~第38節 闇の胎動~
「いつも悪いわね、この日本、世界そして地球の命運は、あなた達の手にかかっているの…」
影の組織『
「ねぇ…今朝の話だけど、人ならぶつかるだけで済むとは思うんだけれど、車とかバイクとかだったら、どうなるの?」
車両の向かって左側の一番奥の席に座ったセレナは、今朝の出来事について飼猫のライムにさらなる解説を求めていた。
「今朝の話かニャァ…それは、ヤバイことになるニャ」
セレナはゴクリと自分の喉がなるのがわかった。ライムはセレナの膝の上に丸くなり、片目だけを開けて見上げている。
「気が付かない場合は、誰もいないと思い、そのまま普通に突っ込んでくるニャ…」
それを聞くなり、そのシーンが脳裏に浮かび、背中にゾッと悪寒が走る。
「そ、そのまま突っ込んでくる、だなんて…」
「だから、車やバイクがたくさん通る大通りとかは、十分注意するのニャ。でも、あんまり考えすぎないことだニャァ」
それだけ言うと、ライムは開けていた片目を閉じて、2本の前足をフミフミしたあと、再びうたた寝に入る。想像したくない現実を垣間見て、それを振り払うかのように、セレナは首を左右に素早く振った。
「先輩、この3本足のカラスのデザインって、いろんなところにありましたよね?」
自分の受け取ったIDカードを見ながら、カエデは通路を挟んだ座席に座る、アギトへ問いかける。
「あぁ、そうだな。アキラのいる研究室の装置もそうだし、パソコンのOSや俺のトラックにもそれは描かれているな。これらは全部、ここの組織のバックアップした技術で造られてるのさ。ほら、この専用シャトルにもマークが描かれてただろ?」
「そうですね、それまでは、このカラスにはどんな意味があるんだろ?って思ってました。でも、それを聞いて納得しました」
よくよく見れば、シートやそここにそのマークは見て取れた。
「それにしても、まさかこんなの被って戦うだなんて、どこかの戦隊ヒーローものじゃないんだから…」
両手で持ったARヘッドセットをまじまじと眺めながら、カケルが悪態をつく。そこで先頭車両の扉が横へスーッと開き、意外にもマサキが首を伸ばし覗き込む。専用シャトルは無人の自動走行なため、本来は人が先頭の運転室には乗っていないはずなのだが。
「なんだなんだ?そりゃぁ試作品だから、不格好なのは仕方ないじゃないか…これでも開発にはいろいろと苦労したんだぞ」
まさか乗っているとは思わなかった兄の姿を見て、カケルは一瞬ビクッと首をすくめる。
「に、兄さん!いつの間に乗ってたのさ?」
「まぁ、僕は戦闘要員ではないのだが、試作品のテストの行く末がどうにも気になってね。今回は同行をさせてもらうよ」
そしておもむろにカケルの横の席へ座る。
「いろいろと不満はあるかと思うが…これはまだベータテスト版だ。だからまず、このテスト結果の如何に因らず、この試作品の改良版の手助けをしてもらいたいのさ。我が弟よ」
「この…改良版…?」
人差し指をピンと突き出し、マサキは力説する。
「そうさ、そのためにも、機能の隅々までの、良い点悪い点を良く観察しておいて欲しい」
窓の外は暗いトンネルの中を、速いスピードで白い明かりの帯が通り過ぎて行っていた。
★ ★ ★
―――時は遡り、新宿での事件発生から、およそ1時間ほど前…ロウソクの薄暗い明かりだけが照らす、古城の玉座の間に、4つの人影がある重要な話し合いをしていた。一人のフードを目深に被った初老の男が玉座に腰をかけている。その前に2人の体格の違う男が跪いて首を垂れ、そして近くの部屋の石柱に背中を預け、妖艶な雰囲気を醸し出している一人の女性が、腕組みをして跪く2人の男の言動を見守っているようだ。そこで、初老の男が口を開いてしゃがれた声でゆっくりと話し出す。
「未だ、先日の目的を達成できず、ガントの片腕まで奪われる羽目になるとはな」
名前の挙がった跪く2人のうちの一人、ガントの左腕は右腕とは違う色合いに見える。まるで違う色の岩を繋げたような具合だ。
「も、申し訳ありません。岩の硬さを誇っていた私が驕り高ぶり、油断をしていました…」
頭を上げ、ガントは岩の擦れるような低い声で謝罪と同時に、苦悶の表情を出す。そこへ隣で跪く男、カズヤはガントを横からフォローする。
「私もいながら、大変申し訳ありませんでした。次こそは…」
カズヤの話を始める途中で、初老の男がそれを遮る。
「次か…疑ってはいないが、彼女『
初老の男が差し伸べた手の先にいる女性は、ミドルの銀髪に猫のような目つき、露出度が高めで妖艶な服を身に着け、タロットカードを広げて両手に持っていた。
「とうとう…あたいの手を煩わすことになるとは…ね」
しゃしゃり出てきたミフユに、露骨にイヤな顔をするカズヤ。
「別名『白虎のミフユ』か…お前の手を借りずとも…」
それを遮るようにして、ミフユは両手のタロットカードの中から、1枚の表の見えないカードをカズヤへ突き出す。
「でも、現に今、出来てないじゃない?あたいに、いい考えが、あるわ」
「くっ、こんなカードが、なんだというのだ?」
面倒くさそうに受け取り、めくると、石造りの塔が雷や嵐によって崩された絵柄のカードであった。それを見るなり、ミフユはさも嬉しそうにウフフと口角を上げ、不敵な笑みをこぼす。
「これは
『衝撃的な』という言葉に反応し、カズヤは興味を惹かれる様にして、肩眉を吊り上げる。
「ほぅ、衝撃的とは面白い。それは、どちらにとって、どうなんだ?」
そうして塔の絵が見えるように、ミフユの眼前にサッと見せる。
「もちろん、あたい達の方の側に、良い出来事よ」
それを聞くと、同様に口角を上げて、カズヤは再び問い返す。
「それならば、詳しく聞かせてもらいたいところだな?」
★ ★ ★
―――
「ところで、こんないかにもな装備して出て行って、普通の人が見たら、なんの集団かと変な目で見られるんじゃないの?」
その疑問にいち早く、アキラが答える。
「それに関しては防具はともかく、みんなの持つ武器の柄には、僕の呪符魔術の『
「防具はまぁ、最近はコスプレしたままその辺を歩いている奴らも、たくさんいるだろ?だから、特にそれは問題ないのさ。誰も本物とは思わねぇだろ」
補足を入れる形で、アギトがフォローした。そして、全員がマサキから依頼された、ARヘッドセットを身に着けた。そんな中、カエデは少し顔を赤らめている。
「これ…ちょっと、このまま人前に出ると思うと、なんだか恥ずかしいです…」
「そうだね、ちょっと恥ずかしいけど…マサキさんの依頼ですもの、頑張って全うしなきゃ、ね!」
同じように恥ずかしい気持ちを気合で抑えながら、セレナはカエデを納得させてようとしていた。その反応に、マサキは大いに満足する。
「さすがは火神教授の娘さんだ。呑み込みが早い!申し訳ないけど、データ取得に協力のお願いをさせてほしい」
そうこうしているうちに、シャトルは現場に到着し、車内に自動音声でアナウンスが流れる。
《東京拠点へ到着、東京拠点へ到着。落ち着いて現場へ向かってください!》
そして車両のエアロックの扉が外側に開き、列車は車外へ出ることを促す。
「さぁ、
アギトが皮肉たっぷりに白い歯をむき出し、黒い霧から出る魔物たちを、揶揄して見せた。
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