第18話 応援したい気持ち


「えー、それではまず簡単にやり方を説明します。まずみなさんの前にあるのが――」


 そんな事があって数日後――。


『結局、来たんだな』

『そりゃあ、あの子が確実に来るって分かっていたら……行くでしょ』


 そう、今。私は参加しようか迷っていた「羊毛フェルト」の講座に来ている。


 ちなみに、お母さんにはちゃんと言ってあって「お金は自分で出す」と言ったけれど、結局お母さんが出してくれた。


 ――別によかったのに。


 なんて思ったのはここだけの話だ。


『結局今日まで会えなかったんだし』


 そう、結局。池里くんとはこの講座のおさそいを受けた日以来会えていない。サッカーがいそがしいのか、単純にタイミングが合わなかったのか……理由は分からないけれど。


 ――でも、仕方ないよね。


 だって、私と池里くんは学校でよく話す様な仲じゃない。このお店で会ったらちょっと話す程度の仲だ。


『まぁなぁ。天気が悪くても体育館でバスケ。良ければサッカー。とにかくじっとしていられないヤツみたいだしな』

『ついでに女子の応援は毎回セットみたいについて来ていたしね』


 そう言って女の子はどこか遠くを見つめている。


『いや、それはもうおきまりみたいなもんだろ』


 そんな女の子に対し、男の子はそう言って「ははは!」と笑う。


『まぁでも。おれとしては、お前にワザと受け付けているところを見せた様な気もするけどな』

『あ、それは私も思った! 最初にこの子に行くか聞いていたし!』


 なんて、私が何も言わないのをいい事にずいぶんと楽しそうに話している。


「……」


 ――全部聞こえているんだよなぁ。


 二人は自分たちの会話が私に届いていないと思っているのだろうか。いや、もしかしたら聞こえているのを分かったうえでワザと大きな声で話しているのかも知れない。


 ――それはそれでこまるけど。


「それでは早速やってみましょう」


 今回教えてくれる講座の先生はなんと店長さん。この手芸店では年に二、三回ほどこうした講座が行われているらしい。


 ――先生を読んだり店長さんがしていたり……まぁ色々だけど。


 この間手袋を作った長の話が本当なら、店長さんはあまりさいほうが得意じゃないという事になる。


 でも、おばあちゃん曰く「最初はひどかったけど、だんだん上手くなっていったんだよ」と言っていた。


 ――ここで講座をおばあちゃんと一緒に受けた時には「私よりも上手いんじゃないかねぇ」とおばあちゃん本人が言っていたっけ。


 そう、実は私も少し前に別の講座だったけどおばちゃんと一緒に参加した事がある。


 ――その時は手芸そのものをやり始めたばかりで上手く出来なかたっけ。


 でも、分からなければきちんと教えてもらえる。なおかつ質問しやすいふんいきだったのも私にはよかったらしく、そこから手芸の腕前が上がった様に感じる。


 ――なんだかんだ久しぶりになっちゃったけど……。


 実のところ、結構楽しみでにもしていたのだけれど……。


 ――うん、楽しみだよ? 楽しみにしていたのだけど……。


「なるほどなぁ。こうやって形を整えるのか」

「……」


 まさか、となりの席に池里くんが来るなんて思ってもいない。


 ――なんで?


 ちなみに、池里くんがとなりの席だという事は講座に来て座る場所が書かれた紙を見た時に気が付いた。


 ――そりゃあ。


 私たちの周りにいる人たちは大人ばかりで、同い年という事も考えてとなりにしたのかも知れないけれど!


 ――かなりやりにくい……。


 なんて始め思いはしたものの、作業に入ってしまえば……意外にも集中出来た。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「ふぅ」


 ――出来た。


 一通り説明されれば案外簡単なモノで、私の目の前には黄色い鳥のマスコットがいる。


『コレは……ひよこか?』

『……丸いね』


 コレを二人の評価はなかなか厳しいモノだったけど、私としては思い通りの物が出来たので満足だ。


 ――そういえば……池里くんはどうだろう。


 つい作業に没頭してすっかり忘れてしまっていた。


 ――それが逆に良かったのかも。


 なんて思いつつチラッと池里くんの方を見ると……。


「……」


 どうやら池里くんも作業に没頭しているのか、羊毛フェルトを無心で針をついている。こうすることで最初はわたみたいだった羊毛フェルトが形になっていくのだけど……。


「……」


 ただ何気なく見ていると、無心で針をつついている姿は……どことなく怖さを感じる。


 ――それにしても、何を作っているんだろう?


 一応、基本を教えてもらったら後は自由に作っていい事になっている。


 ちょっと見ていると、今度は黒い羊毛フェルトを白い羊毛フェルトを丸くしたモノの上にのせていた。


 ――線を描こうとしているのかな?


「……あれ?」


 ――って、コレ。もしかしなくても……。


『サッカーボール……だよね?』


 私が答えを出す前に女の子がその答えを口に出していた。


『いやどんだけサッカー好きなんだよ!』


 前に会った時も、光の長と会うきっかけになったモノも、そもそも私が池里くんを知るきっかけになったのも……すべてサッカーだった。


 ――それだけ池里君にとって大事なモノなんだろうなぁ。


 私も手芸が好きだけど、正直ここまでではない。


 ――なるほど、長が応援したいっていう気持ち。少し分かるかも。


 その「好き」という気持ちはあまりにもきれいでまぶしくて……とても私の好きという気持ちと同じだとは言えない。


「……」


 ――でも、だからこそ。みんな応援したいと思うんだろうな。


 多分、池里くんは戸惑いながらも受け入れてくれるだろう。あの女子たちの黄色い声援も、最初は困っただろうけど、今は気にしていない様にも見える。


 ――池里くんが本当に困っていたのはきっと……別の事なんだろうな。


 なんて少し思う。


「……よしっ」


 そんな事を考えていると、どうやら完成したのか、どうことなくうれしそうな表情で出来上がったモノを見ている。


「……」


 そして、そんな彼の手の中には……にぎりこぶし位のサッカーボールがあった。

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