360. シュペア流、海の魔獣の倒し方


 次の日は僕たち3人だけで岩場の海に行ってみた。

「昨日の倒し方だと大変だったよね」

「確かにな。あれではソロで倒すことができん」

「群だったら無理だしな」


 ちょっと試してみたいことがあった。オークの群を倒した時というかオークの群をまとめて氷の檻に閉じ込める時に、僕は防御壁と風を使った。その時、風の魔術を撃ち出した後でコントロールできた気がしたんだ。だからそれを再現してみたい。

 火は苦手だし、水の中に入れたら消えちゃうかもしれない。だから使うとしたら、光か氷か土かな。光がいいかもしれない。攻撃性はあまりなくて、いつもライトを使うくらいだけど、いけそうな気がした。


「光で集められそうなら集めてみるから、寄ってきたら僕が作った氷の槍か投擲用ナイフで倒してほしい。」

「分かった。投擲も練習したかったしちょうどいい」

「だな、陸地の近くに誘き寄せられるなら、それが一番いいな」


 僕は索敵を広げて、2キロくらい沖に魚っぽい魔獣の群がいるのを見つけた。あれにしよう。上手くできるか少し不安になりながら、小さい光の玉をいくつか出して、海に向かわせた。場所は索敵を発動させて、その索敵上で確認しながら光を操っていく。

 海の中に光を沈めてみたけど、光が消えることはなかった。だけど空気より水中の方が抵抗があるのか、操作するのが難しい。魔力が薄れて消えてしまった玉もある。僕は追加で魔力を多く込めた光の玉を海に向かわせて、魔獣を陸に向かって追い立てていく。これは海の中に沈めてるからかもしれないけど操作がかなり難しい。波のせいってのもあるかな?


「もうすぐ見えそう。槍かナイフを構えて」

「シュペア……すごい数が押し寄せてくるように見えるが大丈夫か?」

「マジかよ。これ倒すのはいいが持って帰れるのか?」


 索敵を発動させて、群が近づいてくるのをルシカとゲオーグも見ていたみたい。

 確かに……近づいてくると、思ったよりも魔獣自体が大きくて、掌くらいの大きさかと思ってたら、一抱えあるくらいの大きさに見える。


「全部倒さなくてもいいよ」

「そうだな」

「陸に寄せてもまた沖に戻っていくなら、その個体は放置しよう」


 そして僕はもう一つやってみたかったことがある。流動で海の一部を操作して、倒した魔獣を引き寄せたり、テフに聞いた領主様がやったっていう陸に倒した魔獣を飛ばすってのもやってみたい。


「これは、投擲の練習というか……」

「無作為にただひたすら投げても当たりそうだな」

「いっぱい来たね」


 真っ黒な塊みたいになって群がブワッと陸に向かって押し寄せてきた。鋭い牙をガチガチ鳴らして魔獣って感じがするし、もしこんな海に落ちたら一瞬で食べられて死んじゃいそう。押し寄せてきた黒い魚みたいな魔獣は、陸に上がって攻撃したりはしなかった。

 頭に向かって槍で突いたり、氷の矢をたくさん放ったりして倒していく。ルシカとゲオーグも投擲ナイフを使ったり、氷の槍を投げたり、槍で突き刺したりしてる。


「なんか飽きてきたな」

「ルシカ、飽きたとか言うな。なかなか珍しい体験だぞ」

 2人がそんな会話をしているのを聞きながら、僕は海面に流動を作用させていた。これはなかなか難しい。範囲を固定してその中だけとは言っても、深さを指定するのも大変だ。波があって動いてるってのも難しい。これはまた荒野の湖に行った時に練習したいかも。なんとなくしかできないことが悔しかったけど、これはまた練習することにした。


 魔力、結構使ったな。あとはちょっと面倒そうな倒した魔獣の回収だ。海の深いところに落ちていったら回収するのが面倒だと思ってたけど、倒した魔獣はどれも水面に浮いていたから、その心配はしなくてよかった。あとは風を使ってブワッと持ち上げて陸に飛ばす。


 ポーイ、ポーイッとどんどん倒した黒い魚型の魔獣を陸地に飛ばしていく。ルシカとゲオーグもロープで引っ張って回収してる。


「こんな量、どうすんだ?」

「さあ、どうするんだろうね?」

「燃やす?」


 やりすぎたと僕も思った。山積みになった魚の魔獣を前に僕たちはちょっと困っていた。この魔獣はなんて名前なんだろう? 美味しいのかな? 食べれるのかも分からない。


「そうだな。食べられるのかも分からん。穴を掘るのも穴に運ぶのも大変そうだな」

「テフかザンツか、誰でもいいが冒険者を呼んで聞いてみるか?」

「一番近い人は……テフだね伝令魔獣飛ばしてみる」


 伝令魔獣を飛ばしてしばらく待っていると、テフが大きな荷車を引いてやってきた。


「……何というか、やっぱり騎士になるような奴は凄いんだな。海でもひっくり返したか? 大型の荷車を持ってきたが、全く足りなかったな」

「やりすぎたのは反省してます……これ、食べられますか? なんて魔獣か分かりますか?」


「これはファングスキップジャックだ。美味いぞ」

「こんなにたくさんは街のみんなでも食べられませんよね?」


 なんか強そうな名前の魔獣だった。強くはなかったけど。


「夏だからな。冬なら干しておけばいいが、夏は干してもすぐに腐っちまう。とりあえずギルドから街長か商業ギルドに相談してもらって欲しいやつに買ってもらうか」

「あ、じゃあギルドに伝令魔獣飛ばします」


 テフを呼んで、かえって面倒なことになった気がしないでもないけど、これも経験のうちかもしれないと思って、僕はギルドに宛ててファングスキップジャックを100を超えるほど倒したと伝令魔獣で報告した。

 ギルドの人が来る前に、きっとギルドで話を聞いた冒険者の人たちがたくさん来た。


「すげー! さすがウィルの部下だな」

「これはすごいな」

「これ何匹いるんだ?」

「この数は初めて見たな」

「うおー、これ3人で倒したのか? やべぇ」


 ルシカとゲオーグは困ったような顔をして黙ってしまって、僕もこれは完全にやらかしたと思って反省していた。

 夏は腐るって言われたから大量の氷で覆っていて、それもやらかしたうちの一つかもしれない。


 夕方になると、街長さんとギルドの人と、商業ギルドの人も来て、街長さんが通常より値段を安くしてたくさん買ってくれて、街のみんなで分けることになった。それでも余った分は燃やして山に埋めることになった。

 街長さん主催で街の中央広場でお祭りみたいになって、ファングスキップジャックを使ったいろんな料理が提供された。


「これって街のためになったのかな? 迷惑かけただけかな?」

「街長が買い取ってくれたし、街のみんなはタダで食べられるんだから良かったんじゃないか?」

「そうだな。ルシカが言うようにみんな喜んでいるから、良かったんだろう」


「そっか。それならいいんだ」

 今日は反省が尽きない1日になってしまった。

 これからは大量に倒してしまった場合、数匹を残して燃やそうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る