8. 勉強と新しい仲間

>>>勉強します


「ルシカ、ルシカは今日何するの?」

「シュペアが夕方まで講座だから、何か簡単な依頼でも受けるよ。」


「そっか。」

「なんだ?寂しいのか?」


「そんなことないけど、気を付けてね。」

「おぅ。任せな。」


僕の今日の講座は、午前中が数字と計算、午後は文字と一般教養だ。


勉強するなんて初めてだったけど、楽しかった。

子供は僕だけで、周りは大人みたいに見えた。でも、みんな若そうだった。



お昼はギルドの売店でパンを買って食べた。ここで初めてお金を使った。

凄い。お金ってこうやって使うんだ。

商品の棚には数字が書いてあった。

それが値段だって売店のおばちゃんが教えてくれた。

数字はさっき習ったから分かる。

計算はまだ指を使わないと分からないけど、数字が読めるのは楽しかった。



午後の文字の講座と、一般教養の講座は、他に誰もいなくて、教えてくれる人と2人で勉強した。


シ ュ ペ ア


僕は、自分の名前が書けるようになった。

嬉しい。



一般教養の講座が終わって、ギルドの受付の近くでルシカを待っていると、この前僕を突き飛ばした斧を持った人がギルドに入ってきて目が合ってしまった。


するとその人は僕に向かって歩いてきた。

また突き飛ばされるのかと思って俯いていると、僕の前で立ち止まった。

俯いていた僕には、汚れたブーツしか見えなかったけど、やっぱり少し怖くて顔を上げることはできなかった。


「坊主、悪かったな。この前は突き飛ばして。」

「え?」


思ってもみなかったその人の言葉に、僕はその人を見上げた。

すると、その人はバツが悪そうに目を逸らして頬を掻いていた。


「いや、ガキだと舐めて悪かったよ。

昨日1人でワイルドベア倒したんだってな。」

「うん。」


「そっか。小さいけど一人前の冒険者なんだな。」

「ううん。僕まだ子供で一人前じゃないよ。ランクもまだGだし。」


「そうか。それだけ強いのに。まだ登録したてなのか?」

「うん。まだ2回しか依頼受けてないの。」


「お前ならすぐにランク上がるだろうな。」

「そうかな?そうだと嬉しいな。」



「お前、俺のこと怖くないのか?」

「うん。もう大丈夫。本当は優しい人だって分かったから。」


「そうか。俺はゲオーグ、お前は?」

「僕はシュペア。」


「シュペアか。覚えておく。困ったことがあれば俺に言え、何とかしてやるから。」

「うん。ありがとう。」




「おい、お前はまた子供に絡んでんのか?」

ゲオーグと話をしていたら、ルシカが戻ってきた。


「ルシカ、違うよ。ゲオーグはこの前のこと謝ってくれたんだ。」

「本当か?嫌なことされていないか?」


「だから違うって。ゲオーグはいい人なんだ。何もされてない。仲良くなっただけ。」

「仲良く・・・。」


「強くて可愛いから狙ってんじゃねぇのか?」

「いや、そんなことはない。この前はパーティーが喧嘩で決別したところだったから苛立ってて、いや、言い訳だな。

シュペア、悪かった。」


ゲオーグは僕に頭を下げた。



「ゲオーグ、顔を上げて。みんな見てるし。僕はもう気にしてないから。」

「分かった。」


「意外とまともな奴か。ゲオーグと言ったな、俺はルシカだ。

シュペアは今、俺が面倒を見ている。」

「そうか。何かあれば俺も協力するから、声をかけてくれ。」


「お前、ランクは?」

「俺はこの前Bに上がったところだ。」


「ふーん、俺はBだ。だいぶ前から。」

「ルシカ・・・、なんでゲオーグと張り合ってるの?」


ドヤ顔をしているルシカに疑問をぶつけてみた。



「いや、ゲオーグ、お前も一緒に飯行くか?俺は依頼の報告をしてくるからシュペアを守っとけ。」

「分かった。けど、いいのか?」


「いいと思うよ。これでゲオーグとルシカも友達だね。」

「そ、そうなのか?」


「違うの?」

「いや、そう、かな。」


「ゲオーグもBランクなんだね。強いんだね。凄い。僕も頑張ってランク上げる。」

「いや、まぁ弱くはないが、ワイルドベアを一撃では倒せないからシュペアの方が強いかもしれん。」



「僕はまだ力も弱いし、槍は投げただけだから。」

「そうか。十分凄いと思うけどな。」


「お待たせ。じゃあ行くぞ。」

「うん。」

「おう。」



僕たちは3人で、この前とは違う酒場に行った。

そして、僕は今日もリンゴジュースだ。


ゲオーグとルシカはエールを頼んでいた。

僕も大人になったら、エールというのを飲んでみたい。



「「「かんぱーい」」」



うん。今日もリンゴジュースは相変わらず美味しい。


「ゲオーグ、さっき言ってたパーティー解散したってのは?」

「あぁ、元々そんなに気が合うってわけでもなかったから喧嘩はしょっちゅうだった。あの日は特に酷い喧嘩でとうとう手を出してきて全員散り散りバラバラで解散だ。」


「そうか。じゃあ今はソロか。」

「あぁ。まぁな。そのうちどっかに入るかもしれん。ソロでは限界があるからな。」


「ねぇねぇ、パーティーって何?」

「パーティーってのは冒険者が何人か集まって、一緒に依頼を受けたり、一緒に旅をしたりするんだ。」


「そうなんだ。じゃあ僕とルシカはパーティーなの?」

「うーん、まぁ似たようなものだな。

登録してないから、まだ違うが。」


「登録するとパーティーになるの?

それならさ、ゲオーグも一緒に登録しようよ。」

「いや、えっと・・・。」


「ゲオーグがいいなら、いいんじゃないか?」

「そっか。ゲオーグが嫌だったら諦めるよ。」

「いや、嫌じゃない。むしろ嬉しい。」


「本当?じゃあ明日みんなで一緒に登録しに行こうね。」

「そうだな。」

「あぁ。」



「何だかシュペアといると荒んだ心が洗われる気がする。」

「あ~それ分かる!俺も。」


なんか分からないけど、ゲオーグとルシカは仲良くなったみたい。

そして、宿の隣の部屋にゲオーグが引っ越してきた。


翌日、3人でパーティーの登録をした。


「これで僕たちはパーティーなんだね。」

「あぁ、そうだ。」


ゲオーグもルシカもニコニコしている。

僕も嬉しい。


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