~第37節 出動~
「
ファサァッ…と長い亜麻色の髪を後ろにかき上げて、タカコはマリナの前に歩み寄る。そして、傍にいるサングラスをかけた女性にも
「お仕事は、続けてて、よろしいのですか?」
少し首を傾げて、マリナは真っすぐにタカコの瞳をみつめて、問う。
「もちろん、国家権力とはいえ、個人の自由は極力制限しないことが、ここのルールなの」
そこで、アギトが横から割り込み、マリナへ今まで聞けそうで聞けなかった質問をする。
「そうそう、だから俺らも普通に自分の仕事が出来るわけよ。そういえば、その大事な腰の刀に、名前は付いているのかい?」
「そういえば、お話していませんでしたね。この刀の名は…タケミカヅチの『
その名前を聞くなり、アギトが一歩身を乗り出して、目の色を変える。
「お、おい、それマジかよ…刀にしては珍しく直刀だとは思っていたが、本物なのか?伝説級の神剣じゃねぇか!どうりでダークスフィアの連中も
それを聞くなり、鋭い目つきにマリナは変わった。
「申し訳ありませんが、これは代々我が家に伝わる秘剣…継ぐ者の他には触らせるわけには、参りませんので…」
「おっ、そ、そうか、それはすまなかった。気にしないでくれ」
その意外な威圧する気配にて、思わずアギトは一歩下がり、気圧される。
「ごめんなさいね。データを収集するのも、私たちの仕事なの。あなたが最後に了承をしてくれたから、これで全員揃ったわね。それじゃ、これをみんなに渡しておくわ」
そう言いながら、タカコは新しくクルーに加わった5人それぞれに、1枚のカードを手渡す。その表面には組織の名前と同じ
「お母さんこれって、確かアキラさんやアギトさんが使ってるカード…」
見たことのあるカードを渡され、セレナはポツリとつぶやく。
「そう、これはみんな固有のIDカードよ、セキュリティのカードキーにもなっているの。そして、緊急の際には警察や自衛隊以上の権限が与えられて、見せるだけで通してくれるわ。だから、決して無くさないで身に着けておいてね」
そしてタカコは透明なケースホルダーに入った、首に下げている自分のカードを見せる。
「あと、ここでは司令と呼びなさい。セレナ」
普段家では見せない厳しめな母親を前に、キッと緊張した面持ちで、セレナはそれに答える。
「わ、わかりました、司令」
それを聞くと、満足そうにタカコは話を続ける。
「それから、
それだけ言うと、マサキの方へ道を開ける。急に名前を呼ばれたカケルは、キョトンとした顔でタカコとマサキの両方を代わるがわる見る。
「えっ、僕に特別な、任務…ですか?」
「そうさ、我が弟よ。大学の授業の合間に、僕の開発を手伝って欲しいのさ。確か、電子工学はかなり得意な方だろう?僕はそこまで得意でなくてね」
ノートパソコンに集中していたかと思えば、カケルの兄はいつの間にか立ち上がり、カケルの疑問に即座に答えていた。
「まぁ、得意な方ではあるけど、ね」
珍しく兄に褒められ、カケルはまんざらでもないという風に、背筋を伸ばし胸を張る。そう自慢げにカケルが胸を張る中、唐突に部屋全体が赤く明滅し、警告音が鳴り響く。そして一斉に壁のコンソールディスプレイがアラートの表示に切り替わった。
「なっ、なに?どうしたの?」
渡されたIDカードを天井の明かりに照らし、表と裏をまじまじと眺めていたところ、急な警告音と明滅する赤い光に、ビクッと身体を震わせ、ナツミは驚く。そして部屋中のスピーカーより、自動の機械音声が流れる。
《アラート!アラート!ダークミスト発生を確認しました!ダークミスト発生を確認しました!》
「どこかでまた、黒い霧が確認されたんだ!」
中央の大型コンソールディスプレイに表示されている、日本地図からクローズアップされ、東京都の地図内の一部分が赤い丸の表示がなされており、アキラはそれを中心に波紋のように広がっているのを見ていた。他のサブのディスプレイには、近くの監視カメラからのリアルな映像が流れ出す。
「状況は?」
「大規模なダークネスゲインの上昇と亜空間
インカムを付け、手元のコンソール画面を素早く見渡し確認しながら、ソフィアは現状の報告を指令のタカコへ淡々と行う。
「くそっ、奴らとうとう大都市の中心部を狙ってきたか!」
画面を見ながら、アキラは拳を堅く握りしめる。そんな後ろから肩に手を置き、タカコはアキラにいつものお願いをする。
「すまない、行ってくれるか?」
「もちろんです。それではすぐに準備を整えて…」
そんな
「おっとその前に、これをみんなに着けて行って欲しいんだ」
自分の座っていたソファーの脇に、バイクのヘルメット状のものと、それにケーブルで繋がれた黒い箱のようなものを持ち上げて、みんなに見えるように見せた。それを見て、すかさずアギトが突っ込みを入れる。
「まさか、それを身に着けて、戦え、と?冗談だろ?」
「ジョークでも冗談でもないさ。これは
マサキのいかにも自慢げな説明に、また始まった…と言わんばかりに、ため息交じりでカケルがつぶやく。
「待って兄さん、メリットは分かったけど、なにかデメリットもあるんでしょ?兄さんのことだから、いつもの悪い癖が出てるよ。その繋がってる黒い箱とかはなんなの?」
「さすがは我が弟!良く判ってるじゃないか。そう、これにはデメリットとして、全体が5キロほどあり、この黒い箱には電源のリチウムバッテリーが入っている。ちなみに、予備のこのカートリッジも持って行ってくれたまえ。女子には少し重いかもだが」
さらりとデメリットを言ってのけるマサキに対して、カエデが実際にすぐ着用してみる。
「こ、これは確かにちょっと重いですね…」
渋々と全員が着用すると、準備が完了したことを確認してから、タカコは片腕を水平にサッと出し、
「それでは、シャトルを使って現場へ急行して欲しい。出動!」
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