第13話 激流の如く戦いは過ぎ去る

 翌朝、昨日と同じ店にて、俺とニオはブルーハンターを名乗る海賊団の船長、ビリアル・スタンブートと相対していた。

 デップリ肥えたビリアルには数名の部下がいるが、事前にジルスから聞いた話では、海軍にも名の知れた先代に媚びを売って二代目をやっている情けない船長とのことだ。

 ただ身分不相応の野心だけはあるらしく、ジルスの誘いに乗ったとのことだ。


「諸君を我がブルーハンターに加えれば、地図にない財宝の眠る島に案内するそうじゃないか」

「うー……そーだね……痛たた……」

「なんだ小娘、二日酔いか?」

「そのとーり……もうとっとと始めて終わらせたいから、ゼノよろしく……」


 言われ、足元に置いておいた酒樽を持ち上げ、ビリアルに中の冷水をぶっかけてやった。


「なにしやがる! ぶっ殺すぞ!!」


 案の定というか、当然というか、ブチ切れてくれた。

 それが狙いなのだが。


「悪いな、俺たちは雇われみてぇなもんでよ。アンタらを足止めしろって言われてんだ」


 誘い出すための嘘である。


「そーゆーわけだから、はい、てっしゅー……」

「その前に……」


 もう一個の酒樽の中身をニオにぶっかけた。

 途端に顔を真っ赤にして怒鳴り始める。


「なにすんのさ! ぶっ殺すよ!!」

「見事に同じ反応だな……二日酔いを覚まさせてやったんだよ。いつまでも船長がそんなんじゃ勝てねぇだろうが」

「だからって女の体にこんなことする!?」

「その体を省みずに俺の仲間落としておいてよく言えたな」

「……おいお前たち、なに夫婦漫才やってやがる」


 ビリアルの低い声がすると、ブルーハンターのメンバーに囲まれていた。 


「えーっと、囲まれたわけだけど」

「わかってる――”サイクロン”」


 店には悪いが風魔法で吹き飛ばすと、二人で飛び出した。


「認めたくないけどお陰で目が覚めた! ほらさっさと逃げるよ!」

「俺は適度に加減しながら追っ手を離さねぇといけないんだよ! これ疲れんだよ! ったく!」


 スタコラサッサと逃げながら、待ちやがれと追ってくるフルーハンター相手に加減した風魔法で吹き飛ばし距離を取る。

 レイヴンスカルはそのせいで大混乱となるが、全員が劇でも見るように酒を飲みながら馬鹿笑いしている。


「フィンを取り返してテメェが満足するまで付き合ったら、海賊辞めるからな俺は!」

「それまでにボクの虜にしてみせるさ。ボクと海から離れられない体にしてあげる」

「仮に海賊続けても、ぜってぇにテメェとはくっつかねぇからな!」


 とにかく叫びながら走ると、出航準備の整ったシルバーウィンド号に飛び乗った。

 ニオが舵へ駆け登ると声を上げる。


「細かいこと言ってもまだ伝わらないだろうから、とにかく帆を全部張って港を出て! 風はゼノに任せてあるから!」


 早速これだ。加減した次は、六十人乗りの船を動かす風を吹かせときた。


「だから疲れんだよ、一々加減を変えてると……ああくそ! “エーテルブリーズ”!」


 グチグチ言っていても仕方ないので、突風を吹かすだけの風魔法を帆一杯に浴びせた。

 シルバーウィンド号はやがて波に乗ると、レイヴンスカルを出ていく。


 当然、ブルーハンターの船は追ってきている。ジルスにした頼み通り、こちらと同じフリゲート船だ。


 しばらくレイヴンスカルから離れるまで海を行くと、ニオが遠眼鏡で後方を確認し、それから急いだ様子で真下の海を見る。


「よし! 計画通り”浅瀬”に入った! 指示通りエルフが錨を下して!」


 言われた通りエルフたちが錨を下すと、浅瀬に引っかかって船がグランと揺らぐ。

 皆がよろめいている中、ニオだけは舵に駆け戻ると思いっきり回して船を反転させた。


「すぐに錨を上げて!」

「だそうだ、今度は俺たちで力任せに引き上げるぞ」

「合点でさぁ!」


 手先が器用で目のいいエルフによって狙った場所へ錨を下し、船が反転したらサンランページの仲間が力任せに引き上げる。

 流石は海賊。流石はあれだけ口が達者なだけある。流石に頭もキレる。


 しかし戦いは俺の方が先輩だ。”向かってくる船にこっちも突っ込む”だけなら、もうニオの細かい指示はいらない。


「野郎ども! ブルーハンターは逃げると思ってたこっちの”反撃”なんて予想外だ! そのうえ俺の全力でこっちは”向かい風”であっちは”追い風”だ! どんな馬鹿でもこっちが有利なのはわかるな!」


 久しぶりに俺が戦いの指示を出しているからか、サンランページの仲間たちは得物を掲げて「やってやるぜぇ!」と叫んでいる。

 一方困惑するエルフたちへ、俺は新しいメンバーを加えるたびに口にしてきたことを叫ぶ。


「エルフもこの勢いに乗れ! 戦いのリズムに酔え! 酔えば恐怖も疑問も全部吹っ飛ぶ! フィンを取り返したかったら、俺たち――いや!! 俺についてこい!!」


 船長室で守られているイティ以外は、エルフとはいえ男だ。どんな環境で育って来ようと、男ならこうまで言われて血がたぎらない奴はいない。

 イティが精鋭だと言って連れてきた男たちならなおさらだ。


「お、俺はやるぞ!」

「お、おう! やってやろうじゃないか! ゼノさん……いや、みんな”リーダー”に従え!」


 またリーダーと呼ばれる日が来るとは。それもまさか、恨みを買って追ってきたエルフたちからとは。

 俺もこれは燃えるというもの。

 演技でもなんでもなく、口角は目いっぱい上がっていた。


「覚悟が決まったなら、行くぞ野郎ども!!」


 「オオォォッーーー!!!」と声が上がれば、俺もそれに合わせて帆に風を叩きつける。


「このまま突っ込む!! 距離が詰まったら矢と大砲を撃ちまくれ! 乗り込む奴らは気合を入れろ!!」

「これだから旦那についていくのはやめられねぇんだ!! 結局はこの根性論で魔王の野郎すら倒しちまったんだからなぁ!!」


 ブルーハンターにぶつかる覚悟で突撃すると、直前でニオが舵を切って真横につけた。


「今だよ! 教えたとおりに大砲撃ち込んで!」


 ニオの声が砲甲板に届くと、エルフたちが火薬に火をつけて大砲をぶちかました。

 ハンマー以上の物理攻撃力と矢や魔法以上の射程距離が混ざり、とんでもない破壊力を兼ね備えた大砲の弾は、まごついているブルーハンターの船を粉砕していく。

 そっちに注意が向いた隙に、残ったメンツでブルーハンターの船にフックをひっかけた。


「あの船にフィンがいると思って引っ張れ!」


 華奢なエルフが俺の声を受け、必死の形相で縄を引いている。

 風も併せて船との間が詰まると、乗り込むメンツの先陣を切る。


「それじゃ、行くぜぇ!! 乗り込め!」


 サンランページの仲間と、近接戦闘に長けているエルフを連れてブルーハンターの船へ転がり込んだ。

 大混乱の甲板で、作戦通り円形の陣を組ませる。


「メダルカを中央において、このまま陣形を維持しろ! 内側にエルフ、外にサンランページだ! エルフは魔法と矢で敵を近づかせるな! サンランページはこぼした奴を片付けろ! メダルカは状況を見て逐一指示を出せ!」

「旦那は!?」

「下に行って頭数減らしてくる! それと、もう一個やることあるから甲板は任せた!」

「任されやしたぜ! 旦那もご武運を!」


 メダルカ以外――それこそエルフたちからも、「行ってくださいリーダー!」「ここは任せてください!」と声がする。

 魔王を倒してからこっち、こういう戦いはなかった。久しぶりの戦いのリズムに高揚しつつ砲甲板へ飛び降りると、風魔法と剣で端から片付けていく。


 だが忘れてはならない。もう一つやることがあるのを。


「オラオラ! テメェらの船長どこいったぁ!! ツラ出しやがれぇ!!」


 全力を出せばこんな船吹き飛んでしまう。半分も力は出していないが、それでも大砲を撃ち込まれながらこんな閉所で暴風を纏いながら暴れまくられたら、この程度の海賊では恐怖が勝ってしまう。

 次第に「悪魔だぁぁぁ!」だとか「海に飛び込めぇぇぇぇ!」だとか言って逃げていく。

 そうしてたどり着くのは、一番堅牢な作りになっている宝物庫だ。


「フンッ!」


 鍵のかかった鉄の扉を叩き斬ると、そこにはガクガクと震えた船長のビリアルが隠れていた。

 剣にこびり付いた血を払い、真っ赤な手で顔の汗を拭うと、ビリアルは失禁し泣き出した。


「ば、化け物だ! 悪魔だ! 絶対に人間じゃないだろ! 魔物か!? 陸で暴れていた魔物なのか!? なんでもいいから殺さないでくれぇ!!!」


 その魔物の王を倒しているので、化け物でも悪魔でも生ぬるいかもしれない。

 だが俺はここへ、ビリアルを殺しに来たのではない。深呼吸して高ぶっていた気を落ち着けると、静かに問いかけた。


「なぁアンタ、自分にかかった懸賞金いくらか知ってるか?」

「……は?」


 化け物だ悪魔だ思っていた相手からの落ち着いた言葉に、ビリアルは間抜けな顔をした。

 一方俺はニヒヒと笑う。主に金勘定をしながら。


「レイヴンスカルで調べたけど、たけぇんだよ。陸で大稼ぎしてきた俺からしてみてもたけぇ!! でも今の俺は無一文だしよぉ。この船の宝物庫もみんなで分けるだろうしよぉ、命だけなら助けてやるから、ちょっと秘密で捕まってくれねぇか? 誓って殺さないでやるからよぉ」

「は、はぁ~? アンタ、ホントに何者なんだよ……?」

「俺か? 俺は……攻めるのが主義の守銭奴とでも名乗っておくか!」


 こうして、ブルーハンターはビリアル含め秘密で生かしておいた奴以外全滅という形で終わった。一度船の点検と、今度は祝勝会ということでレイヴンスカルに戻るという。  

 ニオには秘密でちゃっかり用意しておいたボートにビリアルを乗せて、形だけならあった冒険者ギルドに届けると、タンマリと金を頂いた。



――――――

【作者からの心からのお願い】


『完結済みだから安心!』『毎日二話更新を約束!』


 以上は必ず守ります! この作品は"コメディ"を学ぶために書き始めましたので、それを感じられたら以下願いします!


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