363. 海の魔獣の倒し方

 

「シュペア〜、1人1台ずつこんな大きな荷車引いて行くほど倒せるの〜?」

「ルヴォン、5台では乗せきれない可能性がある」

「ゲオーグが真面目な顔でそう言うってことは、そうなんだろうな」


 ファングスキップジャックの群を倒した時はこの荷車5台では乗らないような量だった。今回はティーダの海ではないからどんな魔獣がいるか分からないけど、群が見つかれば追い立てて、この荷車を埋めるくらいの量は取れそうな気がする。


 ルヴォンとグレルに先導されて森の細道を進んでいくと、森がひらけたと思ったら海が広がっていた。砂地ではなく、ファングスキップジャックをたくさん倒したような岩場だった。

 そしてティーダと違うのは、遠くの方に陸が見えるということ。


「あれは陸だよね?」

「そうだよ〜、あれはストーリアって島国で、その向こうにも島国があるらしいよ〜」

「島国……気になる」


 ゲオーグがボソッと呟いたのが意外だった。僕も気になるよ。


「どうやって行くの? 行けないの?」

「船だ。船に乗って行くんだが、魔獣が多くて海が荒れるから夏は船がほとんど出ない。行くなら春先か秋の終わりだな。ストーリアの向こうには竜が住むと言われている島と、南東に進むとヤーパーという島国がある」


 グレルが教えてくれたけど、船か……

 竜ってのは伝説じゃないのかな?

「竜が住んでいる」じゃなくて「竜が住むと言われている」ってことは、伝説って可能性もあるのかも。でも気になる。


 竜ってワイバーンを大きくしたようなものだって本で読んだ。それって本当かな? 凄く強いのかな? 領主様が倒したAランクパーティーが複数で倒すって言われてるブラックサーペントより強いのかな? 船に乗るってことを考えると簡単に行ける場所じゃないし、行っても竜なんていないかもしれないけど、ちょっと気になる。


 いつか機会があれば行ってみたい。今は食料不足でお腹を空かせているみんなに魔獣を届けることが先だ。僕は索敵を発動させた。

 うーん、ちょっと遠すぎて僕の操作で上手く誘導できるか分からない。7キロ沖に群で泳いでる魚っぽい魔獣を見つけたけど、どうしようか迷う。

 でも他はもっと遠かったり、群じゃないから、やっぱりあれにしよう。


 ちょっと遠いから多めに魔力を込めた光の玉をいくつも撃ち出して、索敵と照らし合わせながら光の玉を操作していった。

 あ……失敗した。せっかくの群が半分に分かれて、半分は離れて行った。


 バラさないよう誘導するのって難しい。真夏の日差しもあって、額からは汗が流れていった。背中も汗でびっしょり。結界を使ってその中に冷気を入れればいいんだけど、今は魔術を操作するのに集中してるから、他のことを同時並行でやるのは難しい。時々ルヴォンが大きな葉っぱをパタパタして僕に風を送ってくれる。


 途中で何匹も離脱していって、結局陸の付近まで追い立ててくることができたのは、最初の群の4分の1くらいだった。やっぱり僕はまだまだだ。悔しい。荷車を5台も引いてきたのに、これでは荷車3台に満たないくらいにしかならない。


「もうすぐだよ。槍や矢を構えて」


 僕が氷の魔術で作った槍や矢や投擲用ナイフをみんなが構えた。

 今回は銀色の塊がこっちに向かってくるのが薄っすらと見えて、ファングスキップジャックではないってことが分かった。


「おお〜、群が向かってくる〜、シュペアすごいね〜、あれなんだろう? グレル分かる〜?」

「あの大きさで銀色か、ファングヘリングだろうな」

「食べられる魔獣か?」


「ああ、食べられる。今の時期は卵を持っているからそれが美味いぞ」

「魔獣の卵か」


「塩漬けにすれば長期保存できるから助かる。今の時期は腐りやすいからな」


 僕は魔術の操作に疲れて、陸に引き寄せたら逃げないよう氷の檻で魔獣の周りを囲った。

 ふぅ〜


「シュペア〜、あとはみんなんでやるから休んでていいよ〜」

「うん、ありがとう」


 僕は岩場に座って、魔力循環をしながら、みんなが槍やナイフを使って魔獣を倒していくのを見てた。倒し方はファングスキップジャックと同じ感じで、岩場ギリギリまで押し寄せてきたファングヘリングを、上からグサグサ刺して倒していく感じだった。


 まだまだ課題は多いな。そう思って索敵を10キロ広げたまま魔獣の群がいないか見ていたら、海とは逆の森にロック鳥を見つけた。そうだ、水中が難しかったのかもしれない。空ならもっと楽に操作できるかも。

 僕は小さな、ほわぁ〜ふわぁ〜のファイヤーボールを3個出して森に放った。やっぱり水中とは勝手が違う。凄く楽ってわけではないけど、群じゃないってのも大きいのか、ちゃんとこっちに誘導できてる。


 僕は振り向くと、魔術で作った氷の槍をズバッと撃ち出してロック鳥の心臓部を貫いた。


 ギシャァァァァー!


 錐揉み回転しながら落ちてくるロック鳥が、地面に激突してボロボロにならないよう、ちゃんと風で誘導しながらゆっくりと地面に下ろした。首を解体ナイフでちょっと切ると、流動で血抜きをして血を燃やして、腐らないよう凍らせてみた。


「なんか、シュペアやっぱり、ちょっと想像を超える凄さになってると思う〜」


 ルヴォンのそんな声に振り向くと、みんなが手を止めて僕の方を見ていた。

 これくらい、僕がいる中隊の人ならできる人はいると思う。そんなに凄いことじゃないよ。僕はファングヘリングの群も上手く誘導できずにバラしちゃったし、本当にまだまだなんだ……。

 でもこれで、ロック鳥も確保できたから、あとは帰り道の森の中で適当な魔獣を狩れば、5台の荷車は埋まりそうな気がしてる。よかった。


 あれなんだっけ? ブラットさんが教えてくれた魚の食中毒に効く葉っぱ。しまった、もっとちゃんと聞いておけばよかった。帰ったら聞いておこう。でも薬の知識がない人が使うと危ないんだっけ?

 ルシカとゲオーグにも聞いてみたけど、覚えてないって言われた。だよね。2人とラオさんはブラットさんの早口で話す植物の話、聞き流してる感じだったもんね。僕も人のことは言えないけど。

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