~第39節 首都蹂躙~
「あのぉ、この先に魔物が出現してるんですか?」
遠目で見ると、昼間にも拘わらず黒い霧が立ち込めて、その先がよく見えない。
「魔物?あぁ、突然出現した怪物の集団はこの先だが…君たちは学生か?この先は立入禁止だ、危険だからもっと遠くの安全なところへ、すぐ逃げなさい!」
『魔物』と聞いてピンと来なかったその警察官は、慌ててこれ以上入らないように、両手を広げて進入を阻止しようとする。それを聞くと、カエデは袖の袋から1枚のカードを取り出して、警察官にサッと見せる。
「私たちこんな格好ですが、ただの学生じゃないんです」
「しっ、失礼しました、どうぞお気を付けください!この先の角を曲がった先に、目撃されています!」
そして敬礼をしながら横に向きを変え、警察官は道を開ける。
「どうもありがとうございます。これからわたし達は辺り一帯に結界を張ります。一般人の方の避難の誘導を、お願いできますか?」
「わかりました、こちらはお任せください!」
カエデの要求に再度敬礼をして、逃げ遅れたまだ近くの一般人がいないか確認するため、警官はその場を離れた。その若い警官が現場を離れたのを確認すると、
「そういえば、おっさんの姿、ドワーフ姿の方が色々と良かったんじゃないですか?」
安全確認のため、先頭を切って進みながら、少し後ろから続くアギトにナツミは一瞬、片目で見て問いかける。
「あぁ?なに言ってんだ、冗談はよせや…例え力は落ちても、元の身体の方がやっぱり落ち着くんだよ」
いつの話だと言わんばかりに腕を一回した後、ため息交じりにアギトは、先を行くナツミの背中に返す。一つ目のビルの角を曲がろうと、そこへ臆面もなく突っ込もうとする2人を、カエデが制する。
「あっ、待ってください!先にわたしが人払いの結界を張ります」
そして道の中央で立ち止まり、神聖魔術を唱え始めようと試みる。そこへ、これは良いタイミングと言わんばかりに、マサキがカエデにアドバイスを行う。
「おっと丁度良いカエデくん、君の被っているAR『拡張現実』ヘッドセットはマイクと視線センサーと手振りで操作が出来る。『魔術リスト、オープン』と話せば現実の見える空間に、その必要なリストが表示されるんだ。やってみて
くれるかい?」
「あっ、はい『魔術リスト、オープン』ですね?」
そうしてマサキの言う通りに声を出すと、系統別の魔術リストが背景に重なるようにして、バイザー越しの空間に半透明で表示される。
「うん、OK。あとは視線と手振りで、目的の呪文を探して選択すると、内容が表示されるはずだよ」
続けてリストを見つつ、手振りと指で目的の結界の神聖魔術を選択すると、呪文の全文が魔術リストに代わって表示された。それを見るとマサキは満足して、腕組をしながら鷹揚にうなずく。
「よし、動作は問題ないようだな。みんなも同じように操作できることを、覚えておいてくれ」
「わかりました、ありがとうございます!力の根源たるマナよ!光の精霊ルミナスよ、
印を結び結界の神聖魔術を唱え終わると、カエデの足元に白色に光る魔法陣が出現し、カエデを中心に虹色で半透明な半球状の結界が、視界の範囲半径500m程に展開される。
「これでOKだと思います」
ふぅ、と一息ついて結んでいた印をほどき、カエデもアギト達へ続こうと歩みを進める。
「結界って確か、中級魔術くらいのレベルが必要よね?」
すぐそばにいたセレナは、カエデの頑張りに感心していた。それに対してカエデは、少し照れくさそうに笑う。
「最近は学校の勉強よりも、こっちをちょっと勉強してたからね…えへへ」
「へぇ~すごいじゃん!ホントは本末転倒なんだけろうどねっ」
カエデの唱えた結界の魔術の影響で、周囲の見える範囲ではあるが、徐々に一般人がその範囲外に、逃げている様子が見える。カエデとセレナのやりとりを見ていたカケルは、目を輝かせてARヘッドセットを操作してみる。
「リアルでの近未来RPG感が肌で感じられて、さすがだよ、兄さん!」
フフンと威張り散らすマサキは、胸を張る。
「なーにを言っている、我が弟よ。これはまだほんの試作品だ。これをちゃんと改造してもらうんだぞ?」
「ところで、この表示の左奥側に赤い矢印が出てるのは、なに?」
カケルが指でバイザー越しの、ビルを曲がった先を示す様にして、赤い矢印が表示されている。
「これはな、この先に敵対する存在がいる、ということの表示だ。頼むぞ」
―――ガシャン!
そんなことを話していると、曲がった先からガラスの割れる音や、なにかが爆発する音が断続的に聞こえてくる。
「そんなに悠長に構えては、いられないみたいだぞ」
一分一秒を争う状況に、アキラは目を細めてつぶやく。それに対して全員がうなずき、先を急いだ。到着すると相変わらず薄暗く、そこは丁度ビルの谷間に開けた、わりと広い公園だった。割られたガラス窓や黒い煙が出ているのは、その周囲の商店の店舗や、会社の事務所からのものであった。
と、その時、各ARヘッドセット内側の耳部分のスピーカーから、通信音声が流れてくる。
『ザーッ…聞こえますか?こちらは司令部のソフィアよ。周囲に多数の敵対反応を確認。索敵、データベース照合完了、ゴブリン30体、コボルト20体、オーク20体、ホブゴブリン10体、それから獣人と思われる反応が、公園の中心に3つあるわ。十分に気をつけて…』
右手で耳部分の外側を、押さえながら聞いていたアギトは、ポツリとつぶやく。
「獣人が3体…やっこさん達は、恐らく獣人判定になっているんだろうな」
そして
「随分と余計なことをしてくれたな。わざわざ人払いまでかけて。これでは必要な
3人のうちの一人、
「いや~あいにくと、わたしはゴキブリ並みに、生命力がしぶといんでね」
「あら、みんな面白い厨二病みたいなものを被ってるのねぇ?それに、あの子が
カズヤとマサキのやり取りを聞きつつ、おもむろにその後ろから一人の銀髪の女性が姿を現した。その手の甲を下にして指さす先には、セレナの姿がある。自分が指差されたことに気が付いたセレナは、
「そちらこそ、珍しくレディーの
ミフユの言動に少しも動じないマサキは、両手を広げて自分の開発した、ARヘッドセットを胸を張って誇らしく披露する。
「まぁ、なにを着けていようとも、我らの邪魔をするものは、全て排除するのみ…始めるぞ、ガント」
黙して語らないガントは、ひとつうなずき、身体中に力を込める。するとあっという間に、巨体の玄武の姿に変化する。
―――ゴゴゴゴゴゴゴ…
「またお得意の、重力波か?懲りねぇな…」
悪態をついてはいるが、いかんせんこの攻撃に対して、良好な対応策が見つかっていないアギトは、額に汗をにじませていた。
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