10. ゲオーグ視点



今日はシュペアがギルドの講座で勉強する日なので、ルシカと一緒に討伐依頼を受けた。



「なぁ、シュペアって、何者なんだ?」

「俺も分からん。肉が貴重でリンゴジュースも無いし貨幣が使われていないような小さな村の出身らしい。」


「そんなところで育って、何であの歳で冒険者をやってるんだ?」

「詳しくは聞いてないが、親を捨てたと言っていた。」



「余程のことがあったんだろうな。あんなに良い子が親を捨てるなんて。」

「1人で何日も歩いてこの街に来たと言っていた。お前が絡んだあの日だ。」



「最近じゃないか。」

「あぁ、荷物はあの自作の槍1本。飯も食わず水が出せるから水を飲んでいたと言っていたよ。

しかも、夜は木の上に登って寝ていたと。」


「それを聞くと田舎の村の子って感じもするが、魔術の腕がな。」

「あぁ。重力操作って知ってるか?」



「確か最近流行ってる中身の重さを感じないカバンのやつだよな?」

「そうだ。考えてみろ、俺とシュペアがいくら身体強化を使ったとしても、ワイルドベアを街まで運ぶとか無理だろ。」


「確かに。まさか、シュペアは重力操作を使えるのか?」

「軽く説明したら、試してみたいと言って、1発で再現した。」


「それはヤバイな。それ、誰にも言ってないんだよな?」

「あぁ、これは言えねえわ。」


「俺たちで守ってやらないとな。」

「そうだな。シュペアを一人にしたくない。変なやつに絡まれそうだ。最悪攫われる。早く倒してさっさと帰るぞ。」


「おう、分かった。」

「そういえば、魔術は領主様に教えてもらったって言ってたな。それ以降は独学らしい。」


「領主様って、あの領主様か?」

「あぁ、そうだ。」



「へぇ、領主様はそんなこともしているのか。凄いなあの人は。」

「あぁ。たぶんシュペアは領主様に憧れているんだと思う。その話をした時のシュペアは輝いていた。」


「ははは、嫉妬か。

あの人なら仕方ないよ。誰も敵わない。」

「嫉妬じゃねぇ。俺らはシュペアのパーティーなんだ。そっちのがいいだろ。」



「まあな。」

「・・・ただ、シュペアは大人になったら領主様のところに行きたいと言うかもしれない。

その時は、ちゃんと送り出してやりたい。」


「そうか。分かった。俺もそうしよう。

なに、ルシカが寂しくて泣く時は俺が付き合ってやるよ。」

「泣かねえし、泣くなら胸筋が発達したゴツい男の胸じゃなくて、色っぽいお姉さんの胸で泣きたいわ。」


「いや、さすがに胸は貸さん。気持ち悪いだろ、お互いに。」

「まぁな。」



いい奴だな。ルシカも。

俺はこのパーティーに入れて幸せだ。


シュペアが成人するまでの5年だけだったとしても、きっと俺の人生の中で幸せな時間になるだろう。




俺たちはさっさとミノタウロスを倒して、身体強化を使って担いで帰った。


槍と斧だが、意外といいバランスで、共闘も問題なくいけた。




冒険者ギルドの受付近くで待っていると、講座を終えたシュペアがやってきた。



「2人ともお疲れ様。今日はどんな依頼を受けたの?」


ニコニコと話すこの少年が、俺に癒しをくれる。


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