7. ワイルドベア討伐と魔力切れ

走っていると、突然嫌な感じがして止まった。

何かいる。


「ハァハァ、シュペア、お前身体強化でも使ったか?速すぎるだろ。」

少し遅れてルシカが追いついてきた。


「ルシカ、何かいる気がする。」

「お?お前分かんの?索敵か?」


「索敵?それは分かんないけど、なんか嫌なものがいる気がする。」

「確かにいるな。」


「あっち」

右斜奥を指差した。



「見に行くか?」


「大丈夫かな?危なくない?」

「俺がいるから大丈夫だ。無理なら身体強化かけて走って逃げればいい。」


僕たちは茂みを少しずつ掻き分けて、木の影から覗いた。



「あれは何?」

「熊だな。ワイルドベア、魔獣だ。」


「魔獣・・・」

魔獣は見たことがある。レッドボアは近くで見たし、ロック鳥は死んでいたけど領主様が狩ってきたのを見た。

でも、熊の魔獣なんて初めて見た。



「シュペア、鹿はどうやって倒した?」

「えっと、右腕に魔力を集めて槍を投げたら、それが鹿に刺さった。」


「そうか。それ、あいつにやってみろ。」

「え、そんなの無理だよ。怖いよ。」


「大丈夫だ。まだ気づかれてないから。それに強くなりたいんだろ?」

「うん。・・・分かった。やってみる。」



僕は右腕に魔力を集めて、槍を握った。

速く、鋭く、あの熊の心臓を貫け!

そう強く念じて槍を放す時に魔力を槍にも流した。



グェッ

ガアァァァァァァ!



心臓の辺りを貫いた気がする。

ワイルドベアは大声で吠えると、ゆっくりと前に倒れていった。

倒せた?



ルシカを見ると、驚いた顔をしていたけど、僕と目が合うと、うんうんと頷いた。


「シュペア、お前強いな。ワイルドベアなんて俺でも1対1じゃちょっと時間かかるのに。」

「たまたまだよ。ちゃんと心臓に刺さって良かった。」


「ん?心臓にターゲット設定して投げたんじゃないのか?」

「え?そうなの?確かに心臓を貫くよう力を込めたけど・・・。」


「それだな。うん、シュペアは感覚派か。それでターゲット設定ができたんだと思う。」

「そうなんだ。」


「さぁ、ワイルドベアを血抜きして、昼飯にするか。」

「うん。」



「ふぅ、結構キツかったな。」

「うん。」


蔓でワイルドベアを木に吊るしたけど、ワイルドベアは近くに寄るとかなり大きくて、ルシカと2人で身体強化を使って、どうにか吊るした。



「シュペア、水出せるか?手を洗いたい。」

「うん。」


木に吊るした時についた血まみれの手を出したので、僕はルシカの手に水をかけた。

きっと役に立ったから、要らないって言われないと思う。



「おぉー本当に水だ。凄い。ここにも入れてくれ。」

「うん。」


ルシカは木のコップを2つ取り出して切り株の上に置いた。


「こっちはお前の分な。」

「うん。ありがとう。」


「腕肉でも焼くか。」

「うん。」



僕が枯れ枝を集めている間に、ルシカはワイルドベアの腕を切って捌いていた。


「火は起こせるか?」

「できない。」


「じゃあこれを使え。白いところをギュッと押すと棒の先から火が出る。」


そう言って、僕に何か投げて寄越した。


受け取って白いところをカチッと押してみると、棒の先から小さい火が出た。

何これ凄い。

僕は枯れ枝に火をつけて、カチッ、カチッと何度もその棒から火を出してみた。



「焼くぞ。」

「うん。」


ちょっと硬かったけど、ワイルドベアの肉はとても美味しかった。



「ちょっと惜しいが、切り分けて持てる分だけ持って帰るか・・・。」

「そうだね。荷物が軽くなる魔術があればいいのに。」


「ん?あるぞ。まぁ使えるかは分からんが、重力操作って魔術がある。

俺のこのカバンにもその魔術が付与されているんだ。

だからたくさん入れても軽い。」

「凄い。本当にあるんだ。」



もしかして、領主様は使っていたんだろうか。あの大きなロック鳥を担いでいたのは身体強化だと思っていたけど、重さを変える魔術だったのかもしれない。


「ルシカ、試してみてもいい?」

「あぁいいよ。いっぱい練習しろ。使えるようになったら便利だからな。」


そう言って、木に吊るしたワイルドベアを降ろしてくれた。


ワイルドベアがフワーッと綿みたいな軽さになるイメージをして、魔力を少しずつ広げてワイルドベアを包んでいく。

時間はかかったけど、全体を包むことができたと思う。


できた、かな?

試しに右足を持ち上げてみる。

わ、できたみたい。



「ルシカ、できたみたい。」


「お?マジか。どれどれ、おースゲー!」

ルシカも反対の足を持って驚いた。


「シュペア、この魔術はいつまで持つ?」

「分かんない。」


「それは大変だ。魔術が切れる前に急いで運ぶぞ。」

「うん。」



僕たちは急いで片付けると、ワイルドベアを2人で担いで走った。


「シュペア、まだ魔力は残ってるか?」

「うん。」


「身体強化使うぞ。」

「分かった。」


たぶんまだ大丈夫だ。

さっきの重力操作でかなり使ったけど、冒険者ギルドまではもつと思う。



街に近づくと人がいて、ジロジロ見られた。

街の中はこの大きなワイルドベアを運ぶのが大変で、ちょっと時間がかかってしまった。


もう魔力無くなりそう。

冒険者ギルドに着くとフワッと力が抜けて、立っていられなくなった。



「おい、シュペア、どうした!!」

ルシカの声が遠くに聞こえた気がした。




気がつくと、僕はベッドの上に寝ていた。

ここはどこだろう?


ベッドの右には、ルシカが椅子に座って腕を組んで寝ていた。


「ルシカ。」

「お?おぉ、目覚めたか。気分はどうだ?」


「僕、どうなったの?ここは?」

「魔力切れだ。悪かったな、無理させて。ここはギルドの医務室だ。」


「魔力切れ?」

「なったことないのか?」


「うん。ない。」

「体内の魔力を使い切ると倒れるんだ。」


「あ、そうかも。ギルドに着いた時に、もう無くなるかもって思って、そしたら力が抜けちゃった。」

「そうか。次からは無くなる前に言うんだぞ。危ないから。」


「うん、分かった。

ワイルドベアはどうなったの?」

「ちゃんとギルドに買い取ってもらったぞ。なんと、金貨1枚だ!」


「そうなんだ。」

「あれ?なんでそんな反応薄いんだ?

金貨だぞ?裂傷がほとんどないから、毛皮が特に高く買い取ってもらえた。」


「僕、お金のことが分からないから、どれくらい凄いのか分かんない。」

「あぁ、なるほど。

昨日もらった茶色の銅貨が一万枚だ!」


「いちまん・・・。分からない。」

「そうか。不便だから数は覚えた方がいいな。計算も。あと文字も。

ワイルドベアでかなり稼いだから、しばらくはギルドの講座で勉強したらいい。」


「うん。そうする。

あ、僕まだ薬草採取の報告してない。」

「じゃあ後で受付に行こう。」


「僕はもう大丈夫だよ。」

「まだ身体が怠いだろう?」


「大丈夫。」


ベッドから起き上がって床に立ったら、フラついてしまった。



「ほら。まだ回復してないから、寝てな。寝てれば回復するから。」

「うん。分かった。」


僕はベッドに潜って、もう一度目を閉じた。

再び目が覚めると、外は真っ暗になってた。部屋には小さなランプが灯してあったけど、ちょっと薄暗い。

右を向くと、ルシカはまた椅子に座って腕を組んで寝ていた。

ずっと側にいてくれたんだ。


まだ魔力は半分より少ない。仰向けのまま、魔力を体の中でぐるぐるさせてみた。

そうしたら、魔力がだんだん増えていった。



「ルシカ。」

「あ?あぁ、起きたか?

んんー」

ルシカは大きく伸びをした。


「受付に依頼の報告して、美味いもの食いに行くぞ。」

「うん。」


薬草は、依頼達成で銅貨が5個貰えた。

そして、薬草の買取で小銀貨という銅貨より少し小さい銀色のお金を2個くれた。

この銀色のは、銅貨10枚と同じだって言われた。

凄い。これでパンがたくさん買える。


ーーーーーーー

お金の価値

銅貨(100円)

小銀貨(1,000円)

銀貨(10,000円)

小金貨(100,000円)

金貨(1,000,000円)

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