夕顔

清原「そういえば、藤原ふじわらって、夕顔ゆうがお、好きだったよね」

藤原「うん」


藤原「あの白い花は何か、と尋ねた源氏に。使いの者が花を摘んでいこうとすると、どうぞ花をこれに、と差し出した扇に和歌を添えているだなんて(うっとり)」


藤原「風流じゃない? 気が利く感じがしてさ。でも。始終、控えめな人なんだよね」


藤原「そして、最期が……」


和泉「ううっ」

清原「和泉いずみ、また泣いてる(ちょっと、あきれて)」


藤原「……ほんとう。夕顔の花ように、ひっそりと咲いて。人知れず散っていく。そんな人なのよね(思いを馳せて)」


『「こころあてに それかとぞみる白露しらつゆの ひかりそへたる 夕顔ゆうがおはな」』

(『源氏物語』より)


藤原「突然の来訪者にも、さらさらと和歌を詠んで添えて……」


和泉「やはり、それなりの身分にあったおかたは、市井にお住まいを移しても、品が損なわることはないのですねぇ」

清原「けど、それ、小聡明あざとい」


藤原・和泉「「えっ?!」」


清原「って、言う人もいるみたいよ。現代では」


和泉「そうなの、ですか?」


清原「女性から積極的に声を掛けるって。逆ナンみたいだって」


藤原・和泉「「えええ!!」」(ふたりの叫び声にも似た、驚き)


和泉「心外です」

藤原「心外だわ」


藤原「そんなふうに、考えたこともなかった」

和泉「うん、うん」


清原「わたしも。最近、知った話なんだけどさ」


藤原「名前も告げず、身分も明かさずに、源氏とちぎった。奥ゆかしいイメージがぁ……」

和泉「崩れていく音がしました」


清原「そも。正妻に虐められ離れた身とはいえ。旦那との間に、子どもまでいて」


清原「尋ねてきた相手が噂の光源氏かもしれないって分かっていて。それで、歌を詠んで気を引いて。そのまま愛人になってしまうんだから」

藤原・和泉「……」


清原「現代の感覚では、小聡明あざといって、言われかねないわね」


藤原「そんなぁ。清原きよはら、酷い……」(半泣きで)


藤原「したたか。ということにしておいてくれませんか」


藤原「夕顔は、儚く散った人、ということに……」


涙目で訴える藤原の横で。和泉が追い打ちをかける。


和泉「ん? 夕顔さんの旦那様って、どなたでしたっけ?」


それは、また、次の機会に。








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