲームの序盤。召喚魔法陣に触れたことで、腹の中にいた厄災妖精を暴走させたシックスを拘束した王国騎士によって語られる。
シックスがその事実を知らなかったのはある種、彼が封印を宿しただけの正しく子供であると理解していた国王の気遣いでもあった。封印は確かに成され、未だ被害によって混迷を迎える王都では寧ろ危険だろうとして国の外れにある片田舎、母の故郷でもあった街にへと住まわせた。自分の進退を天秤に乗せ、護衛をつけさせ、半ば強行した国王の本心は確かに善人極まる。
いつの日か訪れるその日まで、普通の子どもとして生きる日々があっても許されるだろうという爺心。
ただひとつ、ひとつだけ国王は間違えた。全ての人間が彼と同じようにできた人間ではないということを想像できなかった。
世話役に、護衛に、派遣された者たちは一番初めからその役目を放棄し、私腹を肥やすことにのみ尽力をつくした。
子供たちの母親が幼い頃に死んでしまったのをいいことに、そうすれば、ほら、もう誰も子供達を助けない。
_____私たちを孤独にさせたのはお前たちの怠慢のせいだ!
目を覚ます。
眼前、広がる見慣れた顔。ちょっとみじろぎしただけでキスでもできてしまいそうなほど近い距離でぷぅぷぅ寝息を立てるシックスの体はゆっくりと上下し、ひとかけらの警戒もなく寝入っている。窓の外は暗く、ほんの少しの月明かりだけが差し込んでいた。
「…んむに……んー…すぴゃー…」
「っふは、へんなねいき…」
むにゃむにゃ、まるで何か食べているかのように口元を動かしたかと思えば半開きにした口から溢れる寝息にテトラはつい笑みをこぼした。衣擦れの音にさえ気を遣いながら、そっとシックスの頬を撫でる。
ほんの少し柔らかい、けれど、6歳の子供にしては痩せ気味の頬。不健康に所々枝毛が跳ねる荒れた髪。
(…妖精物語の
もはや既にその片鱗はある。シックスも、テトラも、体型は小柄で喋り方だって舌足らず。髪だってお世辞にも綺麗とは言えず、乱雑に伸びたまま。
大人たちが放棄して石ころをよってたかって投げつけた2人ぼっちの子供は、我慢と諦観だけを腹に詰め込んで満たされないまま生きている。
“わたし”は知っている。
テトラは思い知っている。
街の人間にとってシックスは厄災を宿した子供、テトラは厄災の姉。そうして最後通告のように与えられたのが毒入りのパン。
すぴすぴと寝息を立てる幼い少年は、ゲームであれば。テトラが“わたし”を思い出さない本来ならば、そのパンのせいでたった1人の家族も失うのだ。
(……“わたし”も。テトラも。シックスのことが大切で、愛している。大切で愛していてほんの少し憎らしくて、それでも愛していた弟を愛するだけで幸せになれるほど”幸せ”じゃなかった。世界は優しくなくて、痛みを慰めてもくれなくて、だから…だから…あの日。)
甘くて苦い毒の味を思い出して、ゆっくりと体を起こす。ベットから抜け出すと隣にあった温もりが無くなったと、眠っていながらも気がついたらしいシックスが不安げに体を揺らす。ぱす、ぱす、不服にテトラが先程まで寝転んでいた場所を叩くのでその頭を撫でてやると、すぐさま安心したように顰めっ面を和らげて「すぴゃ」と寝息を立て始めるので、また笑みが溢れる。
「……ふは、かわいーなぁ。」
昼間のストレスは半端ではなかったはずだ。体の弱い(封印の影響で体調を崩しやすいのだ)シックスが熱を出して倒れなかったあたり、恐らくは昼からずっと気を張り詰めていたのだろう。
街から帰ってきた双子の姉が、にこにこ笑って差し出したふわふわのパン。「シックスは、こっちね」と、「こっちはわたしのぶん」と言って自分の分をテトラが口にした瞬間血を吐いて倒れて、誰にも頼れず助けも呼べない、泣きながら必死だったに違いない。泣き虫で、それでも泣いているだけで誰も助けてくれないことを知っているから。
『いえのそと、にっ、どくけしの、くさ、あったから、それを、それ、ね、ねぇちゃに、ぐす、ぐすっ。』
家には母親が残してくれた図鑑があって、2人はそれを見て森で採取したものの何が食べれるかを学んでいた。お腹が空いたから森でとったキノコを食べましたが毒でした、なんて笑えない。だから食べられるもの、食べられないもの、こうやって使えばいいもの、役に立つもの、薬になるもの、そうやって2人で一緒に覚えていった。そうしなければ生きていけなかった。
テトラはパンを食べた途端に血を吐いて倒れた。誰だって、単純にそのパンに毒が盛られていたのだろうと考えるだろう。シックスももちろん、そう考えた。
テトラのそばで泣きじゃくって“誰か”に助けを求めるだけしかできない子供ではないのだ。シックスはそういう子供にはならせてもらえなかった。だから泣きじゃくりながら、それでも転がるように小屋を飛び出て毒消になる薬草を取りに行こうとしたのだろう。
小屋をでてすぐ、まるで拾われるために存在しているかのようにあった解毒の薬草はシックスの目に光り輝いて見えた。違和感なんて覚えなかったのは幼さと必死さ故か、慌ててそれを引っ掴んで水で洗ってすり潰して、そうしてテトラの口に流し込んだ。げほ。げほ。息苦しく咳をするもそこに血が混じらなくなって、顔色がようやく穏やかになったテトラに、その時のシックスがどれほど安堵したかは“わたし”にもわからない。
_____けれども目が覚めた彼女はとうとう、体を蝕む痛みに耐えきれなくなって嗚咽とともに悲鳴を叫ぶ。大切で愛していてそれだけでは幸せになれないからと憎悪に蝕まれて、弟を置いて小屋を飛び出す。
そしてその先、森の中で1人の男の人生を狂わせた。
「そこにいるんだよね。でてきてよ。……シックスはねてるよ。しってるとおもうけど。」
側から見ればおかしな子供、厨二病に侵された重篤者。月光だけが降り注ぐ小屋の前に突っ立って虚空にへと声をかけ始めた少女を表すならばその言葉がぴったりに違いない。
けれど”わたし”は知っている。
テトラとシックスはふたりぼっちで生きていたけれど、2人っきりで生きていたわけではないこと。
国王はきっと、正しく善人である。帝国の闘う王のような力強さも、賢王と慕われるほどの理知を抱いているわけではなくとも良き王であった。どこか人間臭さを漂わせ、詰めが甘く、決して1人だけでは何もかもをすることなどできないからと容易く人を頼る、そういう男。だから人間の愚かさも、誰もが望まずとも善人でいられるわけではないことも忘れてしまったような節を、ことシックスが絡んだ時に発揮するような人間。
優しさだけでできてなどいない。そこには確かに苦難が滲んで、どうしたって自己都合的な打算が含まれることなんて多々。それでも彼は厄災を封じた子供とその双子の姉がいずれ担う避けられない困難を理解し、自国の子供としての日常を幼少期だけでも生きられるようにと配慮させた。監視と護衛、それから母親を亡くした後には世話役の任をつけて騎士を派遣させるほどには。
それでも彼は国王だ。どれほど個人として気にかけていても、存在として報告を受ける義務があったとしても、それら全てを実際に目視することなどできるわけがない。彼は人間だ。騎士のことを信頼していた、それに足る人物だと思っていた、確かに実力はあったから。どうしたって厄災の被害は甚大で、彼はその始末に追われる日々で、だから違和感だって思い上がらなかった。
もしくは、そんなことが起きるだろうと想像もしなかった。そんなことをする騎士がいるとは思ってはいなかった?
だから知らない。知らない。知らなかったことを理由にはできないけれど、それでも確かに、知らなかった。偽りの報告とともに、騎士たちが任務を放棄しているどころか率先するように子供達が虐げられるようにとし、あげく生活費すら着服していたこと。
誰1人だって子供2人を”普通”の日常を過ごせるようにしてやる気なんて、さらさらなかった。
『私たちを孤独にしたのはお前たちの怠慢のせいだ!あの日、あの日、私を殺したのは他でもない、お前たちだ!』
『俺は、ねぇちゃんと幸せになりたかった。溢れるくらいの大金も、煌びやかな宝石も、そんなものよりねぇちゃんと一緒なら幸せだった。なぁ…俺たちが生きてるって、そんなに悪いことだった…?』
どれほど言い訳をつけたとして、放置され放棄された子供達の悲鳴の前では何の価値もない。全てが終わった後、ただ苛まれるばかりの罪悪感と共に後悔だけを生むのだ。
_____その罪悪感と後悔こそ、森の中でその男を狂わせた。
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