362. ルヴォン、グレルとの再会と誕生日
戦場跡を超えてパリスタに入ると、一番近くの街で宿をとった。
過去に敵対していた国ってことと、ちょっと前まで疫病が流行っていたということで少し緊張した。少し不安で僕たちには結界を張っているけど、疫病って目に見えないから怖い。
「もう疫病は大丈夫なんだよね?」
「ここから西に5日くらいの場所にパリスタ公国の公都があって、その南西にある街で出たと言っていたから、この辺りは疫病自体が来ていないんじゃないか?」
「ゲオーグの言うとおりだな。俺が聞いた話では疫病という言葉に怯えた貴族が食料を買い占めたり、流通がストップしたことによる飢餓の方が被害が大きかったそうだ」
そっか。僕は見えないから怖いって思った。みんなもそう思うよね。そうなった時、畑を耕して自給自足している小さな村は関係ないかもしれないけど、パンを買ったり野菜や肉を買ったりして食べている人は、買い占められると食べるものが無い。
それで盗賊が増えて、食料があるインディールに流れた。
インディールとエトワーレが救援物資を送ったりして、やっと落ち着いたみたい。
「あ、女神エピオネの物語の人形劇やってるよ」
「ああ、そうだな」
「……」
僕は見てるのが楽しかったけど、ルシカとゲオーグは腕を組んで難しい顔をしていた。
この物語、2人はあまり好きじゃないみたい。
女神様が現れて、空から疫病をやっつける魔術? 薬? 神様が使うんだから魔術や薬じゃないかもしれないけど、光の粒を撒いて病気の人を助ける物語。
パリスタに女神様がいるのなら、見てみたいな。教会の女神様の像は見たけど、本物がいるのなら会ってみたい。神様だからそんなに簡単には人前に現れないのかもしれない。
依頼を受けたりしながら向かってもいいんだけど、とりあえずルヴォンとグレルと合流しようってことになって、公都から南西にずっと進んだところにある海に近いラメールという街まで行くことになった。
7月に入ってからエトワーレ王都を出発したから、冬まで時間が残り少ないってことで走って行くことになった。
「ルヴォン、グレル、久しぶりだね。元気だった?」
「久しぶり〜、元気だったよ〜、ね〜グレル」
「そうだな。3人も元気そうでよかった」
「2人は疫病が収まってからパリスタに戻ってきたのか?」
「そうだね〜、エピオネ様? のおかげで戻ってくるまでに疫病自体は終わってたよ〜、でも街はかなりひどい状態だったかな〜」
「ああ、酷かったな」
「そうなんだ……」
酷い状態って、飢餓とかだよね?
ルヴォンとグレルは、荷車とかを使って魔獣をたくさん倒して街の人に配ったり、冒険者をまとめて公都に運ばれた、インディールやエトワーレからの救援物資を各街に届けたりしていたらしい。
飢餓で亡くなる人が続出するような酷い状態からは脱却できたけど、まだまだ食料は不足してるんだとか。
「でさ〜、ものは相談なんだけど〜、索敵が得意なシュペアと、強いルシカとゲオーグにちょっと手伝ってもらえないかな〜って思ってさ。ダメ?」
僕はいいけど、2人はどうだろう? そう思ってルシカとゲオーグを見ると、優しい顔で頷いてくれた。
僕たちにできることならやりたいと思った。
海が近いこの街、この前ティーダではちょっと大変なことになってしまったけど、食料が不足してるっていうなら、有効な方法かもしれないと思って僕は提案してみた。
「ええ〜? そんなことできるの〜? なんかシュペア、Sランクのあの人の域に足突っ込んでない?」
「俺もそう思う」
「そうだな」
「同感だ」
「僕なんてまだまだだと思う。全然敵わない。まだできないことの方が多いよ」
領主様と同じ域なんて、領主様に申し訳ない。僕なんてまだ全然。この前だって海で流動が上手く使えなかったし、海の上に氷を張ってその上に乗るとか、まだとてもできる状態じゃない。身体強化だって全然レベルが違うし、結界だって氷の檻だって、領主様に比べたら凄く下手。
あと1年半でどこまでやれるのか不安で仕方ない。少し落ち込んでいると、みんなが心配してくれた。
「そうだ〜、シュペアさ、もうそろそろ誕生日じゃない? あれ〜? いつだっけ〜?」
「明日だな」
「お祝いするぞ」
「みんなでお祝いしよう」
自分の誕生日、忘れるところだった。そっか、もう僕14歳なんだ。
「じゃあさ、今日は移動で疲れてるだろうし、明日は街でシュペアのお祝いパーっとやって〜、明後日からバンバン討伐するってことでどう〜?」
「うん。僕はいいよ」
ルヴォンとグレルが美味しいお店に連れて行ってくれた。初めて食べるテリーヌっていう野菜とかお魚が層になって固めてあるやつとか、カラフルな野菜が煮込んであるやつとか、ジャガイモのとろとろなスープとかをお勧めしてくれた。
野菜がいっぱい使われた料理があって、領主様もパリスタの料理は好きかもしれないって思った。
「りんごの季節に来たらシーブスとやタルトタタンってケーキが美味しいんだけどね。今は無いからごめんね〜」
「夏はメロン、桃、洋梨だな」
「パリスタはフルーツがいっぱいあるんだね」
ゲオーグの喉がゴクッていったのを僕は聞いた。ふふふ、パリスタはフルーツが色々あってお菓子の種類が多いみたい。ゲオーグ嬉しそう。僕もケーキ好きだから嬉しいよ。
今はケーキよりも、パンとかお肉とかの食事が不足しているから、ケーキはあまり人気がないんだとか。だから売れ行きが悪くて店が困っているってことで、ケーキ屋をハシゴすることになった。
「僕、もう食べれないかも……」
「俺も、甘いものはもう無理だ。串焼き肉が食べたい」
なんかどこかで聞いたことのあるセリフだ。
森でトレントを倒しながら進んで、ラジリエンのヴォルターの街でみんなに誕生日をお祝いしてもらった時にも、グレルは同じようなセリフを言っていた気がする。
あの時は何軒のお店を回ったんだっけ? 今回は4軒のお店を回ったけど、全種類食べたわけじゃないし、また後日色んなお店を回りたいねってゲオーグと話した。
14歳。また僕に何ができるのかって考える年になりそうだ。
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