368. クライトの旅立ちと教えること
「え? クライト年が明けたら旅に出るの?」
「そうだぜ。ラオさんの行商について行くんだ。護衛の人も一緒だし、3月には戻ってくる」
クライトが世界を見に行くのはとてもいいことだし、ずっと夢だったんだから応援したい。でもちょっと寂しい。
せっかく王都に戻ってきたのに、クライトは旅に出ちゃうし、戻ってきた頃には、今度は僕が旅に出る。
ラオさんとクライトの話をしたのは今年の春だった。いつか旅に連れて行ってもらえるといいなって思ってたけど、まさかこんなに早く実現するなんて思ってなかった。
でもずっと会えないわけじゃない。僕が強くなりたいって思うように、クライトも色々な物を見て勉強したいって思ってる。だから、僕はクライトの旅立ちを気持ちよく見送ることにした。
クライトも僕が旅に出る時はこんな気持ちだったのかな?
僕は一つ、クライトに頼みたいことがあるんだ。
でも今はまだ言わない。旅の準備で忙しい時に言うことじゃないし、旅から戻ってきたら相談してみよう。
驚かせちゃいそうな気がするけど、クライトにしか頼めないことだから。
王都に戻る時に、冒険者ギルドに行った。
王都にいる間は、領主様みたいに伝言が届いた時に、騎士団に知らせてくれるようにお願いするためだ。
ルシカとゲオーグもお願いしてた。2人も王都にいる時は伝言確認するの忘れちゃうもんね。貴族ってことと、高ランクってことで、ギルドはすぐに受けてくれた。
年が明けると、クライトはラオさんと行商の旅に出た。
「クライト、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「シュペアありがとう、この鞄大事に使う」
僕はクライトが旅の時に使う重力操作が付与された鞄を貸してあげた。あげるって言ったんだけど、こんな高価なものは貰えないって断られた。僕ができることはないかなって思ってクライトのために買ったものだし、戻ってきたらそのままあげるつもりだ。
ゲオーグは週末にはやっぱり孤児院の様子を見に行くことが多くて、ルシカはシャームと一緒にギルドでヒスや他の低ランク冒険者に剣を教えてる。
僕は休みの日はどうしようかなって思ってたんだけど、クンストにいる。
「ムート久しぶりだね」
「会いたかった。ここのステージも王都のステージもかなりよかったからさ、みんなでまた来たいって言ってたんだ」
年が明けると、クライトと入れ替わりでムートがクンストに来た。
クンストの劇団が滞在できる施設とステージが気に入ったようで、また来年も来たいって話になってるらしい。
冬はテントを設営するのも大変で、練習も寒くて外でやるのは大変なんだとか。
だから、冬はクンストに来るってことが毎年恒例になるかもしれないらしい。そうなると嬉しいな。僕の旅が終わっても会いたいし、毎年会えるなら、こんなに嬉しいことはない。
「ムートまた上手くなった? 僕も練習してるけど、このスムーズな足運びって本当に難しいね。ムートはジャンプしても全然着地の時に音がしないから凄いよ」
「そうか? シュペアもかなり上手くなったんじゃないか? 俺たちのステージに立てるくらい」
「それは無理だよ。僕なんてまだ全然。足運びは戦う時にも役に立つから練習してるけど、踊ったりはできないもん」
「それはそっか。でもシュペアも社交ダンスはやってるんだろ?」
「ダンス……僕は向いていないのかもしれない。それに僕は成長が遅いから、例え成人を迎えても、誰とも踊れない気がする」
「確かにシュペアはちょっと小さいよな。俺も去年までは小さい方だったし、シュペアも15歳の成人を迎える頃にはもっと大きくなってるんじゃないか?」
ムートが羨ましい。ムートは一年会わない間に10センチ近く背が伸びていた。出会った時は5センチくらいしか変わらなかったのに、今では随分と身長に差が出てしまった。
声も低くなったし、低音の声が大人って感じで羨ましい。一歳下のクライトも声が出にくいとか言ってたら、いつの間にか声が低くなってたし。僕だけまだ子どもみたい
こうして週末にはよくクンストに来てムートの剣舞を見たり、練習を見せてもらったり、風の魔術とか他の魔術も教えてあげてる。
リヒトと一緒にミランの魔術演習場で魔術の練習をしたり、領主邸の横にある馬場で軽く乗せてもらったりすることもあって、最近はクンストに来ることが多いかな。
「僕が空間を広げる時にやっているイメージなんですが、圧縮の逆だと教えてもらったので、魔力を粒子とイメージしながら広げて、さらにその1つずつを膨張させるイメージをします。さらにその膨張した状態で、鞄に接触する部分は外に流れて行かないように魔力の濃度を高めて固定させるんです」
「なるほど。イメージはできた。イメージはできるんだが、これはなかなか難しいな。少し練習が必要になりそうだ」
「それで、魔力をたくさん込めると、空間を大きくできたり、持続時間も調整できます。サプナーさんは部屋を新たに作り出したり、空間を広げたまま一年くらい保てる鞄を持っていました」
「部屋か。それは凄いな。確かにすぐに解除されては意味がないから、少なくとも1日は持たせたい」
僕は領主様に、サプナーさんに教えてもらった、空間を広げる魔術を教えてる。僕が領主様に何か教える日が来るなんて思ってもみなかった。
僕は教えるのが下手だから、上手く教えられるか不安だったけど、なるほどってすぐに理解してくれて、よかった。
ラジリエンの時はすごく下手だったけど、インディールで教えたり、ムートに教えたり、パリスタでも新人冒険者に教えたりしてたから、少しだけマシになったのかな?
そうだったらいいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます