第14話 殺害許可
「失礼いたしますアルビン提督、帝国ギルドの登録者名ゼノディアス・グランバーグにやられたという海賊が、レイヴンスカルの冒険者ギルドに届けられ、現在ポートリーフに向けて移送中とのことです」
「よし、その海賊は私が直接尋問する。エルドラード号に送るよう指示を出せ」
「了解いたしました!」
「下がってよいぞ」
さて、ようやく馬脚を露わしてくれたようだ。まったく、この私の時間を三日も使わせるとは。
「なかなかやるではないか。しかしどこにいるのかさえわかれば、海で私を出し抜けるはずもない」
報告にあったグレインを出し抜いた小娘とやらも、やはり私には及ばないようだ。
「それにどうやら、ゼノとやらは相当金に目がないようだ。では簡単だ」
大金で転ばせて秘密裏に従わせるまで。最後は処刑すればいい。今グラスに注いだ赤ワインのように、首から切り落とした血を奴の仲間に飲ませてやろう。
「フフ、今夜のワインは非常に美味だ。どうだグレイン、君も飲まないかね?」
「……酒など飲む気はない」
気分よく口にしている私と違い、テーブルをはさんで向かいに座るグレインは眉間にしわを寄せている。
どうせ荒くれ者の成り上がりだ。少しは頭も回るようだが、私には及ばない。
とはいえ、あまり不貞腐れられるとグレインの連れてきたサンランページのメンバーまで影響が及ぶ。
仮にも魔王を倒した徒党だ。友好的に接して損はなく、有効的に利用すべきだろう。
他の荒くれ者よりかは品性のあるグレインへ、ワイングラスを置くと静かに語り掛けた。
「何が気に食わないのかな?」
「……」
「黙っていても、何も解決しないと思うがね」
「チッ」
舌打ちとはな。やはり教養のない荒くれ者――というより、野良犬だ。なぜこのような者たちに品行方正な勇者は負けてしまったのだろう。
まぁ、勇者よりかは扱いやすい。言葉を待てば、青い瞳が刺すように光る。
「ゼノの居場所が分かったのなら、とっとと向かえと言いたかっただけだ」
この男は、何かにつけてゼノを敵視している。明確な殺意を持っているようだが、なぜだろうか。
いや、そこに関しては深く知らなくてもいいだろう。魔王はゼノとグレインの二人が倒したと聞く。
命じることなく殺してくれるのなら、好きにさせればいい。”首輪”をつけずとも、「早くレイヴンスカルとやらへ行け」だなどと言わないので、野良犬には私の番犬をしてもらおう。
――番犬、か。例えのつもりで考えたのだが、少しいい案が浮かんだ。犬として扱うなら、どうせなので色々と走ってもらおう。
「ゼノとは近いうちに会う機会を作ると約束しよう。だが、まだ殺さないでほしい」
「奴を前にして、黙っていろというのか……?」
「軽く痛めつける程度なら構わないが、下手に君に死なれると、残ったサンランページを纏める者がいなくなるのでな」
「それについてだが、一つだけ俺から許可をもらいたいことがある」
私に許可を求めるだと? 訝しくグレインを見れば、驚くべきことを口にした。
「俺についてきたサンランページメンバーの”殺害許可”を出してほしい」
「……驚きだな。付き従う仲間を殺すと?」
「いいのか悪いのか、どっちだ」
「質問には答えないのか……まぁいい。正直統率の取れていない陸の荒くれ者……失礼、君の仲間より、私の部下を従わせた方が、海の上なら有力だからな。許可しよう。サンランページのメンバーには、何か罪状でもつけてやれば……」
考えていると、グレインが羊皮紙を取り出した。
「ゼノの部下メダルカが記した俺と、俺に従う連中の”やらかした事”だ。これを使って適当に罪人にしろ」
「メダルカと言えば、ゼノの右腕と聞くが、まさか彼が裏切って君に渡しでもしたのか?」
「あの男はゼノに心酔している。ただポートリーフで捕らえそこなった時、書き終えたそれだけは奪えただけだ」
意外と手を回している男だ。それに書かれている内容も、いっそのこと銃殺刑にでもできるようなことばかりだ。
「では殺すといい。君には別の部下をつける」
「……そうか」
まだ何か気に食わないと言った様子だったが、グレインは席を立つと部屋を出て行こうとする。
どこへ行くのかと聞けば、フィンのところだそうだ。
なにかと手を焼いているが、殺すだけしか利用価値のないハイエルフの世話など…私の部下に任せればいいものを。
ゼノと同じく、変わった男だ。グレインが出ていくと、一人ワインを継ぎ足した。
「仲間を殺すのもハイエルフに優しくするのも好きにすればいい。最終的に封印は私が総取りするのだから」
グレインとも、そこまでの関係だろう。利用するだけ利用したら、ゼノとぶつけて相殺させる。
そして私は財宝と力を手に入れ、帝国すらこの手にする。
友好的に接してやるのも有効的に利用するのも、フルーブデゾーロまでだ。
最後は始末する。それだけは変わらない。この結果は揺るがないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます