第4話 遅れてきたメインヒロイン
「今度という今度はやべぇな……」
昼過ぎに海軍本部の離れにある牢屋にぶち込まれて数時間、あの手この手で脱獄を図るも無駄に終わっていた。
グレイン相手に「天国への旅費が~」だとか言ったが、あんなのはどうせ何を言っても捕まるからそれっぽいことを言っただけだ。
本音は何が何でも逃げたい。それに尽きる。あと傷の手当てのため別の牢屋に捕まっているメダルカたちも助けなくてはならない。
つまりは繰り返すが何が何でも逃げねばならないのだ。
とにかく状況整理だ。まず鉄格子は超強力な対魔法のエンチャントがかけられている。ここは登らされた階段からするに地上三階だから飛び降りるのは無理。並んでる牢屋は四つでブツブツ死にたくないと呟いてる囚人で溢れていて協力は出来ないだろう。武器なし。仲間なし。武装した見張りはさっきから交代で巡回中。明日の朝には絞首刑。そろそろ夕暮れ――
「どうしろってんだよ!! いくらなんでも無理があんだろ!? ってか俺は魔王倒したサンランページのリーダーだぞ!? 英雄だぞ!? なんなら他の魔物の足止めとかあったから、ほぼグレインのクソ野郎と二人で倒してんだぞ!! 帝王から恩赦とかもらったんだぞ!! その俺が絞首刑!? 世の中クソだなクソッタレ!!」
魂の叫びを上げていると、「おい、うるさいぞ」と、見張りが一人やってきた。
「魔王を倒してくれた事には感謝してるがな、エルフの山を三つ焼くのはやりすぎだ」
「だから俺じゃねぇって言ってんだろうが……リーダーとして責任はとってきたし、大金も払ってきたし、これからも贖罪してく予定だったのによぉ……」
「訳ありなのは誰もが知っているが、我々も仕事だからな。情に流されたりはしない」
「権力の犬がよぉ……」
「何とでも言え。それと、少し下がっていろ」
剣を向けられたので大人しく下がると、扉の鍵が開かれた。
出してくれるはずないと思っていたら、別の見張りが金髪の小娘を連れてきた。
「おら、ここで頭冷やしてろ」
「乱暴だなぁ」
ひょろっちい金髪金目の、やけに中性的な声をした小娘が俺の隣に投げ入れられた。
十六かそこらに見える小娘へ、見張りは呆れた様子だ。
「ガキのくせにエルドラード号に忍び込むからいけないんだ。密航でもする気だったのか?」
「だーかーら! ガキじゃないってば! ボクはもう立派な大人! 生まれたときから船に乗ってたから密航とかしなくても船操れるの! 何度も言ったけど、なにせボクは……」
「“海賊”か? カトラスも銃もなければ、宝どころか小銭だって持ってない。せいぜい首からぶら下げてるコンパスくらいしかそれらしい物ないのに、よく言えたものだな」
「でもこのコンパスは特別製だよ? ほら見て、コンパスと懐中時計が一緒になってるんだ。両親の形見だよ」
「特別かと言われると……まぁ特別か。本来なら没収するところだが、形見ならとらないでやる。それとガキだし女だから飢えた男共の中にぶち込まないでやるから、しばらくクサい飯食ってろ」
そう言い残して見張りは去っていった。
この一日裏切られたり捕まったりで悪い意味でバタバタしていたが、なんだろうか今のやり取りは。
不思議と張っていた気が緩んだ。この小娘のおかげだろうか?
「はぁーあ、なにが男共の中にぶち込まないだ。中にぶち込んでくるのはそっちだろうに」
「……年頃の女が下品だぞ」
「だから年頃じゃなくて大人! ……って、君もぶち込む側じゃないか。しかも屈強だし囚人……え!? まさかまたボク一方的に身ぐるみ剥がされてぶち込まれるの!? 今更優しくしなくてもいいけど、ぶち込むとこ間違えないでね!? 前だよ!?」
……にぎやかな奴だ。お陰で周りの嫌な静けさが破られたので、まぁ良しとしよう。
とはいえだ。一応俺としても言っておくことがある。
「俺の趣味はもっと出るとこ出てる魅力的な女だ。それと金に目がない紳士で通ってる。変な事しねぇから安心しろ」
言うと、小娘はプッーと頬を膨らませた。小娘の胸より膨らんで見えるほどだ。
「悪かったね寸胴で。でも世の中にはそういう女を狙って襲ってくる男がいっぱいいるんだ」
「俺はちげぇからな」
俺の言葉に、クックックと小娘は笑った。
「狙われるって事は、つまり魅力的ともいえるのさ! そして、平和になった帝国にこういう体系の女って意外と少ない! ある意味出るとこ出てる女より魅力的かもしれない!」
「わかったから黙っててくれ! 襲わねぇし興味もねぇ! 俺は一刻も早くここから出ねぇといけないんだよ!!」
声を荒げた俺に、小娘はニヤッと笑った。なにやら怪しい雰囲気が顔に現れ、不穏な空気が漂ったように見える。
「当てようか? 君は明日の朝、処刑されるからだ」
「……なに?」
なぜ知っている? 面識はないはずだ。さっき叫んだからか?
「君ほどの歴戦の男なら、叫んだのがキッカケだって多分気づいただろうけど外れだよ、サンランページのリーダー、ゼノディアス・グランバーグさん? それとも仲間内で呼ばれている通りゼノって呼んだ方がいいかな」
ガラリと雰囲気が変わった。ギャーギャーうるさいだけの小娘が、不敵に笑って俺の名前と通称を言い当てたのだ。
「おっと申し遅れたね。ボクはニオ・フィクナー。海賊の父親と海賊の母の元、海賊船で生まれて、海賊としての生き方を叩きこまれてきた、列記とした海賊だよ。ああごめん、海賊海賊連呼しすぎたね。それと名乗り遅れた詫びに君の好物のリンゴを盗んできてあげたいけど、見ての通り牢屋の中だからさ。わかるよね」
俺の好物を知ってるのは、それこそメダルカやグレインといったサンランページの最初期からのメンバーだけだ。
ある程度パーティーとして形になってからは威厳を保つために、宿での寝場所や食事は階を分けてきたし、野山の旅でリンゴを特別多く食べていても好物とは思わない。
思っても、こんな場で引き合いに出すほどではないだろう。
「……何者だ?」
低い声で凄んでみせる。しかし、ニオは二ヒヒと笑っていた。
「そんな怖い声を出さないでよ。なぁに、海に出たくて船と船員を探してる海賊さ」
「……仮にお前が、さっき言ってた通りの経歴を持った海賊だとして、なぜ最近まで陸で魔王と戦ってた俺のことをそんなによく知っている?」
ビョコン、と頭の天辺ににあるアホ毛が跳ねたかと思えば、ニオはフラフラと牢屋の中を歩き回り始めた。
「それを語るには、なぜボクが一人で陸にいるのかから話した方が今後のためになる」
「今後?」
「言ったろ? 乗組員を探してるって。あと船も。でも一番の目的は君をここから自由にすることだ」
俺を自由にするのが目的で、まさかワザと捕まったのだろうか。
訝しむ俺へ、ニオは笑いながら続ける。
「けど! それを全部話してると結構な時間になる。もしも裏切者のグレインが死刑執行を早めたりしたら、ボクとしても困る。だから途中から且つ必要なことだけ話そう――君さえよければね。さて、あくまで決定権は君にある。待つよ……ボクについて考える時間をね」
グレインのことも知っていた。裏切り者だとも言い当てた。
もうすっかり最初の印象はない。凄んだ俺を相手に飄々とした態度で知らないはずのことを語り、掴みどころがなく、油断できず、それでいて全く敵意を感じさせない女だ。
歳はそんなに変わらないはずだというのに、イティとは全然違う。
このニオとかいう女には、何者にも従わない形容できない強さと、謎の経験からくる自信がある。
そんな奴がここに来たというのなら……。それも図ってのことだとしたら……。
「話してみろ」
賭けてみるのもいいかもしれない。
――――――
【作者からの心からのお願い】
『完結済みだから安心!』『毎日二話更新を約束!』
以上は必ず守ります! この作品は"コメディ"を学ぶために書き始めましたので、それを感じられたら以下願いします!
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