エトワーレとパリスタ

357. 海の街ティーダ

 

「次はどこを目指すんだ?」

「行ったことない場所に行ってみたいと思ってたんだけどね、エトワーレの中でも行ったことない場所がたくさんあることに気づいたんだ」

「あぁ、確かにな」


 ということで、僕たちの次の目的地はティーダ。ティーダというのはエトワーレの最南端にある街。エトワーレの中で唯一海がある街で、ゼルトザーム領の中にある。

 ゼルトザーム領はミランの実家で、ミランのお兄さんが領主をしている。


 海って湖より大きいらしい。しかも水が塩水なんだとか。

 誰が塩を水に入れているのかって聞いたら、誰もそんなことはしてないって。

 ミランみたいな人が無茶をしたのかと思ったけど、そうではなかったみたい。


 ってことで僕たちは早速ティーダへ向かった。

 エトワーレの中だから安全かなって思ったんだけど、ティーダの街の近くでオークが見つかったことがあるらしい。しかもジェネラルを含む大きな群だ。それを倒したのは領主様。

 簡単に行って帰ってこれる距離じゃないけど、フロイと領主様ならそんなに時間がかからず行くことができるんだろう。


 ルヴォンとグレルも行ったって言ってたし、楽しみ。


「海は初めてだな。水の中などどうやって戦うのか分からないが、魚介が美味しいらしい」

「美味いものがあるのは楽しみだな。いつかメルも連れて行ってやりたいな」

「それはいいね。魚介って領主様の結婚のお披露目会で食べたやつだよね?」


 僕たちはティーダを目指して走っていくことにした。

 色んなものを見て、色んなことを経験して、色んな魔獣と戦いたい。


 3日走ると、ティーダの街に着いた。


「これが海?」

「そうだと思う」

「水が塩の味なら海じゃないか? ちょっと舐めてみるか」


 僕たちは誰も海を知らなかったから、この湖みたいに見えるところが海なのかどうか分からなかった。


「お! すごい、これは海だな。水が塩味だ」

 ルシカが砂の地面のところを歩いて行って水を少し舐めると驚いたような声でそう言った。


「海って魔獣いるんだよね? そんなに近づいて大丈夫?」

「大丈夫だろ。海に引き摺り込まれたら危ないが、その前に切り刻めばいい」

「そうだな」


 そっか。確かに。水の中で戦うのは難しそうだけど、引き摺り込まれなければそんなに問題ないかも。

 僕とゲオーグも水に近づくと、水をちょっと舐めてみた。

 本当に塩水だ。不思議。


 ザバーっと水が押し寄せてきたり引いたりしていて面白いし、この砂地は歩きにくいけど柔らかくて感触が楽しい。


「そろそろギルドに行くぞ」


 ここが海ってことが確認できたから、僕たちはギルドに向かうことにした。

 どんな魔獣がいるか楽しみ。


 ギルドはお昼を過ぎているからか、冒険者はいなかった。

 僕たちはAランクになったから、Aランクの依頼ってどんなのがあるのかなって思って掲示板を見たら、護衛依頼しかなかった。護衛依頼は護衛依頼でも、船に乗って海を渡るような日数のかかるもの。

 その依頼の紙は色褪せていて、まだ受け付けているのか分からない。

 それ以外はAランクの依頼はなかった。


 他のランクの依頼も見てみたけど、残ってるのは農家や牧場の手伝いと、薬草採集、どこの森にでもいるような弱い魔獣の討伐依頼だけだった。


「ホーンラビット、ゴブリン、レッドボアか……こんなのを受けても仕方ないよな」

「せめて鳥系なら投擲の練習できたのにね」

「そうだな」


 受付に海の魔獣について聞いてみることにした。


「すみません、ティーダの海に出る魔獣ってどんなものがいますか?」

「シャーク、ブラックサーモン、これは魚ですね。あとはシーサーペント、クラーケン、キングシュリンプなどがいます」


「どうやって倒すんですか?」

「人によりますが、弓矢で倒したり、槍やナイフを投げたり、魔術で倒す人もいます。

 陸に近い場所まで誘き寄せて剣で戦う人もいますが、剣は短いと逃げられることが多いです」


「倒した魔獣はどうやって海から引き上げるんですか?」

「ロープがついた槍を投げて、そのロープを引いて引っ張り上げます。ずっと前に海から陸に向かって風の魔術か何かで飛ばした人もいましたが、普通はできません」


 倒しても回収するのが難しいんだ。海の中に拾いに行くなんてできないもんね。

 海が深かったら沈んでいく前に引き上げなきゃいけないのは大変そうだと思った。


 そうだ、ムートに連絡してみよう。ムートも海って見たことあるのかな?


「伝言をお願いします。ムートに『王都を出てティーダという海の街にきてるよ、海を初めて見て、海の魔獣とも戦ってみるつもりだ』と」


「ムートさんという人は何人かいます。歳やランクは分かりますか?」

「14歳でGランクです」

 ムートは先月14歳になった。僕より少し早く、ちょっと大人になった。僕もすぐに追いつくからね。


「確認できました。伝言をお預かりします。伝言が届いていますが確認されますか?」

「はい、お願いします」


 伝言はルヴォンとグレルからだった。今、パリスタにいて、やっと落ち着いてきたから、案内するしパリスタに遊びに来ないかって内容だった。


「ルシカ、ゲオーグ、ティーダの次の目的地はパリスタでいい?」

「いいぞ」

「今は戦争もしていないし、いいんじゃないか?」


「ルヴォンとグレルに『今ティーダにいるから少し観光したら向かう』と伝言をお願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る