367. 修行とリヒトとの約束
「レーマンに来るのは久々だよな」
「前に来たのは、ルヴォンとグレルと一緒にブラッディオーガを倒した時だよね」
「そうだな2年前か」
レーマンは、僕たちが最初に活動をしていた時から全然変わっていない。全然って言っても、食べ物の流行とか服の流行とかはあるから、屋台で売ってるものの内容は変わってるし、お店も変わってる。図書館やギルドは前のままで、変わってないものがたくさんあるから懐かしい。
レーマンは森の奥まで進むと、かなり強い魔獣がいるから修行するのにちょうどいい。
ルシカとゲオーグが、投擲を練習したいって言ってたから、依頼は受けずにイーグルを探して走り回ってたくさん倒した。
僕は倒さなかったけど、イーグルを小さい火球でこっちに誘導したりする練習がたくさんできたから満足。やっと慣れてきて、思うように扱うことができるようになったのが嬉しい。
ルシカが「たまには地上戦もするか」って言ったから、もっともっととどんどん奥に進んでいくと、ミノタウロスを3体見つけた。
「でかいな」
「そうだな」
「これって美味しいんだよね?」
インディールにいた猛牛みたいな顔の魔獣がいた。これ持って帰るの大変そう。重力操作をかけて背負っていくのが一番いいのかな? ミノタウロスの皮は丈夫で鞄によく使われる。タッシェにある鞄屋さんでも使われていて、綺麗に倒すと高く買い取ってもらえると思う。
大きいけど、あんまり強くなかった。ミノタウロスが弱いのか、僕たちが強くなったのか分からないけど、振り下ろされた腕は重そうだけど、皮を傷つけないようにってことで、心臓や喉をグッと突いたら、あっさりと倒れてしまって、あれ? こんなもんかなって感想だった。
「リザードマンを運ぶより大変だね」
「シュペアは特に大変そうだな」
頑張って背負っても、大きいから引きずっていて、草とか切り株とかに引っかかって歩きにくかった。でも今日は美味しい夕飯が食べれそうだから楽しみ。
街に入ると、ジロジロ見られながらミノタウロスを担いでギルドに向かった。ミノタウロスが歩いてると思われて騒ぎになったりしないよね?
ギルドに買取に出すと、ルヴォンとグレルから伝言が届いていた。
僕たちはもうすぐ王都に帰るけど、伝言が来たってことは2人は無事インディールに行けたのかな?
「伝言ですが、『インディールで楽しんでるよ〜。パリスタはすぐに出てよかったみたい、吟遊詩人の歌が広がって貴族連中が僕たちのこと探してるらしいよ〜、冬になれば落ち着くと思うけどパリスタにはしばらく近付かない方がいいよ〜』とのことです」
そうなんだ。怖い。何の目的か分からないところが怖いと思った。今はエトワーレにいるし、もうすぐ王都に行くからいいけど、パリスタに行くことがあれば、もう目立つことはしないでおこうと思った。
「もうそろそろゆっくり向かうか」
「そうだな」
「弱い魔獣がいたら、僕は効き手じゃない方の手でナイフで戦ってみたい」
「お? それいいね」
「利き手が使えなくなっても戦えるようにしておくのはいいな。俺やルシカは特に魔術での攻撃ができないから、利き手が使えない状況になった時の対策は必要だ」
「そっか。確かに。2人にも必要な訓練かもしれない」
僕たちは、すぐにでも王都に向けて出立しようと思ってたけど、一週間くらいレーマンの浅いところで利き手と逆の手で戦う練習をしてから王都に向かった。
少しだけと思ってクンストに寄ったら、リヒトが僕と一緒にいたいとごねて、なかなか出立できなかったから、クンストにも少し滞在した。
ミランはクンストにいて、ちゃんと王様に世界樹のことを話したらしい。そして、ミランは面白がってリヒトに色んな魔術を教えている。ミランが魔術を使ってるのを見ていたリヒトが真似をしたのが面白くて、色んな魔術を目の前で見せて、教えているらしい。
見つかったら領主様に怒られるんじゃないかと、僕はドキドキしてるんだけど、大丈夫なのかな?
ルシカとゲオーグに「これって大丈夫なのかな?」って聞いたら、「俺は見なかったことにする」って言われたから、やっぱり問題なんだと思う。
「ミラン、あんまり変なことリヒトに教えないでね」
「大丈夫だよ〜、シュペアも相棒が強くなるの嬉しいでしょ〜? リヒトは覚えもいいしさ〜」
ブルル<僕もシュペアみたいに強くなるんだ>
「リヒト、楽しいのは分かるけど、危ないことはしないでね。魔術って危ないものもあるから」
ブルル<分かった>
リヒトはわかったって言ったけど、僕はちょっと不安だった。
まだリヒトは子どもで、リヒトの言葉を理解できるのは僕しかいない。もしミランがいない時に大変なことが起きたりしたらと思うとすごく怖い。
僕は炎の剣を使った時に、火に巻き込まれそうになったし、刃とか矢とか火は自分も危ないけど、他の馬や人にも危険が及ぶかもしれない。
だから僕は、リヒトに約束させた。
ミランか僕がいる時以外は魔術を使わないようにって。それが守れないなら、僕はリヒトに乗らないと言った。
ちょっと厳しかったかなって思ったけど、僕はリヒトに危ない目に遭ってほしくないし、リヒトが誰かを傷つけたりするところを見たくない。誰かを傷つけて悲しむところも見たくない。
これは必要なことだって、自分に言い聞かせた。
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