369. 今年の遠征

 

 今年も荒野への遠征の時期がやってきた。

 冬は魔獣が少ないし、今はどこの国からも戦争を仕掛けられていないから、年始の警備が終わると騎士団の仕事は訓練が中心になる。


「シュペア、魔道具はここに出してあるので全部か?」

「はい、それで全部です。もうチェックしたので馬車に乗せて下さい」


 今回の遠征はかなりの大所帯。僕が所属していて領主様が中隊長を務める第二中隊だけでなく、魔術部隊の第一中隊と第三中隊も参加する。第二中隊はほぼ全員で、他の中隊からは小隊が2つずつ参加する。あと、年末に完成した世界樹の管理と監視をする人の交代があるから、その人たちも一緒に行く。

 だから準備だけでも大変だった。


 冬なのに汗をかくくらい駆け回って準備をして、他の中隊から参加する人たちのところにも準備の確認をしに行ったり、遠征って準備の方が大変なんだって思った。

 出発すると僕は馬車に乗せてもらって、今回の遠征では何をしようかなって考えながら、自分の時間を過ごした。


「え? そうなの?」

「ああ、ブラットさんが中心となって世界樹の管理をしているんだ」

 休憩の時に領主様から、ブラットさんが世界樹の管理をしてるって聞いて驚いた。ブラットさんは色んな植物が好きだから、荒野の世界樹しかない場所では楽しくないんじゃないかなって思って、だから生態を管理する人に教えたら、植物の多い場所で薬師の研究を進めてると思ってたから。


「シュペアくん久しぶりだね」

「ブラットさんお久しぶりです。えっと、これは……」


「いやあ、世界樹ってさ、他の植物にも色々影響与えてくれるらしくて、そこにあるだけで色んな植物の環境が整うというかね、特殊な植物でも世界樹近くなら育つんだよ。ほらこの木……(略)」


 ブラットさんの説明によると、世界樹の近くでは、色んな植物が育ちやすいらしい。それでブラットさんは植物園を作っていた。だからここにいたんだね。確かにブラットさんにとってここはとってもいい環境なのかも。

 珍しい植物の種や苗を各地から取り寄せたりして、植えまくっているらしい。

 それって、大丈夫なの?

 凄くいいことみたいにも思えるけど、見つかったら凄く怒られそうな気がするよ……。


 ミランが魔術のことになると周りが見えなくなって、大変なことをしちゃうのに似てると思った。

 色々説明を聞いていると、ちょっと危険そうな植物も育てているみたいだし、心配だな。


「……っていうわけでね、もう本当にこの世界樹は私にとって楽園を提供してくれる命より大事なものなんだ」

 凄く長くて、途中から何が何だか分からなくなったけど、一応この前から気になってた魚の食中毒に効果がある葉っぱが、ナントゥーンの葉っぱであることが聞けて、それも見せてもらうことができたからよかった。


 一昨年は何もなかった荒野に、湖ができて、世界樹が生えて、今は基地もできて植物園もできて、凄い発展を遂げている。



 僕は去年と同じように領主様に湖の氷を溶かしてもらって、今回は波も起こしてもらった。それで波がある状態で水面に氷を張って歩く練習をしたり、流動で一部の水だけを自在に動かせるよう練習をした。水の中に光を飛ばしてコントロールする練習もした。


 ファングヘリングを追い立てた時、上手くできなくて、最初に半分もいなくなったし、陸に近いところまで追い立てられたのは1/4という残念な結果になった。もっと上手くできるようになりたい。

 やっぱり空を飛ばすよりも、水の中を動かす方が大変だって思った。


「シュペア面白いことをやっているな」

「うん。これ、上手くできないんだよね。ティーダの海に行った時に魚の魔獣の群がいたんだけど、上手く追い立てられなくて、3/4が逃げちゃったの」

「お? 面白そうだな、光を操作するのか?」

「なんだ? 湖が綺麗だな」


 僕が湖の中に光の玉を入れて操作する練習をしていたら、中隊の人がいっぱい寄ってきた。みんなも面白そうだって言ってやり始めたけど、やっぱりみんな上手くできないって、難しいって言ってた。

 みんなで集まってやると、湖にたくさん光の玉が浮いてて綺麗。


「これさ〜、夜にやったらもっとキラキラしてほわ〜ってして綺麗じゃない?」

 そんなメーヴェの言葉でに、暗くなってから光の玉をみんなでいっぱい浮かべたら凄く綺麗だった。


「凄い。操作しなくても波があるから、ゆらゆらしてる光がいっぱいで綺麗だね」

「これ綺麗だな。公開演習の時に会場を暗転させて光を浮かべるってのはどうだ?」

「それいいな。剣技やなんかの肉体派の動きは戦士部隊に負けるが、これは綺麗で女の子が好きそうだ」

「じゃあさ、光に色つけてみるのはどうだ?」

「それいいな。色んな光の玉が浮かんでいたら綺麗だよな」


 そんな話をして、来月に行われる公開演習の時に発表する内容も決まった。

 僕もそれは見たいな。湖の中じゃないけど、ルシカやゲオーグにも見せたいなって思ってたから、見せることができそうで嬉しい。

 僕1人でも30個くらいなら光の玉を浮かべることはできるけど、こんなにたくさんの光の玉を浮かべたり、色んな色の光の玉を浮かべたりは難しい。楽しみだな。


 去年の遠征は途中で帰ることになったから、やりたいことを全部やれなかったけど、今年は成果はまだ十分とは言えないけど、やりたいことを一通りやることができたからよかった。



「やっぱり第二中隊はヤバイな。水の中の光は自在に動かせるらしいぞ」

「は? 撃ち出した後で操作するのか? そんなことできるのか?」

「俺は昼間に湖の上を歩いているのを見たぞ」

「マジかよ。なんで第二中隊だけあんなにレベルが高いんだ?」

「知らん。初級魔術や中級魔術もとんでもない威力だったぞ」

「あんなに実力が高いのに驕ってないんだな。今度飲み会に来いと軽い感じで誘われた」

「それにしてもこの飯、美味いな。なんだった?」

「ああ、これはスパイス攻撃だな」


 同行した第二中隊以外の騎士たちも驚きはあるものの、楽しんでいるようだ。

 そしてスパイス攻撃は、他の隊員にも大人気だった。

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