~第40節 白い誘惑~
日本の首都東京の最も栄える繁華街の一つ、新宿のビルの立ち並ぶある谷間の、開けた広い公園には辺り一帯に、黒い霧が立ち込めていた。そこからは数々のモンスターが姿をあらわし、周辺の建物を破壊しようとしていた。当初、一般人を襲いその
「待て!聞きたいことがある」
【玄武】姿のガントが正に次の一手を、繰り出そうという寸前、アキラが前面に立ちその行為を遮る。
「どうした?ここにきて、命乞いか?」
それまで黙して語らずのガントが、岩を擦らせたような低くくぐもった声で、上に向けようとしていた亀の顔を正面に向ける。
「どうして今回、人払いもかけずに、そしてこの新宿を狙ったのか、だ」
その問いに対して、カズヤがガントの前に歩み出て、アキラを見下すように語る。
「まぁ、そうだな…ありきたりだが、冥土の土産に教えてやろう。今までは内密に
そう語るカズヤに対し、アキラはにらみ返す。
「それは別の方法が見つかった、ということか?そもそも、人々の
「そういうことだ。世界への悪行が過ぎた現在の人類を
さげすむような視線を
「そんなのは、あんた達の一方的なエゴでしょ!なんの権限があってやってるのよ?!」
「本当に我々のエゴだと思うか?ではなぜ、今もこうして世界各地で抗争や戦争が、未だに無くならない?それなら我々ダークスフィアがこの世界を根本から変えてやろう、ということだ」
カズヤの独善的な論調に、ナツミ同様にその理不尽な苛立ちを抑えきれず、アキラも口を挟み叫ぶ。
「そんなことは
アキラの正論にも拘わらず、カズヤは歯をむき出しにした笑みで答える。
「貴様らがなんと言おうとも、我々の計画を変更することは決してない…そして総帥のお考えもな。少々無駄な話をしすぎたな。では、そろそろ貴様らも
それだけ言うと、カズヤはサッとバックジャンプで引き下がり、ガントが口を大きく開けて重苦しい濃い紫色の球体を生み出す。それによって、
―――ズズズズズズ…
「どっ、どうするんですか、アギトさん!?また例の重力波ですよ!」
背中のアーチェリーボウを構えながら、カケルがアギトへ尋ねるが、その顔は思わしくない。
「俺にだってどうしようもねぇよ!手があるなら聞きたいくらいだぜ…」
そして無慈悲にも全員の動きが取れなくなってしまった。それと同時にカズヤと入れ替わる形で、両手にタロットカードを広げた、ミフユが前に出る。
「あらあら…みんな動けないのねぇ。仕方ないわねぇ…それじゃぁ、1枚カードを引かせてもらおうかしら」
そうして動けない
「これは大アルカナの『悪魔』の正位置のカード。ウフフ…意味は誘惑、このタイミングで好都合なのが、出たわね」
そしてかざしたタロットカードから、闇の黒い波動が動けないセレナに向かって、漂い流れ出す。
「くそっ、なにをする気だ?!」
同様にして超重力により動けないアキラは、立膝をつきながら自身の持つ
「さぁ…どうなるんでしょう…ね?いいわよ、ガント」
迎え入れるような仕草で片手を前に差し出すと、ミフユはガントへある指示を送る。
「御意…」
ガントが口をパクパクとすると、セレナ1人だけ超重力の魔術が解かれる。すると自我のない感じでフラフラと立ち上がり、ダークスフィア3人の方へ歩き出す。それに気付きアキラが必死に止めようと、身体を起こそうとするが、すぐに重力魔術で抑えつけられる。
「セレナくん!」
アキラの声かけにも関わらず、何も聞こえないかのように、そのままセレナは歩みを進める。そこへ素早くカズヤが駆け寄り、みぞおちに軽く突きを加えると、気絶したセレナを肩に軽々と担ぐ。
「それじゃぁ、この娘はもらっていくわ」
捨て台詞をつぶやき、ミフユは後ろにある空間に黒い霧でできた、
「待て!」
「せいぜい生き抜いてみるんだな
カズヤがあとをガントへ託し、指をパチンと鳴らす。そしてアキラの訴えも空しく、ダークスフィアの2人は闇の向こうへと去っていく。カズヤの指を鳴らす合図を待っていた、周囲を取り囲む魔物たちは、紅い眼を光らせじりじりと行動を開始しようとする。
「セレちゃん!」
無情にもセレナを連れ去っていくダークスフィアに対し、思わずアキラは普段人前で呼ばない呼称で叫ぶ。
「セレニャは我が守るニャ!」
閉じようとしていた
「ライムちゃん!」
それを見ていたカエデが、追って行ったライムに声掛けをするも、届いたかどうかわからず、その返答も聞くことはできなかった。
『―――ザァ…こちら司令部よ。今そちらで、亜空間
ARヘッドセットから聞こえる、司令部のソフィアからの通信は、耳には届いていてもアキラにとっては、途中で頭へと入って来なくなっていた。それもそのはず、さらわれたセレナの身を案ずることだけで、気が動転していたからだ。
(くっ、セレちゃん…どうしてこうなった…僕は、僕は他には、何か手はなかったのか…)
今まで感じたことのないくらいの悔しさと後悔と、自分の何もできない不甲斐なさと、ダークスフィアに対する恨みの念に、アキラは苛まれていた。地面に突いたその握りこぶしは、プルプルとないまぜの怒りと恐怖の感情に、支配されているかのようにみえた。首を上げるが、消え去ったダークスフィアの2人の姿はそこにはおらず、何もない虚空にはそのポータルもすでに存在してはいない。
「セレナちゃん!なんでこんなときに、身体が動かないんだ!…あいつらに何をされるかわからないよ!」
少し後方にいたカケルも、アキラ同様にこの状況のもどかしさをひしひしと感じて、叫んでいた。カケルの叫びで少し冷静さを取り戻したアキラは、代わりにそれに答える。
「まだ殺されると決まったわけじゃない…これはかなり高い可能性として、奴らは以前にセレナくんの力を手に入れ、利用したいと答えていたからな。だから、必ず連れ戻しに行くぞ!」
冷や汗を垂らしながら、カケルはその考えに
「でも、その前に周りのこいつらを、なんとかしないとね…」
バイザーに映るスクリーンには、赤い反応が複数動き出しているのが見えた。武器を振りかざしてじりじりと間合いを詰めてくる、魔物ににらみを利かすナツミは超重力魔術の中、周囲をぎこちなく見回す。
「それならば、わたしがソルフェジオを使いますので、どうかそのあいだに」
鞘のまま腰から抜いた愛刀に支えられつつも、マリナはこの超重力下でも動く口を、上手く使おうと策を講じる。
「助かるよ、マリナくん…だが、魔物を抑え込めたとしても、この重力魔術は…」
その申し出に感謝しつつも、アキラは現状を打破する解決策を見つけられずにいた。
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