366. 使徒様とお別れ

 

 レグリースには20日くらい滞在してた。そして、また次の街を目指す。その間にいくつかの村も回って、次はまた女神様が降臨された街ポミエだ。


「ここもレグリースほどではないけど、大きな教会を建てたんだね」

 僕たちは最近建てられたと思われる大きくて新しい教会を眺めた。

 ここも街を行く人たちは痩せ細っていて、ボーッとしている人が多い。街のお肉屋さんにはほとんどお肉が並んでいないし、活気に満ちているとは言えない雰囲気だった。


「ここもレグリースと同じ感じだね〜、ここもちょっと長めに滞在しようか〜?」

「そうだな」


 そして僕たちはポミエに半月くらい滞在して、次の街を目指した。


「ポミエはさ〜、冬に行くとリンゴがたくさん取れるんだけど、夏は何も無くて残念だったね〜」

「リンゴの街だったんだ。だからシードルがたくさん売ってたんだね」


 街にはシードルがたくさん売られていて、領主様が好きなシードルだって思って見てた。

 ここで買っても、帰るまで樽を持ち歩くのは大変だから、残念だけど諦めた。



 そしてまた街や村を回りながら、移動を繰り返して、パリスタで最初に泊まった街マージュまで来た。

 もう秋も終わりに近づいて、魔獣の動きも少なくなってきた。


「季節的にも、あとは回れても街1つか2つか、それくらいだね〜」

「だいぶ寒くなってきたから、肉が傷みにくいのは助かるが、魔獣が見つかりにくくなってきたからな」


 マージュに来て10日くらい経った日、ギルドに寄ると「使徒様がきたぞ」と言われた。

 僕たちは顔を見合わせて、そう言って僕たちを揶揄った人に詰め寄ったら、吟遊詩人が歌っているのを聞けと言われた。


 その日は広場に行っても吟遊詩人がいなかったから、翌日の朝にも広場に行ってみた。


「ションター、久しぶりだな」

 楽器を取り出して弾こうとしている人に、ルシカが駆け寄って声をかけた。


「おお、ルシカ、どうした? なんでこんなところにいるんだ? 例の彼女は?」

「結婚したが、仕事で今はパリスタを旅している」


 なんだか仲良さそうに話しているし、ルシカが結婚したとか話しているから、ルシカの知り合いなのかな?


「ルシカ、知り合いなのか?」

「あ〜、まあ、そうだな。俺の師匠だ」

「師匠? この人も強いの?」


 楽器を持った人は、冒険者に囲まれて困っているし、そんなに強そうには見えない。武器も持っていないように見える。


「ションターは俺の歌の師匠で、エピオネ様の歌を教えてもらった」

「あ〜、この前言ってたやつ? へえ〜」

「それで、使徒の歌を歌っているのはルシカの師匠ってわけか?」


「君たち、もしかして俺の歌を聴きに来てくれたのか?」

「そうだな。聞かせてもらえるか?」


 ションターと呼ばれた人は、弦が張ってある楽器をポロンポロンと鳴らしながら、歌を歌い始めた。すると、街の人がたくさん寄ってきた。


「「「…………」」」


 これって……もしかして僕たちのこと?

 ションターが歌った内容は、Aランク冒険者パーティーがパリスタの各地を回って施しを行い、飢餓を救っているという内容で、冒険者というのは仮の姿で、女神エピオネ様の使徒様だという内容だった。

 だから冒険者ギルドで使徒とか言われたの?


 みんなを見ると、難しい顔をして腕を組んでいた。

「なんだあの歌は」

「まさか俺たちか?」

「どう考えても僕たちだよね〜」


「どうだ? 今パリスタで話題のAランク冒険者パーティーのことを歌にしてみたんだよ」


 歌い終わると、自信満々にションターは答えたけど、こんな大勢が集まっているところで僕たちがその話題の冒険者だなんて明かしたら、確実に騒ぎが大きくなる。余計なことは言わないように僕は口を閉じた。


「この歌で冒険者が乱暴者だけじゃないと広まるといいな」

「そ、そうだな」


 ゲオーグが知らないふりして感想を伝えて、それにルシカが同意した。ゲオーグすごいよ。いつも冷静に答えられるところが、本当にすごいと思った。ルヴォンとグレルはずっと黙ってた。

 あんまり目立たないようにしようと思ってたのに。クライトが作ってくれた目立たないローブを着てるし、目の色も茶色にしてる。みんなの前で派手に魔術を使ったわけでも、空を飛んだわけでもない。海も歩いてないし、目立つようなことはしていないはず。

 それなのに、目立ってしまった? 目立ったのは僕だけじゃない。みんなだけど、幸い僕たちの容姿は明かされてないみたい。


「ちょっと目立ちすぎたかもね〜。トンズラするよ〜」

「そうだな。パリスタのことだ、公爵や貴族に捕まれば祭り上げられて見せ物にされるか、おかしな要求をされたり、国のために強制労働ということも考えられる」


 ルヴォンとグレルがやっと口を開いたと思ったら、そんな怖いことを言うから、僕はすぐにでもパリスタから出たくなった。


「じゃあ〜、僕たちはもう冬になるってことで、修行のためにも森を抜けてインディール行くね〜」

「俺たちはこのまま戦場跡を抜けてエトワーレに戻るか。冬までひと月くらいしかないが、レーマンに行ってもいいな」


 ということで、僕たちは解散してヴォンとグレルはインディールへ、僕たちはエトワーレに戻ってレーマンで修行することにした。


 魔獣の討伐とか戦いって意味では、そんなに成長はしていないけど、ギルドで色んな人に教えたり、街や村の救援をしたのは、僕にとってとてもいい経験になった。領主様が領地の村を助けたりしていたのをすごいなって思ってて、僕もみんなのためになることをしてみたいって思ってたから、こんな経験ができてよかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る