第21話 話にならんな

 小高い山がそのまま浮いてるような島。それがフルーブデゾーロだった。

 中は空洞になっており、欠けた表面が目と口のようで、まるで髑髏が待ち構えているようだった。


 シルバーウィンド号は外に錨を下しておき、俺とニオ、それからフィンを載せたボートで髑髏の中へと入っていく。


 エルドラード号も俺たちの動向を見てか仕掛けてはこない。

 船にはイティ含め十分に戦力を残してあり、艦隊のいない現状、遠距離では正確に弓矢で狙い撃てるエルフたちの方が戦力的にも上回っているからだろう。


 なにより、俺たちを追うようにグレインを乗せたボートも迫ってきているのだ。

 船同士で戦う際、アルビンもグレインもなしでは心もとないのだろう。


 アルビンの姿は見えないので、案外麻痺毒が体から抜けずにエルドラード号で治療を受けているのかもしれない。

 

 先ほどまで話し合っていたこと含め、これら全てが外れていなければいいが。

 ベルトに括り付けた剣を抜かないで済むことを祈りながら、フルーブデゾーロの奥へ奥へと進んでいく。


「わぁー……広いね」


 山をくり抜いた中は、闘技場のような足場になっていた。その中央に、カビの生えた玉座がある。なんでも魔王はここを海の根城とし、伝説上に存在するような海の魔物や悪霊と戦って力を溜めていたという。


 その時溜めた力が、ここに眠っている。


 魔王城で見つけた文献では、「闘技の場にハイエルフの血が流れるとき、封印せし我が力と財宝が目覚めるだろう」と書かれていた。

 他の文献にも、万が一自分が倒れた場合、別の魔物に自らの力を授けて後を継がせるように、世界中の言語で残されていた。


 知能の低い魔物にもわかるよう書かれていたので、簡単に言えば「闘技場のように見える陸地にハイエルフの血を一滴でも垂らせば、その者に力と財宝が与えられる」のだ。


 血の量は多ければ多いほどいいとあったが、一滴でも俺たちの戦った時と同量の魔王の力が目覚めるという。


 つまり俺たちが戦った魔王は、ここに封印した分の力を持っていなかったのだ。

 ここに封印していた分を含めたら、勝てなかったかもしれない。


 できることなら、どれだけの力が眠っているのかは知らずにいたい。

 財宝も、「人間共の欲望を黙らせるための物」と記されていただけなので、単純な金銀財宝ではないのかもしれないので、手を出さなくて済むならそうしたい。


 だからというわけではないが、ニオは興味なさげだ。早いところ終わらせて、”次”に行きたいのだろう。


「ついたぞ」


 陸に上がると、丸い平地を行く。その中央まで来ると、グレインの気配が背後から感じられた。


「……フィンを殺し、封印を解く気か。貴様らにそうはさせんぞ」


 落ち着いているように見えて、高ぶった魔力は内に秘めた感情を隠しきれていない。

 フゥ、と息を吐いてから、ニオの背中を押した。

 当人も、出番が来たとやる気のようだ。


「ここまでシツコイ男は久しぶりだ! 欲深な男もね。お金も力もたーくさん持ってるのに、まだ欲する気? 少しはボクに分けてよ」

「黙れ小娘。戯言は聞き飽きた。もう貴様にもゼノにも好きにはさせん」

「だから力でフィンを奪うって? それで封印を解いたら、今度はボクたちを襲う――そんなんじゃ、いつまで経っても平行線だよ?」

「ではどうするというのだ」


 聞く耳を持った? 声を荒げてくると思っていただけに、俺は若干の動揺を見せてしまう。

 しかしニオは、そんなものおくびにも出さずに続けた。


「こうしたい! この前も言ったけど、もうゼノとボクには関わらないでほしい。エルフはどこかの森に帰して、ボクとゼノはどこか君の知らない海へ行く。代わりに、フィンにちょっとだけ血をもらって、君には相応の力と財宝を……」

「話にならないな」

「えっ」


 瞬間グレインは雷を纏うと、電光石火で斬りかかってきた。


「テメェ!」


 即座に俺も剣を抜き、ニオを庇うように斬撃を受ける。


「話し合いの途中だろうが!」

「知るか、その小娘に出し抜かれるのはもう御免だ。それに、フィンを傷つけるのが前提の話し合いなど、俺は聞く気にもならん……!」

「ああそうかよ!」


 受けに徹していた姿勢から一転、斬り払ってから剣を構える。


「話を聞かねぇで実力行使でくるってんなら、もう戦うしかねぇな」

「そのつもりで、俺はここに来た……!」


 どうやら本気だ。俺も覚悟を決めないといけないようだ。


「ニオ、フィンを連れて船に戻ってろ」

「君はどうするのさ!?」

「自分勝手な野郎を叩きのめしてから考える!」

「この俺を自分勝手だなどと……貴様が呼ぶな!」


 俺とグレインの魔力がぶつかり合い、空気が振動する。「ヤバイヤバイ!」と、ニオはフィンを連れて行ってしまった。

 追わないあたり、本当に俺が狙いのようだ。


「こうなりゃとことんまでやるぞ、グレイン」


 合図のように、俺たちの剣がぶつかり合った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る