356. 爵位と目標
「よく戻ってきたな。ビマグーンはどうだったんだ?」
団長の部屋に帰還の報告に訪れると、団長は僕たちの話を聞くのを楽しみにしているみたいにニコニコしていた。
世界樹の育て方の話をして、色んな植物の話をして、オークの群を討伐した話もした。
「それは聞いてる。トルーキエの王と将軍からうちの陛下に感謝の手紙が届いていたからな」
そうなんだ。トルーキエの王様は手紙まで書いてくれたんだ。
「でだ。嫌かもしれないが陞爵だ」
「え? 僕たち秋に陞爵してもらったばかりじゃない?」
「そうです。貴族というものはそんなに簡単に爵位があがるものなのですか?」
「いや、俺は一度も上がったことはないし、騎士団の奴らは騎士爵には上がる者もいるが、短期間にあがる者はいない」
「じゃあ僕たちもみんなと同じでいいです」
「そうだな」
僕たちは元々平民だし、騎士団に貢献したわけでもないんだから、そんなにあがるのは変じゃないのかな?
「ダメだ。陛下もウィルもお前たちの爵位をどんどんあげたいんだよ。外交はそう簡単に進められるものではない。とにかくこれは決定事項だ。拒否権は無い」
「俺は家族もいるので無理です。俺の妻は平民だし、社交の場には出したくない。
それに俺は、シュペアのように将来のために地位を上げる理由もないし、ゲオーグのように民のために働いたりもしていない。俺はこれ以上爵位を上げられるなら騎士団を辞める」
団長が決定事項とか拒否権は無いとか言うから、ルシカは強い口調でそれを突っぱねていた。
僕は、ルシカが言ったように、将来のために地位をあげておく必要があるんだろうか? 領主様の護衛であれば名誉騎士爵でもいいと思うんだけど、側近となって支えていくなら、地位が必要になるの?
「ルシカの言い分は分かる。そこは陛下とも再度検討しよう。しかしシュペアとゲオーグの二人には受けてもらう」
「男爵になるのも子爵になるのも、俺にとっては大差ない。どうせ長期研修が終われば貴族だ。逃れられないなら、俺はそれを受け止めることにする」
「お、ゲオーグ、格好いいな」
「ルシカ、こんな時に揶揄うな」
「ゲオーグはいつでも格好いいよ」
「じゃあ決まりだな」
ゲオーグは本当に格好いい。僕はまだ貴族のことがよく分かっていないから不安がたくさんある。僕もゲオーグみたいに狼狽ずに現実を受け止められる大人になりたい。
エトワーレの王都に戻って、すぐに出立するつもりだったんだけど、陞爵の手続きがあるからってことで10日くらい王都で過ごすことになった。
その間にクライトにはビマグーンのお土産として草木染の布を持っていった。
クライトのお父さんとお母さんには、トルーキエの豆のお菓子も届けて、僕は帰りの馬車の中でラオさんとして話をクライトにしてあげることにした。
「シュペア、お土産ありがとう。これは初めての柄だ。創作意欲がどんどん湧いてくる!」
「それはよかった。創作意欲が湧いてるところを止めて悪いんだけど、いい話を持ってきたんだ。」
「ん? いい話?」
「ヘンドラー商会の会頭の息子でラオさんって人がいるんだけど、その人は毎年冬に各国を行商人として回っているんだ。」
「行商人か。色んな国に行けていいな」
「そうなの。でね、もしクライトが行商の手伝いをするなら、その行商の旅にクライトを連れて行ってあげてもいいよって言ってくれてるんだ」
「え? シュペア、それ本当か?」
「うん。クライトは他の国の服を見てみたいって言ってたでしょ? その話をしたら、ラオさんが提案してくれたの」
「行く! 俺行きたい!」
クライトは僕の手を取って、部屋の中をグルグル回って、自作の歌まで歌ってる。ハサミとか針もあるのに危ないよ。
騒いでたから、クライトのお父さんが来て怒られたけど、喜んでくれてよかった。
ラオさんにクライトを紹介するけど、後の計画は2でやってもらう。
僕はまた旅に出るし、帰ってくるのは秋の終わりか冬になる。クライトとは入れ違いになったら会えないけど、僕はクライトの夢を応援したい。
ムートにもちゃんと定期的に連絡をしている。エトワーレに戻っていて、また数日後に旅立つことも連絡した。
クンストにいるリヒトにも会いに行った。
ミランは相変わらず行方知れずになってるみたいだけど、荒野の世界樹を見守る基地の建設も進んでいるし、世界樹の育て方を学んだブラットさんが帰ってきたから、もう世界樹のことは大丈夫だろう。
ルシカの陞爵については検討を重ねて、ルシカの意思を尊重することになった。
そして僕たちは、何度目かの式典用の白い制服を着て陞爵の儀式を終えると、すぐに出立することになった。
あと半月もすれば、僕は14歳になる。
13歳はあっという間だった。僕は僕の中で一つ決めていることがある。
15歳の成人。それを目標地点として定めて、それまでに領主様の側近として相応しい強さと知識をつけること。
15歳の成人の義まであと1年半。僕はそれまでにできることを全部やりたい。
だからこんなところで止まっているわけにはいかないんだ。
Aランクになったのは通過点。もっと色んなことを知って、もっと強くなるんだ。
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