桐壺②

『「限りあらむ道にもおくさきたじとちぎらせたまひけるを。さりともうちててはえきやらじ」とのたまはするを、女もいといみじと見たてまつりて、「限りとて別るる未知の悲しきにいかまほしきは命なりけり」』

(『源氏物語』より)


清原「なるほど」


清原「みかど、未練たらたらじゃん」

藤原「(苦笑)」


和泉「本当は、別れたくなかったのですね。ふたりとも」


藤原「だけど、死がふたりをかちて……」


清原「のこされた源氏の物語が、ここから始まる訳なんだね」


藤原「そう。やっぱり、『いずれの御時おんときにか』って、冒頭、大事よね」


藤原「こういう背景で生まれた源氏だからこそ、苦悩にさいなまれる人生を歩まざるを得なかったって言うかさ」


『いづれの御時おんときにか、女御にょうご更衣こういあまたさぶらひたまひける中に、いとやむごとなききわにはあらぬが、すぐれてときめきたまふありけり。はじめより我はと思ひあがりたまへるおおん方々かたがた、めざましきものにおとしてそねみたまふ。同じほど、それより下﨟げろうの更衣たちはましてやすからず。』

(『源氏物語』より)


藤原「怖いでしょ。女の世界って。もう、この時代から」

和泉「ねたみ、そねみ……」


清原「「めざましい」って?」

藤原「目障めざわりだって、くらいの高い者が低い者を気に食わないって思っているの」

清原「こわっ」


清原「ってかさ、桐壺帝も、なにも、そんな身分の低い女に手を出さなくてもいいのにねぇ。わざわざ波風立てなくても……」


和泉「一目惚ひとめぼれなのです、きっと!」


藤原「それに、断れるわけないでしょう。宮中に上がっている以上。そういうのを期待されて、そこにいるのだから」

清原「とはいえ、後ろ盾だって、大事な時代でしょう」

藤原「まぁね」


和泉「いつの時代も、恋は身分を超えて来るのです」


清原「そして、身分違いの恋は身を滅ぼしかねないのよね」

和泉「ううっ(押し黙る)」


藤原「どんなに権力を有していたとしても、思い通りに行かないことだってあるってことね。権力があるからこその障壁しょうへきもあるだろうし」


和泉「恋は突然! 恋は盲目! 恋はいかづち! なのです」


清原「恋の雷ねぇ。あるなら、打たれてみたいものだわ」

藤原「へぇ」


「清原が。意外ね」と思ったけれども。藤原は、その言葉を飲み込んだ。


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