365. パリスタを回る旅

 

「ラメールにずっといるの? 他の街は食料は足りてるの?」

 僕は気になって聞いてみた。


「できればラメールだけじゃなく、他の各街も回りたいんだよね〜」

「そうだな。3人も無理にとは言わないが、一緒に回ってくれると助かる」

「僕はいいよ」


 ルヴォンとグレルの提案に僕は、いいことだと思った。困っている人を助けるって、誰にでもできることじゃないし、僕にも手伝えることがあるならやりたい。ルシカとゲオーグを見ると、二人もうんうんって頷いていた。


「じゃあ決まりってことでいい〜? とりあえず、ここから北西に向かって進んで、インディールの手前からは、森に沿って北を目指すって感じで、回って行こうと思うんだけどいい〜?」

 グレルが地図を広げて指を指しながら、ルヴォンがルートを説明してくれた。右回りにパリスタをぐるっと回るルートにするらしい。


 この先も使うだろうということで、食料の運搬用に大きめの荷車を2台購入した。パリスタを回る旅が終われば、売るかギルドに譲ることになる。

 まずはラメールの海で魚の魔獣をたくさん討伐して、それを凍らせて氷で包んで荷車に乗せた。


「なんかさ〜、やっぱりシュペアってヤバいよね〜、海の魔獣をこんな風に倒すなんて聞いたことない」

「そうなの? 沖にいたら倒せないから、誘き寄せて戦うしかないんじゃないの?」

「それはそうだが……前に魔術を海に撃ち込んだ奴なら見たことがある。その時は水柱が上がって魔獣は討伐できたが、回収できなかった」


 僕もそれは回収できないと思う。沖の方に魔術を撃ち込むことはできても、そんな遠くまで流動を作用させることはできないし、沖の方まで氷を浮かべて歩いていくこともできない。

 船で行くのも、小さな船だと魔獣に襲われて転覆しそうで怖い。


 海に近いところは海で魔獣を討伐して、海が近くないところは森に入って魔獣を討伐した。

 ボアやベアならいいんだけど、ゴブリンやウルフはどれだけ倒しても食べられないから意味がない。それでも倒しているのは、魔獣が増えて村や街に来ることを防ぐため。食べられない魔獣は燃やして埋める。


 ラメールを出て、ヴァン、ルパンという小麦や葡萄を育てている街を回って、その途中も名前が無い小さな村にもいくつか寄った。

 小さな村は自給自足だから、それほど飢餓が酷いってことはなかった。でも、僕もそうだった。野菜は作れても、村のおじさんやおばさんでは、魔獣を狩ったりはできない。お肉が不足するから、いつもお腹が空いていた。

 魔獣のお肉を渡すと、みんな喜んでくれた。お礼だってフルーツをくれたり、野菜をくれたりする人もいたけど、僕たちはその場で食べ切ることができるくらいの量だけ受け取って、あとはみんなで食べてもらうよう言った。


 僕たちは旅を続けて、レグリースという街に来た。

 ここは女神様が降臨された街の一つで、女神様が最初に降りた街として大きな教会が建てられていた。


「すごい。ルシカが結婚式をした教会と同じくらい大きいね」

「確かに。公都や王都でないのにこんなに大きい教会があるのは珍しいな」

「彫刻が美しいな」


 ゲオーグも椅子や柱や入り口の扉に彫られた彫刻をじっくり眺めてる。

 でもこの街は、この大きな教会を作るために、たくさんのお金をかけたから、貧困でお腹を空かせている人が多かった。


「ここは観光に来る人もいるから、食料が全然足りないね〜」

「そうだな、ここは少なくとも7日、時間が許せば10日かもう少し滞在して食料を供給したい」


 僕たちは、街のみんなの様子を見ても、どれくらい食料が必要なのか、何日くらいかかるのかってのが分からない。ルヴォンとグレルは疫病を知ってパリスタに戻ってから、ずっとこんな活動をしているから、街の規模や歩いてる人たちを見て、必要な日数を割り出すことができる。

 ルヴォンとグレルの他にも、冒険者の人たちで同じような活動をしている人はいるけど、低ランクの人では自分たちが生活するのにやっとで、なかなか人のために魔獣の肉を無償で渡したりはできないらしい。

 他の強い人は、パリスタが荒れた時や、戦争で無茶をしていた時に国外に出て行ってしまったのだとか。


 僕たちなら、身体強化を使って森を駆け回れば、街からかなり離れた場所にいる群なんかも倒せるし、こういう活動に向いているんだと思う。僕たちはみんながAランクだから、依頼をしばらく受けなくても登録が消えてしまったりはしない。それどころか、僕たちがやっていることをギルドは応援してくれている。

 どこの街で飢餓が多いとか、どこの地域に食用に適した魔獣が多く出るとか、ギルドに寄るとそんな情報を提供してくれる。


「あの、僕もいつかAランクになれる?」

「頑張っていれば可能性はあるよ」

「どうやったら魔術が上手くなれますか?」

「魔力循環、体の中で魔力をぐるぐるするのを暇がある時は練習してみて、僕はそれでかなり魔力の精度を上げたから」

「シュペアさん、ありがとう」


 たまに、ギルドの魔術教室や剣技の教室、訓練場に寄って教えてあげたりもした。僕は剣技は教えることができないから、剣を教えるのは他の4人だけど。

 魔術教室に来るのは、まだ駆け出しの子が多い。そういう子に教えるのは、僕にとってもすごく勉強になる。

 魔術の知識がない子に教えるってのは、なんとなく感覚で使っていたものが、言葉にすることでしっかりと輪郭を持って形作られていく。教えるのが下手だから、教わる子にとっては大変かもしれないけど、上手くできたって言われると嬉しい。

 それに、僕も改めて魔術について考えることができて勉強になる。


「シュペアってさ〜、面倒見いいよね〜」

「そうかな? 僕もいろんな人に教えてもらって、色んな人に助けてもらったから」

「偉いな」


 グレルが僕の頭をポンポンと撫でた。


「おっと、思わず。シュペアはあと1年もすれば成人だったな。もうAランクになったんだし、こんな子ども扱いは良くなかった。すまん」

「別にいいよ。僕は気にしてない。僕はまだまだだし、あと1年で大人になれる自信もない」

「大丈夫だ。俺でも大人になれたんだ。ああ見えてルシカもルヴォンも大人なんだ」

「ゲオーグ、それ酷くないか? 俺、この中では一番大人だし、結婚もしてるんだぞ」


「ルシカはさ〜、結婚しても冒険してるって凄いよね〜、結婚するってどんな感じ〜?」


 僕の大人になる話から、ルシカの結婚話に切り替わっていくと、ルシカは照れながらメルさんとの出会いとか、歌を歌った話とかをしてくれた。

 でも、その歌を聞かせて欲しいっていうみんなのリクエストには答えてくれなかった。

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